【MeWSS論文コラム】 疫学研究論文のすすめ

 論文の引用率を効率的に稼ぐのなら疫学研究論文に限ります。総説専門誌の中に極端にIFが高いものがあるために、総説を載せると雑誌のIFが上がるとのご意見を聞くことがありますが、それはその「雑誌」その「著者」だからで、基本的に総説論文は引用しにくいものです。立派なRCTの論文はもちろん引用されますが、論文掲載に至るまでの労力とコストを考えると、疫学研究論文の方がはるかに費用対効果が高いものと言えるでしょう。なぜならIntroductionにDisease burdenや最新の患者数データを書かない医学研究論文は、ほとんどないからです。

 日本人患者のみを対象とした論文を書いていて、Introductionに引用できるデータがなくて困ること、多くないですか?結果、グローバルなburden研究論文や国勢調査のウェブサイト、あるいは10年以上前のコホート研究の論文を引用しなくてはならないご経験はありませんか?
 つまり、日本人を対象とした疫学研究の論文の数が足りていないのです。

 疫学研究の論文を出したら、確実にその論文のIFは上がります。なので、例えば新しく発刊した学会英文誌など、ぜひ積極的に疫学研究論文の採用をご検討ください。雑誌のIFがどんどん上がっていくでしょう。また、できたら学会で呼びかけて全国レベルの疫学共同研究を支援していただければと願っています。
 別に大掛かりなコホート研究でなくても構わないと思います。もちろん継続的なコホートが増えれば、実行可能な研究はとても増えていくでしょうけれど、コホートの維持は大変です。先人が立ち上げたコホートを引き継いでくれる後輩を見つけるのは簡単ではないでしょう。であれば、単年の研究でも構わないのです。その結果は2024年の結果として引用できます。
 日本から発信する研究の価値の一つとして、高い高齢化率というバックグラウンドがあります。先進国全体の傾向ではありますが、日本が顕著な部類であることは確かでしょう。さら高齢者が長生きする長寿社会でもあり、行政レベルで高齢者支援の健康維持プログラムも多く動いているでしょう。interventionの効果を調べるには長期のフォローアップが必要ですが、そのほかにも得られる疫学情報はたくさんあると思います。
 コホートは維持が大変だと書きましたが、長く継続しているものもあります。日本で進行しているコホート研究をまとめたAMEDのレポートを数年前に見たことがあります。せっかく立ち上げて維持しているコホートならぜひそれを有効活用していただきたいものです。そのコホートの責任研究グループの興味ある分野だけの情報収集だけにとどまるのは、とても勿体無いと思います。見ず知らずの若い研究者からいきなり共同研究の申し込みは難しいかもしれませんので、そこは学会で支援していただければ進みやすいでしょう。
 平時の疫学情報は、新しい発見を求めるものではありません。これまでの情報をアップデートするだけでも価値があり、さらにより大きなサイズ、あるいは広い地域というように前進させることができればなお素晴らしいです。オリジナリティー、新規性を求めるだけではなく、こういった必要な情報を重視していただける雑誌がもっとあればいいなあ、と願います。