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Designship 2023 公募セッション|デザインプログラムマネージャーになって気づいた「これもデザイン」

この記事は、GMOペパボデザイナー Advent Calendar 2023 24日目の記事です。


こんにちは、GMOペパボのmewmoです。
普段はIT事業会社、GMOペパボにてデザインプログラムマネージャーとして働いています。

この「デザインプログラムマネージャー」という少し耳慣れない職種の仕事について、今年の10月1日に国内最大級のデザインカンファレンス「Designship」にて登壇の機会を頂いて話してきました。

実際の登壇資料はこちら。

登壇資料はプレゼン用でテキストが少ないので、今回は実際に口頭で話したことをベースに内容を補足して記事にしたためていこうと思います。長めの記事となりますがお付き合いいただけますと幸いです。

デザインプログラムマネージャーの役割

みなさんこのセッションに来ていただいているということは、少なからずデザインプログラムマネージャーやDesignOpsという言葉を聞いたことがある、興味がある、という方が集まっているのかなと思います。
しかし現時点でデザインプログラムマネージャーのことをよく知っているという方は少ないのではないでしょうか。

私はデザインプログラムマネージャーになって今5年目ですが、実は私もこの仕事を完全に理解しているわけではなく、日々模索しながら仕事をしています。

そんな私がどのようにこの仕事に出会い、取り組んでいるのか。そしてこの仕事を通してどのような学びや気づきを得たのか、みなさんにお伝えしていこうと思います。

デザインプログラムマネージャー・DesignOpsとは

「デザインプログラムマネージャー」
このロールの役割は書籍「デザイン組織のつくりかた」で次のように定義されています。

デザインプログラムマネージャーは、クリエイティブな品質とは別に、デザイン以外の部門とのコミュニケーションを担い、デザイナーが本業に集中できるようにして、デザイン組織の有効性を最大限に高めることを役割としている。

ピーター・メルホルツ、クリスティン・スキナー著
デザイン組織のつくりかた デザイン思考を駆動させるインハウスチームの構築&運用ガイド

また今回のDesignshipのテーマに設定されている「DesignOps」。
これはニールセンノーマングループのDesignOps 101で、こう定義されています。

Definition: DesignOps refers to the orchestration and optimization of people, processes, and craft in order to amplify design’s value and impact at scale.

(和訳)
DesignOpsは、デザインの価値と影響を大規模に拡大するために、人、プロセス、技術を組織化し、最適化すること。

DesignOps 101 ― Nielsen Norman Group

InVisionから出ているDesignOps Handbookでは、DesignOpsは次の4つの領域に分解できると書かれています。Workflow、People、Governance、そしてTools&Infrastracture。 この4つの領域についてはまたあとで触れていきます。

DesignOpsを4つの領域に分解して表した図。Workflow、People、Governance、そしてTools&Infrastractureの4つの領域によって、CRAFT、METHOD、PROCESSESを支える運用として機能することを表している。
DesignOpsを分解した4つの領域(引用: InVision ― DesignOps Handbook)

なぜデザインプログラムマネージャーのような役割が重視されるようになったのか

こうした役割やオペレーションが重視されるようになった背景として、少し製品・サービスとそのデザインの歴史を振り返っていきたいと思います。

産業とデザインの変遷を表した年表の図。詳しい内容は本文に後述。
産業とデザインの遷移(引用: 経済産業省・特許庁 ― 「デザイン経営」宣言)

こちらは経済産業省から出ている「デザイン経営」宣言に掲載されている図です。

昔はデザインの対象となる製品はハードウェアとエレクトロニクスの組み合わせ領域が中心でした。 自動車や家電などですね。
90年代になるとコンピューターが登場したことでソフトウェアが加わり、さらにインターネットの普及によってネットワーク・サービスが加わりました。
またさらにiPhoneをはじめとするスマートフォンの登場によって、これらの組み合わせ領域はより加速していきます。
現在ではさらにデータ・AIを加えた組み合わせ領域にシフトしています。

こうして見ていくとデザインする対象がとても複雑になっていっていることがわかると思います。
このような組み合わさった領域を個人でデザインしていくことはとても難しいですよね。実際にサービスを作っている会社では個人ではなくチームで開発していることが多いかと思います。

このような背景から、デザインが個人ではなく組織的行為になり、組織的にデザインに取り組むためのメソッドや運用が重視されるようになりました。

しかしいざ組織的に取り組もうとすると、さまざまな課題が出てきます。

たとえば、アウトプットのクオリティがバラバラだったり、迷ったときの判断軸が個々人の経験則に基づくものであったり、使ってるツールがバラバラで非効率であったり、部署ごとにサイロ化しがちだったり、スキルアップの仕方が分からなかったり、採用のために自分たちの魅力を伝えたいと思っていたり…会場でもうなずいている方がいらっしゃいますね。

これらを解決するためにはこのようなアクションが必要になってきます。

組織的にデザインに取り組むうえでの課題とアクションの一例。詳しくは本文に記載。
組織的にデザインに取り組むうえでの課題とアクションの一例

ドキュメントやアセットの整理、指針やガイドラインの策定・共有、ツールの整備・管理、部署を超えてのコラボレーション、成長支援の場づくり、デザイン広報…どれも組織的に取り組むうえで大事です。

しかしこれらのアクション、デザイナーの仕事だと思いますか?

もちろんデザイナーがやってもいいんです。けれど、作ることが本職のデザイナーにとってこのようなメタ的な仕事、メタワークは、必ずしも得意であったり楽しいものではなかったりしますよね。
そこが組織でデザインしていくことの難しさだと思います。

そこでそれらのメタワークを専任でやってくれるポジションの人がいたらよさそうに思いませんか?

それが私のやっている、デザインプログラムマネージャーの仕事です。

デザインプログラムマネージャーとの出会い

しかし、私は最初からデザインプログラムマネージャーだったわけではありません。もともとデザインプログラムマネージャーを志していたわけでもありません。

雑多なデザイン領域を学んだ大学時代

私は慶應義塾大学の環境情報学部、SFCと呼ばれている環境で雑多なデザイン領域を学びました。

大学時代に学んだデザイン領域、以下列挙。デジタルファブリケーション、オープンデザイン、プロダクトデザイン、インタラクションデザイン、デザインリサーチ、空間設計、ランドスケープデザイン、エディトリアルデザイン、視覚情報デザイン、DTP、場づくり、コミュニケーションデザイン、インクルーシブデザイン等。
大学時代に学んだデザイン領域

エディトリアルデザインやDTPといった平面的なデザインから、ランドスケープデザインや空間設計といったスケールの幅が広いデザイン、またコミュニケーションデザインや場づくりといった抽象的なデザインまで、多くのデザインに触れる機会がありました。

大学では最終的にランドスケープ領域の研究室で「本のデザインを通して風景をデザインすることは可能か」という卒業プロジェクトのタイトルで卒業しました。

卒業プロジェクト「本のデザインを通して風景をデザインすることは可能か」を2017年度石川初研究室展示会「LANDWALK.KIT」で展示した時の様子の写真。プロジェクト概要を記載したパネルに加え、プロトタイプとして制作したいくつかの「本」を展示している。
卒業プロジェクト「本のデザインを通して風景をデザインすることは可能か」を
2017年度石川初研究室展示会「LANDWALK.KIT」で展示した時の様子

ちなみに余談ですが、今年のDesignshipで開催されている企画「デザイナーの星座を描こう」、みなさん会場で見かけられましたか?
私の過去・現在・未来に触れてきた/今後触れていきたいデザイン領域を星座にするとこんな感じでした。

企画「デザイナーの星座を描こう」で描かれた自分の星座。自分の過去・現在・未来で触れた/触れるであろうデザイン領域として、DTPデザイン→ブックデザイン→エディトリアルデザイン→ランドスケープデザイン→空間デザイン→デザインリサーチ→UXデザイン→ブランドデザイン→組織デザイン→ビジョンデザインの順で点を線で繋いで星座としている。
企画「デザイナーの星座を描こう」で描かれた自分の星座

そんなこんなでさまざまなことを学んだ大学時代でしたが、美大や芸大のように体系化されたカリキュラムではなく、自分で自由に選択して学ぶ形だったので、当時はどれかに突出した専門家ではなく、「器用貧乏ななんでも屋」といった立ち位置であるコンプレックスがありました。

転職活動闇時代の襲来、そしてDPM時代の幕開け。

数字「32」
32。この数字は一体…

32。

この数字は私がペパボに入る前、9ヶ月の転職活動期間の間に落ちた会社の数です。 まさかと思うんですが実話です。怖いですねー(白目)

大学時代から現在に至るまでの4つの時代を表した図。詳しくは本文に記載。
大学時代から現在に至るまでの4つの時代
「大学時代」「編集者時代」「転職活動闇時代」「DPM時代」

今振り返ると大学時代から現在に至るまで、短いながら4つの時代がありました。 4年間デザインを学んだものの就活に失敗してデザイナーにはなれず、ツテで小さな編集プロダクションに新卒入社しますが、最終的に胃腸を壊し退職します。
そしてここから転職活動闇時代が始まります。ここで落とされた会社の数が32。自分の学んだことや持っているスキルはどこにも必要とされないものなのだと感じて自己肯定感が人生でマックスにだだ下がります。
しかしここで一転、2019年9月にデザインプログラムマネージャーとしてGMOペパボに入社し、DPM時代が幕を開けます。

しかしなぜ突然、デザインプログラムマネージャーになったのか。

当時ペパボには40人ほどデザイナーがいて、現CDOの小久保がジョインして半年ほど経ったところでした。
彼は過去にGoogleで働いてた時にプログラムマネージャーと同じチームで仕事をしていた実体験から、「今後ペパボのデザイン組織を成長させるにはデザインプログラムマネージャーが必要」と確信し、マッチする人材を探していました。

2019年の6月9日に開催されたイベント「OnScreen Typography Day 2019」にたまたま参加していた私は、その懇親会でたまたま彼らと話す機会がありました。
そこで私の持つ雑多なデザインを学んでいたバックグラウンドと、大学時代・編集者時代に培ったスキル・経験が、デザインプログラムマネージャーにマッチするのではないか、というところで、採用選考のプロセスを踏んだのちデザインプログラムマネージャーとして採用されることになりました。

(いやほんとうにostd2019に参加しててよかった…。登壇では深掘りしなかったですが、この時の私はデザインに携わるどころか、毎日日雇いの飲食バイトを掛け持ちして日銭を稼いで、なんとか食いつなぐ日々を送っていました。当時ペパボにいて声かけてくれたsizuccaさん、そして現CDOのkotarokさんは私の人生を変えた命の恩人です、大感謝。)

デザインプログラムマネージャーを模索する日々

しかし突然デザインプログラムマネージャーになった私。
もちろんデザインプログラムマネージャーという仕事も今まで聞いたことがなかったし、何もわからない状態で入社することになります。
ここから模索の日々が始まります。

デザインプログラムマネージャーって何したらいいんだろう?

右も左もわからない状態で入社した私は、ひとまず最初にもらったこのお願いリストをもとに業務に取り組んでいくことにしました。

入社直後に共有してもらった「望月さんにお願いしたいことリスト」の一部。全体の流れとしてまずはコーポレートデザインチーム(CDT)で手を動かしてタスクをこなすことから始めて、1年後以降はCDT全体のオペレーションマネジメントを行ってほしいという要望や、そのタスクの具体内容について記載されている。
入社直後に共有してもらった「望月さんにお願いしたいことリスト」の一部

まあいろいろ書いてあったんですが、CDOからは1on1で「とりあえずいいかんじにしてほしい」とよく言われていました笑

しかし「いいかんじ」と言われてもその感覚がまだ掴めていないので、当時はひたすらCDOと脳内同期したり、困っていることを御用聞きしたり、そもそもペパボにおけるデザインがどういうものか勉強したり、部署外の色んな人とコミュニケーションしたり、といったことに取り組んでいました。
そうしているうちに、先程冒頭で挙げたような課題があるということがわかってきました。

組織的にデザインに取り組むうえでの課題とアクションの一例の再掲。詳しくは本文に前述の通り。
再掲: 組織的にデザインに取り組むうえでの課題とアクションの一例

私は横断組織であるデザイン部の所属なので、まずは俯瞰した立場からデザイナーが横で連携しながら組織的に取り組めるように、先程の課題解決に取り組んでいます。

ペパボのデザイナーの組織体制。縦割りの事業部にホスティング事業部、EC事業部、SUZURI事業部、minne事業部があり、それぞれの事業部にデザイナーが配属されている。横串の横断組織としてデザイン部があり、このデザイン部と事業部とで連携して情報共有しながら業務に取り組んで知る。
ペパボのデザイナーの組織体制

具体的にどんなことをやっているのか

具体的にどんなことをやっているのか、最初の方でちらっとお見せしたDesignOpsを分解した4つの領域に照らし合わせて紹介していきます。

それぞれ4つの領域ではこのようなことに取り組んでいます。
Workflowではデザインのアウトプットの品質管理、Peopleでは成長支援やパフォーマンスの最大化、Governanceでは評価・賞罰方法の設計や管理、また共通言語や文化の醸成、Tools&Ifrastractureではツールやガイドライン、作業環境の整備。

DesignOpsを分解した4つの領域それぞれで取り組んでいることの概要。詳しくは本文に前述の通り。
DesignOpsを分解した4つの領域それぞれで取り組んでいることの概要

具体的にペパボでやったことはこんな感じです。
Workflowでは組織全体でリサーチを活用できる体制づくり、Peopleでは成長支援の場づくりの仕組み化と定期実施、Governanceでは共通言語を浸透させていくための文化づくり、Tools&Ifrastractureではツールの統一化による効率化とコラボレーション促進。

DesignOpsを分解した4つの領域それぞれで具体的にやったこと。詳しくは本文に前述の通り。
DesignOpsを分解した4つの領域それぞれで具体的にやったこと

ひとつひとつ事例を交えながら紹介していこうと思います。

リサーチ顧問との協業

リサーチ顧問との協業を進めているNotionのプロジェクトページのスクリーンショットで、ステークホルダーやフェーズ、ゴールを整理している様子。
リサーチ顧問との協業を進めているNotionのプロジェクトページ

これは現在進行途中のものですが、Workflowの領域に当てはまる取り組みとしてリサーチ顧問との協業を行っています。

ペパボではリサーチに専門性を持つデザイナーが複数人いてリードしてくれている状態ですが、より組織的にリサーチに取り組める体制や文化づくりをしていくために、外部の専門家の力を借りて進めています。

こうした協業する人材の検討・打診や、また内部でリードしてくれるメンバーの選定、具体的な契約の事務手続き、そして協業中の過程・成果のトラッキングをデザインプログラムマネージャーとして行っています。

このプロジェクトでは実際に「リサーチを活用できる体制づくり」のためにいくつかの取り組みを行い、期待通りの成果を収めることができました。その内容については、リサーチ顧問を務めてくださったべぢまきさんや、社内でプロジェクトを推進してくれたまあやさんと一緒に、来年以降にご紹介できればと思ってます。お楽しみに!

Designer’s MTG(デザミ)

次にPeople、Governanceに当てはまる取り組みとして、社内デザイナーの勉強会「Designer's MTG」、通称デザミを2ヶ月に1回開催しています。

ペパボではデザイナーの専門性を6つのエキスパートスキルエリアに分けて定義しています。 このデザミでは、そのエキスパートスキルエリアごとにナレッジシェアを行っています。 このデザミの取り組みによって、デザイナー間で共通言語が浸透しやすい環境になっています。

ペパボのスキルエリアシステム。基礎となるスキルエリアとしてFundamental Skill Areasがあり、その上に優先度の高い専門性のスキルエリアとしてExpert Skill Areasが乗っていて、Communication Design、Visual Design、Information Architecture、UI Design、UX Engineering、Researchの6つのスキルエリアに分かれている。また持っているとさらに良い専門性のスキルエリアとしてOptional Skill Areasがあり、ManagementとMarketingの2つに分かれている。但書として、「この図では便宜的に書くエリアが排他的かつ明確に分かれているように描かれていますが、デザインとは全体性の強い行為であるため、実際の境界は曖昧で重なる部分もあります」と記載されている。
ペパボのスキルエリアシステム

デザミはZoomでオンライン開催していて、実際にInformation Architectureの回では、こんな様子でナレッジシェアをしています。

実際にデザミのInformation Architecture回がZoomで開催されている様子。ここではIAのエキスパートとしてkotarokが登壇し、この場面では、企画/マーケ、PDM/PJM、視覚/UIデザイン、実装、どの段階にもIAは存在していて必要であるということを説明している。
実際にデザミのIA回がZoomで開催されている様子

デザミを開催する前には、担当のエキスパートスキルエリアの中での最近の課題感や共有したいことをCDOやリードしているデザイナーにヒアリングして、今回どのような内容にフォーカスするか、それに伴いどのようなトピックを誰に話してもらうかのディレクション・ハンドリングをデザインプログラムマネージャーとして担っています。

Information Architecture回のデザミの準備時の議事録。CDOやスキルアリアをリードするデザイナーに最近の課題感や共有したいことを聞いて、ここでは最近IA的な取り組みが実施されていることやその中で用語集・オントロジーを作ることやメンタルモデルの理解について課題感を持っていることが書かれている。
デザミ準備時に最近の課題感や共有したいことをまとめている議事録

デザミが終わったあとには、「Design Documents」というペパボのパートナーであれば誰でもアクセスできる社内Googleサイトにて、録画と資料をアーカイブしてナレッジストックしています。

社内Googleサイト「Design Documents」にデザミの録画と資料をアーカイブしているスクリーンショット。回ごとにissue、Notionと、スピーカーごときに切り分けた録画と資料をまとめている。
社内Googleサイト「Design Documents」にデザミの録画と資料をアーカイブしたページ

Designer All Hands

デザミとは別に、半年に一度デザイナー全員が集合する共有会として「Designer All Hands」を開催しています。1部と2部に分かれていて、1部ではこの半年のデザインの取り組みや今後の取り組みの方針などが共有されます。

実際にDesigner All Handsが開催されている東京オフィスの様子の写真。全員がそれぞれの拠点のオフィスに集まって参加し、Zoom上でオフィス間を中継している。
実際にDesigner All Handsが開催されている東京オフィスの様子

これも毎回こんな感じで事前に何回かMTGを重ねて、テーマやトピック、登壇者を決めています。

Designer All Hands準備時の議事録のスクリーンショット。開催日程、今回伝えたいこと、トピックをこのページに書き出している。
Designer All Hands準備時にテーマやトピック、登壇者を書き出している議事録

2部では「褒め褒めタイム」と称して、この半年でデザインプリンシプルを体現したデザイナーの取り組みをピックアップして褒め称えるコーナーを開催しています。この取り組みによって、デザインプリンシプルの浸透につながっているほか、部署の違うデザイナーの得意分野を知ることで部署の垣根を超えたデザイナーのコラボレーション促進にもなっています。

褒め褒めタイムの一例。minneのハンドメイドマーケット2023のコンセプト・メインビジュアルを言語化・視覚化し実際のコミュニケーションに落とし込んで表現したことが、ペパボファンダメンタルデザインプリンシプルの「自分たちの遊び心も大切にする」や、コミュニケーションデザインプリンシプルの「メッセージとその表現を最適化すること」に該当する取り組みとして、その活躍をみんなで褒め称え合いました。
褒め褒めタイムの一例

新卒研修 / 中途オンボーディング

新卒デザイナー研修や中途デザイナー向けの共通オンボーディングも、これまでに登場したエキスパートスキルエリアやデザインプリンシプルに基づいて設計していて、これによりどのタイミングでペパボにジョインした人も共通言語を持って取り組める体制になっています。ここで使っている教材も過去のDesigner All Handsやデザミがもとになっていたりします。

新卒研修/中途オンボーディングのNotionページの一部

Figmaの全社導入・運用体制整備

またTools&Infrastractureの領域としては、昨年Figmaの全社導入・運用体制整備に取り組みました。

これまで事業部によってはFigmaを使っていたり、Sketchを使っていたり、XDを使っていたり...と使っているツールがバラバラだったので、アセットやリソースが共有しづらかったり、部署を超えたレビューのためにライセンスの二重管理が発生してしまったり、ノウハウを集約して効率化することが難しかったり...とさまざまな問題が発生していました。そこでFigmaに統一し、運用体制を整備しました。

使うツールをFigmaに統一した様子

ここで大変だったのが契約にあたっての事務手続きと運用ルールの策定で、年明けの利用開始に向けて法務・総務・経理、そしてシステム管理をしている部署とかなり綿密にコミュニケーションを取って進めていました。 こうしたメタワークもデザインプログラムマネージャーの仕事です。

Figmaへの統一に際しての契約書審査についてSlack上で法務とやりとりしている様子。通常のスケジュールでは間に合わなかったので、スケジュールの調整や手順の前後について相談している。
Figmaへの統一に際しての契約書審査についてSlack上で法務とやりとりしている様子

デザイン広報

またPeopleの領域としてデザイン広報も行っています。良い人材と巡り合うためには、まず自分たちのことをよく知ってもらわなくてはいけません。そのために取り組みを記事にしたり、登壇して発表したり、といった露出機会の設計や、実施に向けての準備やそれに伴う社外の関係者とのやりとりも、デザインプログラムマネージャーの仕事として行っています。

デザイン広報の一環としてCocodaに記事掲載したり、
Spectrum Tokyo Meetupにてペパボのデザイナーが登壇している様子
デザイン広報としてのアウトプットを検討しているNotionページ

ここまでさまざまな取り組みを紹介してきましたが、ざっくりまとめると組織でデザインする上での課題を解決するための仕組みづくり、を行っています。

小さいデザイン組織と大きいデザイン組織

さて、ここまで組織でデザインする、またはデザイン組織という言葉を使ってきましたが、みなさんはデザイン組織と聞いてどのような組織を思い浮かべますか? 実は2つあるんじゃないかと思います。

小さいデザイン組織と大きいデザイン組織を視覚的に表した図。大きいデザイン組織は、職種問わず組織全員で行う戦略としてのデザインを組織的に行うこと、小さいデザイン組織は、いわゆる専門職としてのデザイナーが担う制作とスタイリングとしてのデザインを組織的に行うこと。
小さいデザイン組織と大きいデザイン組織の図

デザイナーが集まって組織的にデザインの仕事をしている状態、そしてもう一つは職種問わず組織全員が自分の仕事がデザインだと捉えられている状態。どちらの状態を指しているのか曖昧なことも多いのではないかと思いますが、ここではあえて、小さいデザイン組織と大きいデザイン組織と呼び分けてみたいと思います。

デザイナー以外がデザインするとはどういうことなのでしょうか。
デザインという行為は、実は企業活動のさまざまな段階で行われています。

企業活動の一例を表した図

なにかものを作る行為だけでなく、セールスやサポートだったり、ほかにも事業戦略や人事・組織といったあらゆる面で、デザインは行われています。

ここで言うデザインとは、前提を疑い、理想を描き、それを実現するために物事を形作る行為です。 決して見た目や意匠を設計する行為だけではありません。

このように職種問わず全員が組織的にデザインに取り組み、個々人のスキルの足し算ではなく、掛け算で組織のケイパビリティを成長させていくことができたら、不確実性の高い今後のビジネスにおいてより価値をつくっていける組織になれると思いませんか?

足し算ではなく掛け算で組織のケイパビリティを成長させていくことを視覚的に表したイメージ図

大きいデザイン組織へのアプローチ

そんな組織に所属する全員が「デザインピープル」としてふるまえる組織にしていくことが、今後大きいデザイン組織へアプローチしていくなかでの目標です。

実はジョン・マエダさんがDesign in Tech 2023の中でデザイナーではなく、あえて「design people」と呼んでいるんですね。

Secondly, there’s been the recent spate of layoffs in tech. People are unnerved by this.
Like what does mean for especially design people in technology?

Design in Tech 2023: Design and Artificial Intelligence (Abridged) ― John Maeda

また去年のDesignshipで広野さんがopening talkで引用されてましたが、インダストリアルデザインの草分けとして知られるレイモンド・ローウィもこう言っています。

Design is too important to be left to designers.

Raymond Loewy

デザインはデザイナーだけに任せるには重要すぎる。

このようにデザインというのは、デザイナーだけでなく、職種問わずみんなが取り組むべきものであると古今東西の偉人たちが言っているわけですね。 では職種問わず組織全員でデザインしていくためにはまずどうしたらいいのでしょうか?

ずばり、デザイン思考実践のためのデザイン態度のインストールが必要だと考えます。

デザイン思考というのは、デザイナーやものづくりをする人が自然と身に着けている考え方や行動のことです。

デザイン思考のプロセスを視覚化したモデル図「ダブルダイヤモンドの」。4つの主要なフェーズ「発見(Discover)」「定義(Define)」「発展(Develop)」「提供(Deliver)」に分かれており、各フェーズはダイヤモンド形をしている。このモデルは、問題解決やイノベーションを促進するための探索(拡散)と解決(集約)のステップを繰り返し示している。
デザイン思考のプロセスを視覚化したモデル図「ダブルダイヤモンド」

例えばこのダブルダイヤモンドのモデルに表されているような問題発見と問題解決を繰り返して物事を改善していくような行動のことですね。

しかし、デザインやものづくりに携わっていない人はこのような考え方に馴染みのない方も多いと思います。それに、このモデル図を見せて型通りに真似してもらったからといって、それがうまくワークするとも限りません。このような考え方を実践していくためには、マインドの醸成が必要になってきます。

そこで重要になってくるのが、さきほど言った「デザイン態度」です。2015年にデザイン学者 カミル・ミヒレウスキが『Design Attitude』という書籍を出版し、この概念を提唱しています。

デザイン態度とは次の5つの態度のことを言います。

  1. 不確実性や曖昧性を積極的に受け入れる。

  2. 深い共感に従う。

  3. 現実を審美的に理解しようとする。

  4. 遊び心を持つ。

  5. 複雑な状況にも意欲的に立ち向かう。

これらの態度を身に着けたデザインピープルで構成された大きなデザイン組織を作るには一体どうしたらいいのでしょうか。

正直、実はまだわかっていません。私たちの組織にとっても、これは次の大きな挑戦だからです。ですが、これまで小さいデザイン組織の実現をしてきたなかで得た知見や次のような学びが、きっと大きいデザイン組織の実現においても役立つと信じています。

  • 現場の困りごとに向き合う

  • 社内からも社外からも学び続ける

  • 問題と解決を構造化する

  • 言語化し再現性持つ

大きいデザイン組織においても同じように、泥臭く、取り組み続けていきます。

発表の前半で述べたように、私は雑多なデザインを学んだ末にエキスパートになれないなんでも屋、という自覚がありそれがコンプレックスになっている時もありました。
本当にこのままデザインプログラムマネージャーとしてキャリアを積んでいいのか、もっとモノを作るデザイナーにならなくていいのかと迷い悩んだこともありました。しかし、結果としてデザインプログラムマネージャーという仕事ではその雑多な学びが生きていたように感じます。

そしてこの仕事を通して、

あれもこれもデザインだ

という視点を手に入れることができました。今では私はデザインピープルとして胸を張ってデザインしていると言えます。

以上が私の物語です。 私と同じように「これもデザインだ」「私もデザインピープルだ」と思える人が1人でも増えたら嬉しいです。ありがとうございました。

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