アーバニズムはチャレンジを糧に進化する
text:吹田良平
photo:Trent Szmolnik on Unsplash
何世紀も前から、都市の脅威は、パンデミック、犯罪、テロと決まっていた。都市は幾度もそれら災害に見舞われ、そのたびに危機を克服してきた。
14世紀にはヨーロッパで黒死病(ペスト)が発生。ヨーロッパ人口の1/4から1/3が死亡したとされる。1918-20年にかけては「スペイン風邪」のパンデミックが発生。推定感染者数は世界人口の25-30%(WHO)に及んだ。1970-80年代にはニューヨークが荒廃。州は財政破綻の寸前にまで陥り、暴動や犯罪が蔓延した。2001年にはアメリカ同時多発テロ。アメリカ経済の象徴、WTCビルが崩壊、被害額は最低でも100億ドル(IAGS)以上とされる。
ペストの後、フランスでは下水道が整備され、イタリアではルネサンスが勃興、文化的復興を遂げた。スペイン風邪の後は、ピカソ、モディリアーニ、シャガール、ダリら芸術家たちが、世界各地からパリに集まり、「狂乱の20年代」が始まる。「ジャズ・エイジ」を描いた、F.S.フィッツジェラルドが活躍したのもこの時代だ。1970-80年代のニューヨークの荒廃からは、ヒップホップが生まれた。バスキアが絵を描き、ジムジャームッシュが『ストレンジャー・ザン・パラダイス』を撮った。アメリカ同時多発テロの後、2009年6月よりアメリカ経済は「史上最長の好景気」を続けている。2018年、NYのVC投資額は141億ドル、世界第2位の起業都市となった(JETRO)。
そして再び、都市は未曾有の災難に見舞われた。世界の経済が止まり、その被害はリーマンショックの比ではないとの試算が相次ぐ。都市の近接・高密性は否定され、オフィスの床は今後半分で良い、との意見も出はじめた。一方、人口密度とウイルス感染率は比例しない、との調査結果(世界銀行)が発表された。
アーバニズムが社会生活と経済活動の面で最も重要な推進力の1つであることは、紛れもない事実である。アーバニズムで最も重要な要素は”近接性と高密性”だ。多くの人が郊外に住む日本でも、経済的革新の大部分は都市圏や都心で発生している。知識経済社会の労働者が暗黙知の交換を行うのに都合のいい場所が都市だからだ。そして今、われわれは近接性の価値を痛感している。
”テレワーク”がパンデミックと経済の共存をうまく解決してくれる、という考えは牧歌的過ぎる。外出制限や自粛要請が続けば、経済は中小企業や個人事業者からたちまち崩壊していく。自粛と補償、財政再建と財政出動、民主主義とデータ監理、景気・雇用対策と統治の危機…。今後、検討すべきことは多いが、そのいずれもアイディアの新結合が起こりやすい、近接・高密な都市で創案されると信じている。都市はチャレンジを糧に進化する。かつて、どん底のNYからヒップホップが生まれたように。
MEZZANINE編集長プレゼンツ
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