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趣味性の高い商売はユーザーが買い支えないと消滅しやすい(1)

こんにちは初めまして。メテオ・エレクトロニクスの松本と申します。「ニキシー管」を用いた電気製品を設計・製作・販売している個人事業主です。冒頭の写真は、某SF映画に出てくる小道具を模した試作品で、版権に抵触しない見た目でのキット販売を検討しております。

さて当方の商売ですが、現状上手くいっておりません!2018年は売上100万円のうち純利益が20万円です。これでは本業を辞めてこちらに専念しちゃうぞ~とはとても参りません。

それどころか休日返上の暮らしが続いて、ついには心臓に異常をきたしてしまいました。睡眠中の心拍数が30/分って、これから冬眠に入るのかな?いやどちらかというと永遠の眠りだぞこれは。現在精密検査中です。

ちょっと辛いので、このたびは愚痴吐きも兼ねてタイトルのような事をつらつら考えてみました。私の観測範囲が狭いのと、また効果的な処方箋も示していませんので(むしろどなたか教えて!)サービスを提供する側はこんな事を考えているんだ~、程度に捉えて頂ければと思います。

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↑ おいくらで買って頂けますか?

趣味性の高い分野のビジネスを大衆向けのそれと一緒に捉えるのは無理がある

皆さま、現在の「アイフォーン」の販売価格は適正とお考えでしょうか。それとも「高いよ~」と思っていますか。

機械を作って売っている身からすると「あれを一桁万円で買えるなんてすごい!」と思ってしまいます。あれを1台限り(ワンオフ)で作るとなれば百万円、あるいは1千万円掛かるかもしれません。

ではアイフォーンはどうして数万円で売っても大丈夫なのでしょうか?これはひとえに市場規模の大きさによるものです。

・市場規模が大きいのでたくさん売れる見込みがある→大量に作ることで1台当たりの原価を下げることが出来る(量産効果)

・1台当たりの利益を少なめにしてもやっていける→販売価格を下げられる

・利益が見込めるので投資がしやすい。製造を自動化して更に効率を上げる。銀行からお金を借りられるなど

…書いているうちに自分も成金おじさんになれそうな気がしてきました。では仮にもしアイフォーンが、知る人ぞ知るレベルの趣味のアイテムだったら?

・市場規模が小さいので大量に作れない。量産効果が出ないので製造単価が上がる

・数が出ないので薄利多売にすると利益が確保出来ない

何だかすごくブルーになってきました。これだとアイフォーン・手作りエディションは百万、千万とはいかないまでも、販売価格は数十万円になってしまうでしょう。

さてここまで書いたことに対し、「言い訳をするな。パイを広げる為に宣伝しろ宣伝」と仰る方が居るかもしれません。ごもっともです。しかし困ったことに、それにも費用と手間が掛かるんです。当店にも色んな営業アイディアがあるのですが悉く実現出来ていません。SNSも専門の担当者を置きたいくらいなんですが。

ついでに言うと、赤字がどんなに出ようとも安売りをして話題性を高め、一気に浸透を図るというソ〇トバンク流のやり方もあり、当店も参入時に少し行いました。しかしそれも良くなくて、一緒に界隈を盛り上げてくださる貴重な存在、同業他社さんを根こそぎ殲滅してしまうことになります。

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↑ 当店で一番安いニキシー管時計。25,000円也。完成品1年保障つきですから、相場からはそんなに乖離していないはずです。秋葉原「明和電機ラジオスーパー」にて販売中。

結局言いたいことは、同じカテゴリーの製品、同じカテゴリーのサービスであっても市場規模の大きな一般向けのものと、趣味性の高い代わりに市場規模の小さいものを主に価格面で同一視して頂きたくない…ということです。お店を運営する中で色々あったのですが愚痴っぽくなるので省略。もちろん高品質なサービスを安い価格にて提供する事、これは商売を行う以上、最終的には目指すべき事ではございますが…。

日本人は冷たい?「零戦里帰りプロジェクト」のその後

ここからはケーススタディとして、私の注目してきた趣味性の高いビジネスでの出来事を述べたいと思います。 

零戦里帰りプロジェクト https://www.zero-sen.jp/

「日本人所有の機体による」「日本人パイロットが操縦しながらの」「零式艦上戦闘機の国内での飛行」を目指したプロジェクトです。実際に2016年から2017年にかけて各地で飛行を実現させました。今まで誰もやった事がなかった、プロジェクト名に恥じない偉業です。

ところが

零戦の大口支援者、購入希望者を探しています!!!! https://www.zero-sen.jp/information/20181213.html

この危機感漂うニュースリリース(18年12月)を最後にプロジェクトからの音沙汰が無くなってしまいました。発表が無いので断言は出来ませんが、オーナー石塚氏はこの機体を海外へと売却したと思われます。

零戦が世界的にみても貴重な産業遺産であることは論を待たないと思いますが、飛行可能な零戦を製造国である日本で保有、維持出来ないという現状には何とも言えない寂しさを感じます。

フォーミュラカーみたいに機体にスポンサーロゴをぺたぺた貼るのが難しい等、良くある方法論が採れなかった以上、プロジェクトにはもう少し別のやりようがあったのかもしれません。権力者への口利きや、昔への郷愁を持つ高齢者層へのアプローチなど。ただそうであっても、続けられなかったのは主催者の努力が足りなかったせいだと断じるのはいささか酷では無いかと思います(少なくない私財を投入されたそうです)。

自国の歴史を身近な空によみがえらせたプロジェクトに対して、私たちがもっとやれることはあったのではないでしょうか。

あるいは、私を含めて、お上が何とかしてくれる、もうちょっと詳しい人ならば三菱重工業あたりが何とかしてくれる、と思った人が多かったのかもしれません。でも結果が全てを示してしまいました。飛行機趣味の分野においてはそれだけに留まらず、「日本人は零戦を有り難がってくれなさそうだ、貴重な零戦を日本に持って行くのは止めよう」という印象を世界の零戦オーナーに与えてしまった可能性も否定できません。

(日本人が航空遺産に対して行った印象の良くないエピソードは他にも存在するのですが、ここでは割愛します。)

日々の生活とは直接関係の無い趣味の世界の出来事ではあるので、皆さまがこの件に対してどう思うかはそれぞれの自由だと思います。ただ少なくとも私はこの件を通じて、

・自分が好きなモノやサービスがずっと存在するとは限らない

・誰かがやってくれていると思っていても、意外と誰もやってくれていない

・立ち上がるまでのハードルは高い。立ち上がってくれた人は貴重

ということを学ばせて頂いた気がします。

…私はニキシー管という分野において、それを実践できるのでしょうか?それとも挫折してしまうのでしょうか…?

次回に続きます。湿っぽい話はもう止めて、趣味性の高い分野にも関わらず比較的上手くいっている「蒸気機関車」について述べてみたいと思います。

次回以降の目次

・少ない例外?各地での蒸気機関車の運行

・究極のカタチ。羅須地人鉄道協会と成田ゆめ牧場まきば線

・好きなモノやサービスがあったら頑張って買い支えよう!

・筆者イチ推し、放っておくと無くなりそうなビジネス


※普段の情報発信は主にツイッターで行っております。


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