2022年のおもしろかった小説

2022年に読んだ中で、おもしろかった小説のベストテンです。
今年読んだ作品の中から、なので必ずしも今年発行の作品とは限りません。

なお、ライトノベルのベストテンは別で記事を立てますので、こちらは一般文芸のみとなります。




第10位

マーガレット アトウッド「侍女の物語」

財産すべてを奪われ、ただ妊娠し出産するためだけの存在となった侍女の物語。
こういった作品には疎いのですが、人権が限りなく剥奪され、管理されながら道具のように扱われて生きる感じは、かなりディストピア。
身近に暴力による脅しがある世界は、とても恐ろしい。
そんな中であっても、体制に真っ向から立ち向かうモイラの姿はかっこよく映りました。
それでも逃げ切れずに、精神的に徹底的にたたきのめされるような彼女の行く末は、まさしくディストピア感。
支配されながらも、目を盗みつつちまちま怒られない程度の違反をしてたりする辺りはリアル。


第9位

本多孝好「dele2」

死んだ依頼人の託したデータを秘密裏に削除する会社のお話。
短編である2編はいずれも不穏な展開ながらも、ラストで優しい気持ちになれる素敵な物語でした。
「チェイシング・シャドウズ」は、祐太郎の妹である鈴にまつわるエピソード。
1巻目からほのめかされていた物語の核心が、ついに描かれたという感じです。
妹の死の真相を探るために走り回る祐太郎が、危なっかしくてハラハラさせられました。
最後はそこに繋がるのかという驚きもあり、とてもおもしろかったです。
寂しいラストになった上で、ここからさらに続刊があることに驚いています。


第8位

法月綸太郎「誰彼」

とある新興宗教の教祖にまつわる、首無し死体の殺人事件。
ひとつの事件の流れ、真相に対して、何重もの仕掛けやミスリード、嘘や勘違いが仕組まれており、ミステリの超大作と言っても過言ではないでしょう。
探偵役の綸太郎が真相を当てたかと思いきや、予想外のところから反証が飛び出し振り出しに戻る……を1冊かけてまるまるやり続けているような感じ。
読むのにすごく疲れる作品ですが、そのぶん重厚な謎に振り回される感覚はミステリを読んでる感じが強くて楽しかったです。
クライマックスでも尚ひっくり返してくる姿勢には、もはや脱帽の領域。


第7位

早坂吝「誰も僕を裁けない」

要素過多の盛りだくさんなミステリで、総じてレベルが高く、めちゃくちゃ面白かったです。
援交探偵だなんてふざけた主人公ながら、ミステリのトリックや伏線はどこまでも用意周到。
馬鹿馬鹿しさを感じさせながらも、法の在り方を描いた社会派でもあり。
らいち視点による明るい一人称で描かれる殺人事件の動きと、戸田くん視点による少し嫌悪感すら感じる嫌な事件の動きと、同時進行で描かれるふたつの事件がひとつに結びついたときには、あっと驚かされました。
そんなわけないだろと思いつつもロジック完璧で隙が無く、腹が立つけど認めざるを得ないミステリ作品でした。


第6位

東野圭吾「沈黙のパレード」

映画も良かったですが、原作も素晴らしかった。
様々な関係者の思惑が複雑に絡み合った、重厚なシナリオが素晴らしかったです。
トリックがどうとかという次元ではなく、関係者の誰もがその全貌を知らないストーリーは読み応えたっぷりでした。
それまで普通に生きてきた娘が突然命を絶たれる理不尽さや、悲しみ、怒りに満ちた作品でハラハラさせられます。
見せ場のひとつでもあるパレードのシーンでは、珍しく楽しんでいる様子の湯川が見られてよかったです。
実におもしろい、って今やあなたが言ったらただのギャグでは……。


第5位

伊坂幸太郎「AX アックス」

ベテランの殺し屋でありながら恐妻家という、表裏ふたつの顔を持つ「兜」が主人公。
些細なことでも妻の機嫌をうかがう兜の、平穏でのんびりとした日常が、殺し屋シリーズとは思えないほどまったりとしていて、とても楽しく読めました。
人からは情けなく映りながらも、妻や息子のことを心から想う兜の姿はとても素敵でした。
そして最終章では、一気に物語が加速していきます。
巻き込まれている登場人物の方からしたら訳の分からない急展開でしょうが、俯瞰で物語を追いかけてきた読者からするとものすごく感動的なラスト。


第4位

竹岡葉月「おいしいベランダ。 午前1時のお隣ごはん」

独り暮らし女子大生と、ベランダ菜園が趣味なお隣さんのラブコメ。
かなり読みやすいのと、ラブとコメと園芸知識と料理ネタとのバランスがめちゃ良く、とても好みの作品でした。
葉二は顔はいいけど性格が残念で、なのに先に惚れた弱みでなんだかんだ惹かれてしまうまもりとの絶妙な距離感が良かったです。
まもりもそうですが、沖縄出身の湊ちゃんなんかも食べるの好きな感じがすごくよく出てて好ましい……。
まもりが実家に帰省するシーンでは、わざわざ鉢まで連れ帰っていて、彼女のベランダ菜園への深い愛情が感じられて良かったです。


第3位

竹宮ゆゆこ「いいからしばらく黙ってろ!」

大学卒業式の夜にして人生どん底、から始まる急転直下の演劇物語。
とにかくアクの強すぎるキャラクターたちが好き勝手に暴れまくり騒ぎまくる中、身一つで飛び込んできた富士があれこれトラブルを薙ぎ払って突き進んでいく。
とにかく勢い全開、トラブル満載、ズタボロになりながらそれでも「生きたい!」「演劇やりたい!」という想いだけ抱えて駆け抜ける、とんでもない作品でした。
個人的にはバリスキの花形役者にして豪快女、蘭さんがお気に入りです。
あまりにも勢い良く突っ走り、まだまだ未来のドタバタを予感させる熱を感じさせるまま終わるので、本当に続きがあるならぜひまた読みたい作品ですね。


第2位

野崎まど「タイタン」

めちゃくちゃ良かったです。
AIがすべての仕事をしてくれる世界を舞台に、「働くこととは何か?」を問いかけてくる作品。
AIを相手に心理学のカウンセリングをするというあたりがかなりSF的でワクワクするのですが、次々に予想外の展開が待ち構えていて、物語的にも非常におもしろい。
そのうえで成果とコイオスが対話を繰り返し成長していく様は興味深く、微笑ましい。
最後にたどり着く「働くこと」への結論も鮮やか。
SF小説として極上の読書体験でした。
いや本当に、野崎まどさん、素晴らしい仕事でした!


第1位

杉井光「世界でいちばん透きとおった物語」

すごすぎる!!!!!
ちょっとこれは、ものすごい意欲作だと思いました。
元々杉井光さんは好きな作家さんでしたが、ここまでくるとあまりにも別格……!
お話としては、愛人の子として生まれた主人公が、会ったことも無い小説家の父の遺稿を探す物語です。
作家である父親の関係者に話を聞くにつれて、色々なことが明らかになっていき、最後に「世界でいちばん透きとおった物語」の正体が明かされたときの衝撃たるや、凄まじいものがありました。
今までの人生の読書体験の中でも屈指の驚きで、あまりの凄まじさに鳥肌がたつほどです。
読書が好きな方、特に衝撃の結末に興味があるような方であれば、ぜひ一度読んでみて体験してほしいです。



まとめ
第1位/世界でいちばん透きとおった物語
第2位/タイタン
第3位/いいからしばらく黙ってろ!
第4位/おいしいベランダ。 午前1時のお隣ごはん
第5位/AX アックス
第6位/沈黙のパレード
第7位/誰も僕を裁けない
第8位/誰彼
第9位/dele2
第10位/侍女の物語

来年もたくさんの素敵な作品に出会えますように。