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私とビートルズ

私とビートルズ。
30年弱しか生きていない私にも、ビートルズとの思い出はたくさんある。

一番色褪せない、ドキドキする思い出は、2013年の福岡でのポールのライブ。

──ではなく、その前日。

ポールが福岡に来た、あの日。

ポールが福岡にいるということを実感し、それと同時に、「ポールが来るということは、ポールが帰るということ」という当たり前のことにうっすら気付き始めた、あの日のこと。

ポールが今、福岡にいる。
明日、ずっとずっと待ちわびていた時間が始まり、そしてその三時間後に、終わる。

居ても立ってもいられない。こういうことなのかと思った。

終業時間が来た瞬間、会社を飛びだした。宗像に帰らず、地下鉄に飛び乗った。唐人町駅で降りて、一度も止まることなく、街灯に照らされながら、ライブ前日の福岡ドームへ、ただただ、走った。

ホークスタウンへ通じるあの歩道橋の上で初めて立ち止まった時。光輝くポールのツアートラックが私の下を通った、あの時。あの瞬間。私の心はいっぱいになった。

ポールが、福岡に、来たんだ。
明日、私は、ポールに、会うんだ。

その幸せをしっかりと心に刻み込むように、一歩一歩、ゆっくり、ゆっくり、ドームに向かって歩いた。ドームの周りを、大切に、ゆっくり、ゆっくり、一周した。

いつかこの瞬間のことを、じんわりと優しく、あるいは、嫉妬のような羨ましいような感情で思い返す日がくるんだろう、きてしまうんだろうと、思った。

ポールの右手と、一人静かに、握手した。いつもよりぎゅっと、握った。

「みんなのためを思って右手を出したんやろうけど、私は左手の方がよかったばい」
と、いつもドームでポールと握手する時に思うことを、その時も思った。

そして、
「また福岡に来てくれて、本当にありがとう」
と、今まで一度も思ったことがないことを、心の中で、大事に、呟いた。

23才、11月14日。
あの日の夜が、"私とビートルズ"の一番の思い出です。

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