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(シンポジウム記録)設立記念シンポジウム「はじめてのメタ観光」

■ 日 時 2021年3月25日(木) 20:00 – 21:35
■ 場 所 オンライン(無料)
■ プログラム
 1. 挨拶 牧野 友衛(代表理事)
 2. 講演 メタ観光の可能性 真鍋 陸太郎(理事)
 3. 特別鼎談 ①  アートとメタ観光
  力石 咲(アーティスト) × 齋藤 貴弘(理事) × 玉置 泰紀(理事)
 4. 特別鼎談 ②  メタ観光的まちあるき
  武田 憲人(さんたつ編集長)  × 高橋真知(Stroly代表取締役社長) × 伏谷 博之(理事)
 5. おわりに 菊地 映輝(理事)

挨拶 メタ観光推進機構の設立について──牧野 友衛(メタ観光推進機構・代表理事)

 私たちメタ観光推進機構は、観光の新しい考え方である「メタ観光」推進のため2020年11月10日に設立された一般社団法人である。今回はその設立記念シンポジウムとして「メタ観光」の基本的な考え方と、私たち推進機構が今後どのような活動をしていきたいのかについて、特別ゲストとの鼎談を交えつつ紹介する。
 我々はメタ観光を「GPSおよびGISにより位置情報を活用し、ある場所が本来有していた歴史的・文化的文脈に加え、複数のメタレベル情報をICTにより付与することで、多層的な観光的価値や魅力を一体的に運用する観光」として定義している。その根本にあるのは技術的・専門的な問題関心ではなく、何を観光とするのかを旅行者それぞれが決定し、その可視化・共有によって楽しみを広げていくという考え方である。価値観や生活スタイルが多様化するなかで観光のあり方もアップデートを図るために、本機構にはインターネット、シティガイド、ナイトタイム、カルチャーなど必ずしも観光のみを専門とするわけではない多様なメンバーが集い、そのことによってこそ新しい観光のあり方を考えている。
 このシンポジウムでは、メタ観光の考え方を学術的な視点も踏まえて再整理するため、まずは真鍋陸太郎理事から基調となる講演をしてもらい、その後、アーティストである力石咲氏、株式会社Stroly代表である高橋真知氏、雑誌『散歩の達人』統括編集長である武田憲人氏をそれぞれゲストに招き、今後メタ観光をどのように展開しているのか検討する特別鼎談の場を設けたい。

講演 メタ観光の可能性──真鍋陸太郎(メタ観光推進機構・理事)

 メタ観光の基本的な考え方は次の三つの視点に集約される。それは、地域や場所を「①レイヤーとして捉える」こと、そのレイヤーの一つ一つを「②コンテンツ化していく」こと、そしてコンテンツ化された各レイヤーを「③その『場』でつらぬく」ことである。この講演では、これら三つの視点が決して極端なものというわけではなく、これまで学問的に提起されてきた議論とも重なり合うものでもあることを示し、メタ観光の展開可能性を検討するための理論的な後ろ盾を与えることを試みる。
 第一に、「①レイヤーとして捉える」という視点について。これはエコロジカル・プランニングの大家であるIan L.McHargが、1967年の著書“Design is Nature”で提示した、街なかの物理空間や社会的な性質をそれぞれ要素ごとに捉えるランドスケープ・アーキテクトの方法論とも重なるも。地理や建造物などの物理空間を、たとえば貧困や人種に代表されるような社会的性格と合わせつつ考えることによって、その地域の特徴を明らかにすることができることが示されている。第二に、「②コンテンツ化していく」という視点について。地理学者のMichael F. Goodchildが喚起した“Citizens as sensors”という考え方と親和的なものである。2007年、Webサービスが新たに普及しつつあった社会背景のもと提起された議論で、Webを通じて市民自らが情報源となり、観光名所の写真や自動車の平均走行速度のデータ等を蓄積していくという考え方だ。この発想は、ある「レイヤー」というコンテンツを市民自身が関わってつくり上げていくメタ観光の視点に活かすことができる。第三に、「③その「場」でつらぬく」という視点については私が2003年に携わった地図型掲示板「カキコまっぷ」の取り組みを挙げることができる。「バリアフリーマップ」は子育て層と身体障碍者層、「安全安心マップ」は子供視点、親視点、町内会視点……というように、目的ごとの地図はそれぞれの特定の利用者層を想定して作成される場合が多く、その結果、地図どうしの互換性がないことに伴う手間などが生じていた。これに対して「カキコまっぷ」では、それぞれの視点ごとの情報を「貫いて」表示することによって、より多くの情報を集約したマップをつくることを可能にした。
 「メタ観光」は新しい観光の捉え方ではあるものの、根底にある考え方自体は既に蓄積されてきた学術的な議論によって基礎づけることができる。以下では今後メタ観光を展開させていくために重要なポイントをトピックごとに細かく分割して列挙したい。まず、メタ観光を大きな括りから捉えると、メタ観光の可能性を無限にするレイヤーとメタ観光を可能にする技術やシステムの二つに分けて考えることができる。
 第一の「レイヤー」は更に、①既存の観光要素、②これまでは観光要素と捉えられなかった地域要素、③聖地巡礼やコンテンツツーリズムにみられる「創作」から実空間へつながる要素④バーチャルな世界で生成される要素、⑤(新しい)体験価値、⑥美術作品などに分けて考えることができる。この「レイヤー」のうち、たとえば「まちづくりレイヤー」の具体例としては、行政や研究者はもちろん、その地域に暮らす皆さんからも集めた情報(資源・価値)を集約した「国立市富士見台地域重点まちづくり構想」や、「文京あなたの名所ものがたり」などを挙げることができる。第二の「システム」は、①情報を生み出す/取りまとめる(メタジェネレーター)、②情報の蓄積、③情報の取捨選択・編集(メタキュレーターas編集者)、④情報の開示と伝達(メタキュレーターasナビゲーター)とに分けて考えることができる。
 このように要素を分節することでメタ観光の内実を体系立てて理解し、これから推進機構として取り組んでいくべき課題も明らかになる。そのなかでも課題として重要なものには、例えばメタジェネレーターのリストの作成がある。地域には面白いものや人が既にたくさんある。先入観に囚われることなく、その発掘が試みられなければならない。また、こうした課題を達成するうえでは、あくまでもICTとして難しいことが要求されているわけではないということを念頭に置かれなくてはならない。つまり、専門的・技術的なこと以上に、どの場面でなにが必要かを整理し社会システムとしてどう構築できるかこそが課題であると考えられる。
 まとめるならば、メタ観光は地域に目を向ける、シビックプライドを醸成する、地域人材を育てる、地域学習を活かすなどといった諸々の観点からして、これからの「まちづくり」と非常に親和性が高い。メタ観光推進機構では、これら課題を一つ一つ解決していくことで、その可能性を更に広げることを目指していきたい。

特別鼎談① アートとメタ観光──力石咲(アーティスト)×斉藤貴弘(理事)×玉置泰紀(理事)

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地域アートの取組──力石咲氏
 まずは、力石氏がこれまで行ってきた取り組みについて紹介された。力石氏はニットを媒体として時間、場所、人をつなぐ、ネットワークをテーマとした美術家である。作品制作にあたっては、自在に変容するニットの柔軟さを活かしながら、太古から存在する「編み込む」技術と最先端技術とをハイブリッドさせることや、その地域の資源をアート制作に用いることなどを重視している。
 特に、地域と関わるアートとして行ってきたのが「ニット・インベーダー(Knit Invader)」の取り組みである。これはUFOを模した巨大な編み機が作り出した太い毛糸を用い、地元の人と協力しながら数日かけて町を編みくるみ、風景を一変させる=「侵略」していく地域参加型アートプロジェクトだ。このニット・インベーダーで「侵略」した地域としては丸の内などが挙げられる。ビルだらけで硬い、直線的なイメージのあるオフィス街をピンクの毛糸でウェーブ上にくるみ上げ、普段の風景とは異なる、新しい見方をもたらすことを狙った取り組みである。また、大阪の街中にアートを点在させるプロジェクト「おおさかカンヴァス」では、当時のテーマ「水都」に合わせ、水色の毛糸で建造物の内外をくるんだり、使われなくなった船を毛糸で丸々くるんで乗り込み、沿道の皆さんとコミュニケーションをとるパフォーマンスを行ったりもした。これらのプロジェクトを通して、地域の方々と触れ合うことはもちろん、活動に興味を持ってくれた観光客の方と記念撮影するなど、普通に街に訪れるだけでは出会わなかっただろう人々と新しい「エピソード」を生むことができたと感じている。ニット・インベーダーに限らず、たとえば「MIND TRAIL奥大和」では、その土地の杉からスーツやシェルターを制作したり、太古の技術であるニットと最新インフラとしてのスマホを組み合わせるプロジェクトも行っている。これらのアート制作や活動を通して一貫して目指してきたことは、自分の作品を媒介として、地域の素材や人びと、あるいは古くから培われてきた文化と最新の技術を組み合わせ、深いつながりや新しい物語を生むことだ。この考え方はメタ観光とも響き合うなのではないかと思っている。
鼎談
 鼎談では、これまで斎藤理事が着手してきたナイトタイムエコノミーの取り組みと、力石氏が着手してきた地域を巻き込むアート活動とのあいだに“メタ観光的な共通点”があることが指摘され、議論が深められた。メタ観光というとデジタル技術を用いた観光というイメージも強いが、重要なのはその根本にあるのが“意味づけをつくり地域とのコミュニケーションを生み出す”という点にこそある。
 斎藤氏によれば、ナイトタイムエコノミーの取り組みは単に「クラブで踊ろう」というだけではなく、それぞれの居住者ごとに多様なライフスタイルを許容できるような街づくりを狙ったものである。その際、どこにでもあるような観光商品としてのナイトクラブをつくるのではなく、地域に根付いた「見えない価値」をどう可視化するかが課題となる。つまり、そこで普通に営まれているような生活のありようこそ、外から訪れた人々がもっともその地域に興味を抱く観光資源となるはずなのだ。まとめるならば、これまで斎藤氏が風営法などの法律的な観点を足掛かりに取り組んできたのは、観光・文化・街づくりの3要素をいかに重ね合わせながら発展させられるのかという点であると言える。斎藤氏はメタ観光がこれらの要素を同時に射程に収める考え方であるとも指摘する。
 ここまでの議論をうけて玉置氏からは、クラブだけではなく、ライブができる喫茶店や地域のコミュニティと関わるような店舗などもナイトタイムエコノミー推進協議会で繋いでいくことができるのではないかと提案した。このように地域を繋ぐという論点は、力石氏の作品や活動についても通底する。玉置氏は、力石氏の街に「浸出」するニット・インベーダーの取り組みが、その過程にあるワークショップなどを通して地域の人たちと一緒に「編む」ことを通して生まれる繋がりの可能性について言及した。
 この点について力石氏は、ニットの魅力の一つが誰でもパッと使えるような参入障壁の低さにあることを指摘した。そのうえで、自分の住んでいる町を編みくるむ非日常的な体験や、それを通じて見えていなかった街の細部を発見することにこれまでの議論との共通性も見出された。力石氏は活動を通して地域に入っていく重要性を特に強調し、現地の素材を用いた作品作りに意欲を見せる。その際には、環境問題の面からも気持ちの面からも、それらの素材をいかに無駄にすることなく持続させていくのかが今後も重要な課題であり続けるだろう。
 両氏によるここまでの取り組みを踏まえ、玉置理事は東京文化資源会議の「崖覧会」の事例を紹介する。お茶の水から湯島にかけて地域には、崖=地理的な高低差のラインに沿って湯島聖堂、神田明神、湯島天神、ニコライ堂というようにその背景を全く異にする宗教施設が並んでいる。「崖覧会」ではそれぞれのスポットをピンポイントで見て回るのではなく、崖に沿って歩きながらこれらを巡っていくことで地理的な要素と宗教的な要素との重なり合いをフィジカルな次元で感じられる観光の形であるという。ここには「地理」や「宗教」のように違う「レイヤー」を敢えて重ね合わせ、クラッシュさせることを通して得られる化学反応的な感覚がある。ニットで街を編みくるんだり、ナイトタイムで新しいレイヤーをつくったりすることも、日ごろ慣れ親しんだ街に新しい「レイヤー」を創造し、新鮮な感覚をもたらす点でこの観光のあり方と通底しているのではないかと指摘された。
 最後の感想として、斎藤氏からは、経済指標のような土地を均質化させてしまう「物差し」ではなく、その地域の個性を際立たせられる様々な「ものさし」をつくれるようなクリエイティブさが必要であるということが語られた。力石氏からは、アートも地域に新しい視点をもたらす点でメタ観光的なものであることが実感されたと語られた。とくに、実際に地域の人たちとの濃密なやり取りを通して面白いエピソードが生まれたり、自分たちにとっての第2、第3の故郷が生まれたりした経験があるという。今後もそのような経験がたくさん生み出すことを目指すという抱負で鼎談は結ばれた。

特別鼎談② メタ観光的まちあるき 武田憲人(さんたつ編集長)×高橋真知(Stroly代表)×伏谷博之(理事)

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“Stroly”について──高橋真知氏
 特別鼎談②では、まずは株式会社Stroly代表の高橋真知氏から、新しい視点でエリアを楽しむマッププラットフォーム“Stroly”について紹介してもらった。Strolyは“Stroll with Story”というアイデアに基づく造語で、Google mapが提供するような最短距離での移動を目的にした機能的な地図ではなく、イラストやPDFで配られるようなイベントマップなどをデジタル化できるプラットフォームである。あらゆるマップについて、縮尺の違いを解消し、GPSと連携・対応させたり新たな機能を入れることがPC、タブレット、スマホから可能になる。発信者側はブラウザから簡単に地図の編集が可能で、地図上の特定の位置を好きな音楽と紐づけたり、マップ上でライブ配信したりなど自由なカスタマイズもできる。
 具体的には京都をあみだくじに見立てたマップや、そこに住んでいる人が好きな音楽をSpotifyと連携して聴けるようになっているマップ、更には老舗のお土産屋やナイトライフのみに特化したマップなど、個性的なもので溢れている。ユーザーは食べ歩きマップに関してであれば感想を共有しあったり、あるいはチャット機能を用いて待ち合わせなどを行うこともできるようになっている。そのコンセプトは“Share the Way We See the World”──。すなわち、Strolyを使えば世界中の誰でも簡単に地図を登録し、GPSと連動させ、公開することができる。そして様々な切り口からその地域を捉え直し、マップや街歩きを楽しむことができるのである。
『散歩の達人』について──武田憲人氏
 続いて武田憲人氏より、雑誌『散歩の達人』の紹介をしてもらった。同誌は1996年4月から慣行され、約25年で300号近く発刊されてきた。普段の特集ではある街を対象にして面白い場所、喫茶店、あるいは“下町らしさ”などを切り取っている。2020年6月号「ご近所さんぽを楽しむ15の方法」では、新型コロナウイルスの感染拡大および緊急事態宣言の発令下で通常の取材が難しくなるなか、ゲストを招いてマニアックな散歩方法を提唱する一連の特集を掲載した。これらの特集は、普段のエリア特集では取り上げられないような新しい試みだった。
 例えば「“よき文字”を自分の町で探せ!」では、ふだん何気なく目にする看板や標識に使われる「文字」から独特の魅力をもったものを探し集めていく。「珍樹ハントは想像する自然遊びだ」では、動物や女性の背中に似ているような、一風変わった形の樹=珍樹を探し求めて散歩する。このほか電線の造形美を追求するもの、旧町名の標識から地域の歴史を探求するもの、夜になると独特の魅力をもった「闇」を表す風景を写真に収めていくものなど、どれも日ごろ「見ているようで見ていないもの」に別の見方を与えることでその新しい価値に気づかせてくれるようなものばかりだ。
 同特集は取材の状況が変わるなかでこれまで出来なかったことを試行錯誤するなかから生まれた取り組みではあったが、そのぶん、我々も解き放たれたような感覚で冒険が出来たし、多くの反響を得ることもできた。見慣れた景色に新しい光を当てていく「ご近所散歩」の考え方は、「メタ観光」が掲げる観光の価値にも親和的なのではないかと思う。
鼎談
 ここまでの取り組み紹介を踏まえ、伏谷理事は世界的な潮流も見据えながら、観光とライフスタイルが現在、融合しつつあることを指摘した。これまでは雑誌やWebではトラベルとライフスタイル、シティガイドは分かれていた。だが最近では、週末の散歩の延長で遠くまで行く、というような感覚で観光を楽しむ人や、旅と自分たちの生活をうまく繋ぐことによってライフスタイルを豊かにすることを目指す人も増えてきているため、これらの多様な価値感の変化にマッチするような観光のあり方を模索することが重要であるという。メタ観光の考え方も、いわば100人いれば100通りの観光がある、観光の多様化を大前提に置いている。高橋氏・武田氏の両氏の取り組みは、日常の延長にありながらも際立った個々の楽しみ方を可視化するという点で、こうした新しい観光の展開可能性をより広げるものではないかと提起された。
 伏谷氏は例えば高橋氏の取り組みは、マップという媒体を、個人が自分の思いを表現する媒体としての可能性を拡大していく取り組みであると指摘する。つまり、そこでは「マップとはもともとこう使うものだ」という固定観念が読み替えられて、ユーザー一人一人が思い思いに描いた価値観をマッピングしているとも言えるのである。高橋氏はこれに応え、実際、Strolyに登録されるマップにはいわゆる観光マップと呼ばれるようなものはほとんど見当たらず、近隣に関するコアな情報を集めたマップ、サステナブルなショッピングやコロナ禍で地域のお店を支援するためのマップなど、自分のテーマをとことん突き詰めたところから入っくる人が多い印象であるという。このように住んでいる街などを「それぞれの切り口で見せたい」と思っていることそれ自体に価値があるし、面白いと思っている。私たちもまたこれらのマップを見ることを通して地域についての知識を深めているという点では、マップを見ること自体が観光あるいは地域学習のような機能を果しているとも感じる。従来の地図のように「便利」であることを必ずしも志向しないことによって、地域の新しい見え方を共有するところに取り組みの価値と可能性を感じている。この点について、伏谷理事は自身が代表を務めるシティガイド『タイムアウト』も、読者が出会ったことの内容な「別の価値観」を提示する姿勢を常に心掛けてきたと述べる。伏谷氏によれば、このような姿勢は近年の日本のメディアではあまり見られなくなってきたが、『散歩の達人』が取り上げたフェティッシュなご近所散歩特集は、同誌の尖った部分がコロナ禍を機にあふれ出した例だと感じられたという。武田氏は、実際「ご近所散歩特集」を通して、そこで取り上げたゲストの方々はある種の「極端な人たち」ではあるかもしれないが、表現者として素晴らしく、散歩も一種の「表現」であるかもしれないとさえ感じたという。こうしたエクストリームにあるような人々の目を通すと見慣れた町が然違って見えることには新鮮さと驚きがあった。普段はここまでエクストリームな話題に手を出すことはどちらかというと少なく、むしろ『散歩の達人』は自分たち編集者の興味関心に即してマーケティング市場を開拓してきた雑誌ではあったが、今回の特集で頑固な「観光者」たちの話を聞くのは気持ちがよかったし、つくるのも反響をきくのも面白い企画になったと思っている。これらの「散歩」は高橋氏が取り組むマップづくりとの相性もよいので、彼らのつくったマップも見てみたいと感じたという。
 これをうけて伏谷氏は、かつて『タイムアウト』で「外国人の目線から街を見直す」ことで、その町の人は気づかないところに魅力を探す企画に取り組んだことを紹介する。武田氏の企画も高橋氏の企画も、同じ場所を「新しい目線」で見直して価値を再発見することに通底する価値を感じたという。これからの観光では、ジェネラルなウケを狙って化粧した余所行きの観光名所をつくり上げるのではなく、何気ない日常をたとえば外国人の目線やエクストリームな興味関心から捉え直し新しい価値を見出していくことが重要になる。こうした方法は実は極端なものではなく、例えばInstagramのハッシュタグ・カルチャーに見られる若者の多様な感性を見ていると普通にあるべき姿なのではないかとさえ思わされる。そのような取り組みがたとえ日本では「変わり者」扱いされたとしても、世界にはそれを評価してくれる仲間もいるだろう。新しい観光のあり方は日本に限らず世界に向けても発信していけたらいいと思う。

終わりに:メタ観光推進機構の今後の活動について──菊地映輝(理事)

 最後に、メタ観光推進機構がこれからどのようなことに取り組んでいこうとしているのかについて、簡単に紹介します。メタ観光推進機構では、大きく分けて5つの業務領域を設定しています。第一は調査研究事業。この事業では、研究者と実務者を交えた提起研究会を開催し、メタ観光に関して多様な視点から分析したアニュアルレポートの発行を予定しています。レポートは編集長に玉置泰樹理事を置き、メタ観光についての最新トピック、優良事例、学術論文などを掲載することを考えています。第二はコンサルティング事業。この事業ではメタ観光による観光振興についてのコンサルティングを自治体・企業向けに実施していきます。第三はメタ観光資源開発事業である。この事業ではメタ観光を実現する実証実験を先進的な自治体・企業と共同で実施します。第四は人材育成/研修・セミナー事業。主にセミナー、勉強会、視察会を実施し、メタ観光の普及・啓発を行うことを考えています。セミナーは夏秋冬の計3回開催する予定です。視察会は今年の秋に実施を予定していますが、コロナ対策の観点でバーチャルツアーになるかもしれません。第五は顕彰事業。これはメタ観光と認められる事例で特に優れたものについて表彰するものです。
 メタ観光推進機構では、賛助会員制度を採用しています。これは組織の理念に賛同してもらえる団体の方々に会員になってもらう制度で、現在、先行して日本ユニシス株式会社様、株式会社大丸松坂屋百貨店未来定番研究所様に特別賛助会員になっていただいています。2021年度の賛助会員については、現在、団体以外の個人の方も含め広く募集中で、また賛助会員でなくても共同してプロジェクトに取り組みたいという方からの声掛けも募集しています。

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