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ドイツ歌曲の話 詩人の恋 Dichterliebe #6 早口言葉ではない

3. 

Die Rose, die Lilie, die Taube, die Sonne,
Die liebt' ich einst alle in Liebeswonne.
Ich lieb' sie nicht mehr, ich liebe alleine
Die Kleine, die Feine, die Reine, die Eine;
Sie selber,aller Liebe Wonne,
Ist Rose und Lilie und Taube und Sonne.

ばら、ゆり、はと、太陽
愛の喜びであるそれらすべてが好きだった
でも今はもう好きじゃない
小さく、可愛い、清らかな彼女だけ。
彼女は愛の喜びそのものの
ばら、ゆり、はと、太陽なのだ

5行目のLiebe Wonne(愛の喜び) はハイネはLiebe Bronne(愛の泉)と書いており、シューマンが書き換えたもの。
日本語訳を見ると二行目のLiebeswonne(愛の喜び)を省略しているものが多く、実際文章にしにくいのだが、ここは五行目との繋がりを持たせるためにになんとか入れておきたい。またシューマンは「小さく、可愛い、清らかな彼女だけが好きだ!」の部分を繰り返して作曲している。

わずか五行の短い詩。

いかに早口で歌うかに命をかけているだけの演奏を聴くことがよくある。しかしmf、メゾフォルテと書かれているのだから、ある程度の音量をキープするためには速くするのに限界があると思う。なにより、速く歌うことそれ自体が目的になったら本末転倒。

シューマンの指示は Munter (いきいきと)であり、決してSchnell (速く)ではない。この恋する男のワクワクドキドキ感を、いかにテンポに表すか。ブレスもなかなか難しい。ほんの何十秒かの曲なのに実は難曲。

この曲は歌だけがアウフタクトから始まる。

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調はニ長調で、前曲の下属調という繋がりの強い調。それに前曲の後奏が、歌い出しと同じ音なので、前奏はなくとも音を取るのに苦労はないはず。この辺は親切というか、よく出来てますね。


薔薇は「愛」の象徴。百合は「純潔」、「鳩」はヴィーナスゆかりの鳥。

両手とも16部音符で刻んでいたのが「彼女は愛の喜びそのもの」という言葉をきっかけに(楽譜の赤い線)左手が八分音符になる。そして左手にスラーが現れ、純潔を表す「百合」という言葉でクレッシェンドとリタルダンド。ピアノ左手は下行形、歌は上行形で広がりが生まれる。このあたり、ますます早口言葉は忘れて繊細に表現したいところ。

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