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俳優演出-経験を最大限に表現する

あなたは、良い俳優というと誰を思い浮かべますか?

では思い浮かべた俳優さんの一体なにが良いのでしょう?

その俳優と悪い俳優との違いを明確に答えることが出来ますか?

大げさな演技をしない
自然体に見える
セリフを覚えるのが早い
長台詞を言える

これらは全て解答ではありません。

もし上記の様な答えを思い浮かべたなら、あなたはまだ映画監督ではありません。まだまだ、観客目線で役者を見ていることになります。

映画監督の思考になるには俳優にとって演技とは何か映画にとって俳優の演技とは何かを知る必要があります。

①俳優にとって演技とは何か

そもそも、俳優はどのように演技をしているのでしょうか?
大前提として、人間は自分で経験した事以外の事はできません。

目の前にあるスマホを分解して、バラバラにして、元に戻して下さい。
なんて、云われても、殆どの人が出来ないでしょう。

自分の知らない何かを行う時、人は学び、指導を受け、練習し、その結果出来るようになります。

これは精神構造も同じです。

感情表現という精神的な表現も同じように、学び、指導を受け、練習し、その結果出来るようになります。

しかし、演技の難しい所は必ずしも同じ体験が出来ないと云うことです。

例えば『死んだ後、生き返った人の気持ちを演じてくれ』

などと言われても、誰にも分かりません。

では、俳優はどのように演じているのでしょうか。

それは『死んだ後、生き返った人の気持ち』に見えるように演じているのです。

どういう事だ?と、お思いかもしれません。

よく『役の気持ちになって』とか『その役になり切れ』などと耳にしますが
そんな事は不可能です。

人間には個人差があります。それは俳優も同じ。
そもそも、誰も死んで生き返った人の気持ちなんか分かりません。
だって経験した事が無いのだから。
観客は俳優の演技を見て「そう見える」と判断しているだけなのです。

では、もっと身近な話しから演技を考えていきましょう。

例えば、あなたが友人にお金を貸したとしましょう。大金です。
あなたはどうしてもそのお金を返して欲しい。しかし、友人は悪びれる様子も無く「今はお金がないから返せない」と言うだけでなく、逆ギレしだしました。

そんな時、あなたはどんな行動をとりますか?

①ただひたすら説得を試みる人。
②怒って殴りつけてしまう人。
③諦めて帰ってしまう人。
④誰かの手を借りて何とかしようとする人。
⑤絶望して泣き出す人

色々あります。これは個人の性格です。性格は容易に変える事は出来ません。特に感情を伴う場合の行動はコントロール不可能です。

ここで映画監督として、あなたは②の演技が必要です。しかし、俳優の性格は③だとします。その場合、俳優は②の演技をする事は出来ません。

俳優は分析によって "役の行動原理" を把握します。そう、頭ではきちんと理解しています。
しかし、感情表現になるとそうはいきません。
では俳優はどのように演じているのでしょうか?

それは②に見えるように自分の経験から、感情を引っ張りだしているのです。

俳優がこの例の様なシュチュエーションで、人を殴る程の感情の高ぶりが無い場合、俳優は自分の経験から、その状況に合うシュチュエーションと感情を見つけ出して再現します。

その俳優にとって、お金の問題は人を殴る価値がない様な状況でも、家族を傷つけられれば同じ様な感情、行動に成れる場合、俳優は家族を思って演じます。

この様に、役に合わせてるのではなく、役を自分の経験に合わせることで “そう見えるように演じて”いるのです

ではロバート・デ・ニーロに代表される【なり切り型】の俳優はどうなのか?
前述したように人は経験してない事は出来ません。
ロバート・デ・ニーロはなり切る為に学び、指導を受け、練習します。
これは、自分が経験した事で、より役を自分側に引き込む作業をしているのです。

このように、俳優の演技のメカニズムを知る事は演出側に大変重要です。

②映画にとって俳優の演技とは何か

これは何度も言うように『自分が俳優に何を求めるか』というのに関係してきます。

俳優が演技する事で、この映画の何を表現できるのか。これを軸にして俳優と関わる事が重要になります。なぜ、これが大事なのかというと、俳優は前途の方法で【そう見えるように】演じます。映画は俳優が内面でどう思っていようと画面上で ”そう見えれば“ 成立します。

その為【見えるように】俳優は様々なアプローチします。時には役の内面とは全く逆の心理構造から感情を見いだします。しかし、様々なアプローチの過程で当初の目的であるはずの【映画で伝えたい事】を見失い必要な演技とは全く別の演技になってしまう場合があります。しかし、逆に言うと、それさえ見失わなければ、俳優はどんなアプローチを使ってでも ”そう見えるように“ 色んな事を試す事が出来るのです

【見える】と判断するのは監督の仕事です。

それではこの2つの前提を元に “良い俳優の条件” を見ていきましょう。

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