世界を受胎する


胸に圧縮した憤りも
限りない密度の結晶となれば
透明な水のような静けさを抱く

沈んでいく 
なにもかもが沈殿したのちに
荒涼とした世界は
ひとしずくに凝縮される

それを飲み干すのは かんたんなこと

見つめていたのはあなたの影だった
いいえ わたしの影だった
わたしはそれを あなただと信じ込んだ

あなたをこの手に抱きしめるためには
わたしは世界を飲み干さなければならない
世界を受胎しなければならない

涙も血も流し尽くせば わたしは抜け殻となり
抜け殻だけが 世界を孕むことができる
その無彩色の中空に 色を想い出させる

深紅の生命を
遺伝子に刻まれた暗黒物質の行方を


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