2023年のおもしろかったライトノベル

2023年に読んだ中で、おもしろかったライトノベルのベストテンです。
今年読んだ作品の中から、なので必ずしも今年発行の作品とは限りません。

なお、一般文芸のベストテンは別で記事を立てますので、こちらはライトノベルのみとなります。

1冊単位で順位に載っていますが、同一のシリーズからは基本的に1冊のみが入選しています。




第10位

杉井光「楽園ノイズ6」

ピアニストという蛮族がいる、というフレーズがかっこよくて痺れました。機会があれば読んでみたいです。
凛子と華園先生というふたりのピアニストが激突するこの巻は、音楽というジャンルの中では特異に思えるほどに熱く激しい物語でした。
一方で真琴はというと、今巻は全体的にスランプ気味。
ありとあらゆるものを自分の音楽のステップアップに利用しようとしてしまうあたり、音楽バカの真琴らしくてよかったです。
ツッコミの精度で調子の良し悪しが計られる真琴くん……。
さて、次は夏休みと思われますが、いよいよ水着回……なのでしょうか?


第9位

白鳥士郎「りゅうおうのおしごと!18」

スパコンを用いた将棋AIで将棋の結末を見た八一と天衣。
将棋の未来に絶望するふたりの前に立ちはだかるのは、宿命のライバルである“人間”たち。
圧倒的なまでの強さを前にして、さらに圧倒的な強さを叩きつけてくる凄まじい1冊でした。
ここまで18冊の長期シリーズを描いてきたこの作品で、それでもなお心震えるような新しい勝ち方があることに驚きます。
将棋ってこんなにも奥深い競技だったのか……。
いよいよ本編はラストスパート。八一とあいと銀子と将棋の未来から目が離せません……!


第8位

カミツキレイニー「魔女と猟犬」

ビビッドな表紙にピッタリの、刺激的なダークファンタジー。
魔術師達を従える軍事大国に対抗するべく、規格外の戦闘力を持つ“魔女”を仲間に引き入れようと画策する小国キャンパスフェロー。
7人いるという魔女の、その1人目と接触するストーリーだったのですが。
その最初のひとりからいきなりとんでもない大事件に巻き込まれ、大国に対抗するどころかキャンパスフェローの情勢は一気に最悪化。
まさに絶望としか言いようのない状態まで追い詰められてしまいます。
魔女と猟犬だけで、ここからどう反撃の狼煙をあげていくのか……。


第7位

伊藤ヒロ「異世界誕生 2006」

トラックに轢かれこの世を去った息子のタカシを、『異世界に行った』という設定で小説を書く母親の物語。
異世界転生ネタのド定番な設定の背景に、この世に残された遺族や加害者たちの苦悩を強烈に描いています。
それだけに留まらず、タカシの死の隠された事実や、フミエの小説を取り巻く環境など、次々状況が移り変わっていく展開のおもしろさもありました。
現代日本が舞台なのに、本当に波乱万丈の異世界ファンタジーを読んだかのような読後感です。
読み終えてから振り返ると、口絵で騎士シャルナの谷間がガッツリ描かれてるの、趣深い……。


第6位

暁佳奈「春夏秋冬代行者 暁の射手」

夏の事件で四季との繋がりを得た、朝をもたらす暁の射手が主人公。
神の力を持ちながらも平穏に暮らしていた主従が突然の悲劇に見舞われ、深い絶望の淵から這い上がる疾走感はものすごい読書体験でした。
愛する人を救うためとはいえ、その手段をとるのは果たして正しいのか? という理性的な疑問はありながらも、それでも貫きたい花矢の強い想いに心を打たれます。
とにかく濁流のように暴れまわる感情の嵐が、改めてこの作品の魅力だなと再認識。
なんだかんだありつつ、最終的に花矢の両親のほのぼのオチがいちばん気に入っているかもしれません。


第5位

八目迷「ミモザの告白3」

この巻は……めちゃくちゃ凄かったです。
汐が女の子として生きることに強く反発していた西園と能井が、それぞれのかたちで決着を見るエピソードなのですが……。
西園が疑心暗鬼からどんどん追い詰められていく様は、見ていて辛いものがありました。
特に終盤、西園視点で精神的に叩きのめされていくのがまたしんどい……。
それでも最後の最後に踏みとどまるチャンスを貰うことのできた西園は、ものすごく幸運だったと思います。
能井にしろ西園にしろ……大切な人との人間関係ですら、間違った選択をしてしまう難しさを、強く感じるエピソードでした。


第4位

石川博品「ヴァンパイア・サマータイム」

これはめちゃくちゃ好きでした。
昼の人間と、夜の吸血鬼が共存している世界。
夜の短くなったサマータイムの中、時間の重なった人間ヨリマサと吸血鬼冴原の恋愛小説。
別世界のふたりが些細なことで惹かれ合い、恋に落ちる描写が丁寧で良かったです。
互いに互いのことを理想的でかっこいい姿に妄想しながら、実際のところはそんなにかっこよくもない男の子女の子、という等身大な感じが凄く好きでした。
普通の恋愛小説としても刺さる内容なことに加えて、吸血鬼としてのエッセンスが加わって、唯一無二の恋物語に昇華されていました。


第3位

中村颯希「ふつつかな悪女ではございますが 〜雛宮蝶鼠とりかえ伝〜」

めっちゃおもしろくて一気に読みました。
悪女と中身の入れ替わってしまった病弱少女の玲琳が、手に入れた健康な身体で新生活を満喫するお話。
玲琳が鋼のメンタルすぎて、周囲が呆気にとられる様がおもしろい。
悪女と蔑まれながらも、玲琳の素質と努力ですべての逆境をひっくり返していく展開は、どんどん読み進めて行きたくなる爽快感がありました。
玲琳は心根が清らかなだけでなく、身内の女官を貶されれば静かにキレたり、とんでもない環境でも楽しめるところだったり、なかなかに破天荒な“おもしれー女”なのもすごい良かったです。


第2位

四季大雅「バスタブで暮らす」

めちゃくちゃ泣きました。これはものすごい響きました。
就職に失敗した磯原めだかが、自宅にとんぼ返りして、狭いバスタブの中での生活を始める。
現代日本が舞台なのだけれど、作品全体がどこか幻想的なものに包まれていて、読感は不思議な感じです。
登場人物たちが能面を被っていたり、体内に漬物石がワープしてきたりと、描写は幻想的である一方で、生きづらさを抱えていためだかの心情だったりとかは、ものすごくリアルに胸を突いてきます。
バスタブ暮らしが長くなるにつれ、兄によってどんどん快適に改造されていくのがおもしろかったですね。
一度は見失いかけた母からの深い愛情に、めだかが気づけて本当に良かったです。
ものすごく丁寧に家族愛を描いた作品であり、めだかがもう一度前を向いて歩き出すための物語でもあり、生きるのって大変だなあという人たちがそれでもなんとか生きてく勇気をもらえる作品だと思いました。


第1位

鴨志田一「青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない」

「青春ブタ野郎はハツコイ少女の夢を見ない」と合わせて上下巻のエピソードとなりますが……そのどちらものが、ものすっごく良かったです。
ただでさえおもしろい青春ブタ野郎の中でも、特に際立ってヤバいエピソードなんじゃないでしょうか。
そりゃあこのエピソードで独立して劇場版やるよなって納得しました。
咲太と、麻衣と、そして翔子の紡いできた物語の集大成といいましょうか。
「ゆめみる少女〜」で絶望の真っ只中に突き落とされる衝撃的なラストから、「ハツコイ少女〜」では咲太が愛おしい日常を取り戻すための奮闘という構成になっており、終盤はひたすらに手に汗握るような激アツいストーリーでした。
物語全編において咲太の生きたいという気持ち、そしてみんなが咲太に生きていてほしいと願う気持ちに満ちていて、展開のひとつひとつが涙腺に直撃します。
なんてことない日々の一コマひとつにも涙をこぼすほどで、「幸せ」の何たるかを教えてもらいました。
さらにさらにさらに、クライマックスにすべてをひっくり返すオチが待っていて、「青春ブタ野郎」というシリーズの凄まじさには脱帽です。
本当にめちゃくちゃおもしろかったし、感動しました。



まとめ
第1位/青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない
第2位/バスタブで暮らす
第3位/ふつつかな悪女ではございますが 〜雛宮蝶鼠とりかえ伝〜
第4位/ヴァンパイア・サマータイム
第5位/ミモザの告白3
第6位/春夏秋冬代行者 暁の射手
第7位/異世界誕生 2006
第8位/魔女と猟犬
第9位/りゅうおうのおしごと!18
第10位/楽園ノイズ6

今年もたくさんの素敵な作品をありがとうございました。
来年もよろしくお願いいたします。