今年読んだ本ベスト10(一般文芸編)

今年読んで良かった本を、ベスト10のランキングにしてみました。

私が今年読んだ作品から選んでいるので、必ずしも今年の刊行とは限りません。
また、ライトノベルは別記事にてランキングを掲載しております


第10位
東野圭吾「真夏の方程式」(文春文庫)

この作品……とても好きでした。
ガリレオシリーズの長編3作目。
とある田舎の海辺にある町で見つかった遺体の物語です。
初めは単なる事故死にしか見えなかった遺体が、警察の調査や湯川の推理で、舞台となる宿の家族にまつわる大きな謎へと繋がっていきます。
とても複雑で入り組んだ関係性が少しずつ繙かれていくのを読むのは楽しかったです。
ですが終盤、事件に関わった人たちそれぞれが抱える悲しみや悩みが明らかになると、彼らの胸のうちを想像して目頭が熱くなってしまいました。
珍しく事件に協力的な湯川ですが、この作品では小学生の恭平くんと、親しげに科学の話をしていたのが印象的でした。案外湯川先生はお子さんが生まれたら子煩悩になるのかもしれないな……などという妄想もはかどりつつ。
悲しい事件の物語でしたが、湯川と恭平のひと夏の思い出ばかりは、明るい思い出としてしまっておければと思います。


第9位
阿部和重、伊坂幸太郎「キャプテンサンダーボルト 新装版」(新潮文庫)

とてもおもしろかったです。
元同じ小学校の野球チームのチームメイトだったふたりが偶然再開し、とある水を巡る大冒険に巻き込まれるという物語です。
物語が二転三転し度々ピンチが訪れ、そのたびに伏線を回収するように乗り越えていくさまはまさにヒーローのようでした。
物語の最後の最後まで先の読めない展開で、「これ本当に終わるの?」「解決するの?」とハラハラしながらページをめくる手が止まりませんでした。
細かな伏線回収やジョーク混じりの会話は読んでいてとても楽しいものでした。
真面目と破天荒のタッグは燃えますね


第8位
青柳碧人「むかしむかしあるところに、死体がありました。」(双葉文庫)

これ、めちゃくちゃ凄かったです。
一寸法師や花咲か爺さんといった昔話のエピソードで殺人事件が起こるという昔話ミステリなんですが、出オチみたいな設定なのにミステリとしての完成度がめちゃくちゃ高い!
全部で5つの短編が収録されているのですがそのどれもが方向性の異なるミステリで、読み終われば「なるほど、やられた!」と思わず膝を打つような驚きに満ちていました。
おなじみの昔話を題材にして、ここまでおもしろいミステリに仕立て上げてるのは本当にすごいです。
個人的には「花咲か死者伝言」と「つるの倒叙がえし」が特に秀逸に感じました。
変わった設定の作品だと思うのですが、ミステリというか読書体験としてかなり良かったです!


第7位
竹宮ゆゆこ「心が折れた夜のプレイリスト」(新潮文庫nex)

めちゃくちゃ凄え青春小説でした。
とにかく疾走感がハンパなく、臨場感もハンパなく、何が起こってるのかすべてを理解するのは難しく、けれどめちゃくちゃ力強い青春小説でした。
主人公の萬代は「自宅の窓が閉まらない」という事実に恐怖を覚え、自宅に帰れなくなってしまいます。
そんなメンタルの弱った状態で出会ったのは、正体不明の変態、あるいは先輩。
メンタル的に弱っていた萬代が先輩に引っ張り回されていく中で、恐怖で凝り固まっていた彼の心が少しずつ動き出していきます。
物語は2編収録されており、どこか「世にも奇妙な物語」染みた、かたちの見えない恐ろしさが、萬代の心理描写を通じてこれでもかと伝わってくる恐ろしい作品でした。
そのうえで、彼を窮地から引きずり出してくれる変態、否、先輩とのテンポの良いやり取りや、スピード感たっぷりのクライマックスも刺激的でした。
竹宮ゆゆこさんの痛みを伴う青春小説の本領を久しぶりに浴びて、めちゃくちゃ興奮しています。
とにかくこの作品は、すごい! あと、キラキラしてない泥臭い青春小説なので、それだけご注意を!


第6位
才羽楽「あなたが心置きなく死ぬための簡単なお仕事。」(角川文庫)

いやこれめちゃくちゃすごいし、とても好きな作品でした。
人が死ぬ前にやり残したことを手伝う「やり残し請け負い屋」の日賀テルが主人公で、死期の近い依頼人たちからの不思議なお願いを解決していく様が読んでいて楽しかったです。
また、テルと風変わりな助手のすずのテンポの良いやりとりも、とても魅力的でした。
物語がクライマックスに入っていくと続きの気になる展開が続き、最後は一気に読んでしまいました。
願いを叶えた依頼人たちの反応が感動的だったエピソードも多く、とても素敵な作品でした。すごく良かったです!


第5位
伊坂幸太郎「マリアビートル」(角川文庫)

「グラスホッパー」の続編という位置づけですが、話として独立しているので、前作のことを知らなくても読めると思います。
盛岡を目指して走る東北新幹線を舞台に、それぞれの目的で乗り込んだ裏稼業の人間たちがトラブルに見舞われまくるお話です。
時間にしておよそ2時間ちょっとの旅程ですが、その中で信じられないくらいの量のトラブルが起こるわ起こるわ。
ひとつのトラブルが引き金となってまた次のトラブルを引き寄せ、時にはそれが解決策を呼び込むも、他の人物の思惑から妨害されたりと、とにかく読みごたえがたっぷりの大満足な1冊でした。
中学生ながらに切れる頭脳と悪魔のような心を持つ「王子」が、とにかく言動が腹立たしく、こいつが最後どんな目に遭うのかを確認したいというのが読みすすめる最大の原動力になっていた感もありました。
あとは、とにかくついてない男、七尾は(裏稼業なのに)好ましいキャラクターでしたね。


第4位
山白朝子「私の頭が正常であったなら」(角川文庫)

この短編集、凄いです。
8編収録されていて、その全てが胸に迫る切なさや哀しみを内包していて、読み終えたあとしばらく呆然としてしまうほどの衝撃がありました。
胸を裂くような哀しみの中にも、ぽっと希望の残る作品も多いのが印象的です。
元々山白さんはダークな雰囲気の中で切なさを描き出すのが得意な方でしたが、この本の収録作品は特にそれが際立っていたなと。
「子どもを沈める」はかつていじめにより殺してしまった少女と顔立ちの似た子どもが産まれてくるホラー作品で、主人公の精神を蝕む恐ろしさが際立っていました。
「トランシーバー」も深い哀しみの中でも希望を取り戻す物語が秀逸で、とても好きな作品でした。
「おやすみなさい子どもたち」で短編集が終わり、最後に宮部みゆきさんの解説を読むことで綺麗にひとつにまとまる、素晴らしい1冊でした。
山白朝子さんはすごい。


第3位
今村昌弘「屍人荘の殺人」(創元推理文庫)

ミステリ愛好会と探偵少女が、曰く付きの映画研究部の夏合宿に参加するお話。
まず主人公格となるミステリ愛好会の葉村と明智、そして比留子さんのキャラクターが良い。
序盤から中盤にかけてのきな臭いイメージに対して、殺人事件が起きてからの中盤から後半はずっと本格ミステリをしているというアンバランスさが、この作品の決定的なまでに他作品と一線を画すポイントになっているのかなと。
あちこちに伏線や謎解きのヒントが隠され、読み終えてからは「なるほど!」と膝を打つ。
楽しく読めて、心に迫るものがあり、ミステリとしておもしろかった!


第2位
大澤めぐみ「Y田A子に世界は難しい」(光文社文庫)

これはとても好きな作品でした。
主人公の和井田瑛子は、自我を宿したAI内蔵人型ロボットです。
わけあって女子高生として高校に通っている瑛子は、友達を作ろうとしてみたり、アルバイトや部活を通して世界と関わっていくこととなります。
まずロボットである瑛子の、独特な語り口がおもしろいです。
もちろん物語もおもしろく、瑛子がロボットである、という前提をうまく生かした青春小説として完成されています。
最初は無機質な思考しかしなかった瑛子が、失敗を繰り返しながらも世界と関わって変わっていく様は、読んでいて感動を覚えました。
瑛子にとって世界は難しいものですが、関わっていくことで好きなものや楽しいことも増えていく。
瑛子はロボットだけれども、これは実は人間たちにもまったく同じことが言えるのかもしれません。
新感覚の青春小説、とてもオススメです!


第1位
中田永一「ダンデライオン」(小学館文庫)

ちょっと信じられないくらいおもしろかったです。
物語はタイムリープを軸にしており、主人公の下野蓮司が11歳の頃に頭を打った衝撃で20年後に意識が飛び、1日を過ごして再び戻り、20年後のタイムリープ地点を目指す……という流れになります。
この物語は1999年と2019年というふたつの時代を中心に話が進んでいくのですが、あちこちに伏線が張り巡らされており、細かなところにまで「あっ、あのときの!」という軽い驚きがあります。
ほんの些細な伏線なのに、それが感動を生むような展開もあり、とても印象的でした。
下野蓮司は未来を知った状態で20年間を生きることとなるのですが、確定した未来に向かって進むことに思い悩む場面もあります。
それでも彼が自分の人生を認めるシーンには、思わず目頭が熱くなりました。
タイムリープを終えてからは先の全く読めない展開が続き、気がつけば最後まで一気読みをしていました。
とにかくストーリーが巧妙で、読んでいておもしろい。
その上、ジンと沁み入るような、人生の大切なことも教えてくれる。
読み終えてからも興奮が収まらないくらい、圧倒的な満足感のある作品でした。
本当に、本当に、素晴らしい作品です。



以上です。
来年も、今年に負けないくらいたくさんの素敵な作品に出会えますように。

読んだ本は毎月「星野流人の備忘録note」としてまとめていますので、ご興味があれば覗いてみてください。