見出し画像

(シンポジウム記録)メタ観光シンポジウム vol. 4「展開するメタ観光」

■主旨:2021年は各分野のトップランナーを集めたシンポジウム、メタ観光の可能性を実践したすみだメタ観光祭が実施され、メタ観光時代の幕開けとなりました。メタ観光の次の⼀⼿は︖メタ観光の観光指標の可能性や実現したい観光の未来を考えます。
■ 日 時 2022年 3月16日(水)18:45 – 20:30 (開場 18:30)
■ 場 所  TimeOut Café & Diner (渋谷区東3丁目16 – 6 リキッドルーム 2F )
■ プログラム
 1. ご挨拶・活動報告
   牧野 友衛(代表理事)
 2. 鼎談① メタ観光で考える観光指標
   玉置 泰紀(モデレータ) 齋藤 貴弘 真鍋 陸太郎
 3. 鼎談② メタ観光で考える観光の未来
   菊地 映輝(モデレータ) 伏谷 博之 牧野 友衛
 4. 今後の活動に向けて
   伏谷 博之

ご挨拶・活動報告 メタ観光推進機構のこの1年間の取り組みについて

 まず牧野代表理事から当機構の発足から現在に至るまでの1年間の取り組みについて説明された。今年度に実施してきた主な取り組みは、メタ観光の概念を広めることを目的とした3回のシンポジウムとメタ観光の最初の本格的な実践としてのすみだメタ観光祭の開催である。
 3回のシンポジウムではメタ観光における観光資源、資源のデジタル化・可視化、観光学の中でのメタ観光の位置付けについて、それぞれ有識者・専門家を招いて議論した。そしてシンポジウムなどを通したメタ観光への関心の高まりを受け、2021年9月から12月にかけて墨田区との共催で「すみだメタ観光祭」を実施した。当イベントでは地域の人々と一緒に地域の様々な情報を可視化した地図を作成することを目的とした電線・暗渠・ドンツキなど様々な専門家によるワークショップを開催するなどし、その成果として60のレイヤーと1700のタグがある「すみだメタ観光マップ」を作成・公開、メタ観光ではその膨大な情報量を適切に読み解き楽しむことが重要であるためキュレーション的な形でのガイドツアーを開催した。その他、墨田区の魅力を捉えたアーティストの作品の展覧会「すみだ新景」も開催された。以上の取り組みで作成されたメタ観光マップは墨田区の観光協会のサイトでも紹介され、従来の観光マップとの共存が実現している。
 この1年間は当機構が思っていたこと以上の活動ができた。今年に入ってからも観光経済新聞をはじめメタ観光を紹介してもらう機会が増えている。今後は企業や自治体向けのセミナーも開催する予定である。そして本シンポジウムでは新たなステップとして、メタ観光における観光指標について、また観光の未来について鼎談を行う。

牧野代表理事からの報告と会場の様子

【鼎談1】地域の文化・観光に関する指標

 鼎談1では「メタ観光で考える観光指標」をテーマに齋藤理事、真鍋理事、玉置理事により議論が交わされた。

【鼎談1】地域の文化・観光に関する指標の様子

地域の文化・観光に関する指標の紹介

 まず齋藤理事から都市の文化・観光に関する指標のあり方について、2つのリサーチをもとに説明された。
 はじめに都市の文化的な価値を指標化したCreative Footprintについて。これは都市のクリエイティビティを可視化するリサーチであり、ベルリン・ニューヨーク・東京を対象に、都市のミュージックヴェニューに注目して分析を行なっている。日本における2016年の風営法改正及びインバウンド消費の増加を背景としたナイトタイムエコノミーの活性化が図られるなか、集客数や消費額といった従来のKPIが都市の魅力を十分に可視化できていないという問題意識のもとリサーチが行われたものである。東京にあるライブハウスやナイトクラブを560箇所リストアップして[content][space][framework condition]の3点で分析しており、[content]では創造性や実験性・多様性など、[space]では店舗面積や多目的性など、[framework condition]では行政等による支援体制など様々な指標が設定されている。その結果、2都市と比較して東京は創造性や実験性が高いが法規制が強く事業環境の整備が不十分という評価が下された。
 次に文化庁が行なった文化観光に関するリサーチについて。このリサーチでは都市の文化的な価値だけでなく、文化・観光・まちづくりの関係性についてフォーカスしている。例えば観光客数はわかりやすい指標であるが、大量の観光客を受容するために大型ホテルやスーパーマーケットの出店が相次ぐなど、いわゆるオーバーツーリズムが地域の持続的なまちづくりに悪影響を与えてしまう。また地域文化の行き過ぎた保存は観光客が文化に触れる機会を奪ってしまう。これら文化・観光・まちづくりの三者がうまくバランスするためには「地域文化の固有性」「ランドスケープ・空間」「地域の熱量」「関係人口」「経済循環」の5つの指標が重要であるとされている。
 これらのリサーチが示すように、観光に関する指標は従来の観光客数などの経済指標では限界があり、地域に資する観光を適切に評価できるような指標の整備が進められていることが紹介された。一方で斎藤はこの指標整備の前に、従来の観光地とは異なり小規模ながら良質な経済循環が生まれている地域が既に存在していることにも言及し、現在の指標では埋もれているが今後の指標整備次第で適切な評価がされる地域が日本には多くあることを指摘した。

メタ観光インデックスの活用方法について —ランキングと認証制度—

 続いて真鍋理事から当機構で提供していきたいメタ観光インデックスのあり方について説明がなされた。
 はじめに前提として指標の活用方法についてランキングと認証制度の2つがあることを説明した上で、メタ観光の指標については認証制度としての活用が適切であると真鍋は主張した。ランキングと認証制度は、前者が地域間を比較する相対評価であるのに対し、後者は認証されているか否かという絶対評価であり、認証に向けての活動を評価する側面が含まれている点で異なる。そのため、どの地域もメタ観光のポテンシャルがある以上、地域資源を活用してメタ観光を実現するという地域の積極性を評価することが重要であることから、認証制度の方が適切であるという。地域の人々が自らの活動を主張し、それを当機構が認証することでメタ観光ファンが訪問するというあり方が望まれる。
 その上で「観光資源を多様に捉えていること」「観光情報を公開できていること」「観光資源を多様な視点からつくることに取り組んでいること」「持続的な運用が可能であること」の4つを評価する指標が必要であると提案した。

メタ観光指標の作り方

 以上2人の説明を踏まえてディスカッションが行われた。3者の意見に共通するのは、メタ観光では地域住民の地域に対する愛着、つまりシビックプライドの醸成が重要であり、それを表現する指標の整備が求められるということである。そのためには従来のように有識者会議など専門家による会議室での議論ではなく、オープンなデータを活用し地域住民や観光客の価値観が指標に反映されるようなボトムアップ的なプロセスの形成が重要である、とまとめられた。

【鼎談2】メタ観光で考える観光の未来

次に鼎談2では「メタ観光で考える観光の未来」をテーマに牧野代表理事、伏谷理事、菊地理事により議論が交わされた。

【鼎談2】メタ観光で考える観光の未来の様子

観光産業の問題点 

 次に鼎談2では「メタ観光で考える観光の未来」をテーマに牧野代表理事、伏谷理事、菊地理事により議論が交わされた。
 はじめに現在の観光産業の問題点について、観光業界が従来のプロダクトアウトのビジネスから脱却できていないことが指摘された。情報社会の発展に伴いカスタマー側の選択肢が広がっており、観光においても目には見えない観光資源を目指して行動する観光客が一定数はいるものの、観光業界は未だに定式化した観光商品を提供し続けており観光客の拡大するニーズに応えていない。この点において、潜在的な観光資源を可視化するメタ観光の意義は大きい。今までの定式化した狭義の観光に対して、地域のカフェなどコミュニティのハブに観光客が毎年訪問するなど広義の観光が生まれてきており、そのような広義の観光資源を可視化することがメタ観光の取り組みの魅力である。観光客が地域の名所を訪問する従来の定式化した観光ではなく、観光と地域の暮らしが一体となり、有名な観光名所だけでなく地域の多様な魅力を楽しめるような観光の可能性がメタ観光にはある。

これからの観光ビジネス

 続いてこれからの観光ビジネスのあり方について議論が交わされた。結論としては、メタ観光が可能にする観光の多様な選択肢に応じて、たくさんのスタートアップがビジネスを展開するという方向性が望まれる。
 そもそも観光ビジネスは地域資源を活用してキャッシュフローをうむことをベースとしている。例えばコロナ禍でホストクラブなどへの風当たりが厳しい中、新宿区長は歌舞伎町のホストクラブを地域の重要なアセットとして理解していたためコロナ禍での営業に向けて迅速な対応を行なった。観光ビジネスでは地域資源を把握することがまず重要であり、その点においてメタ観光の取り組みにおいて可視化される多様な地域資源一つ一つがビジネスの種になりうる。これまでのプロダクトアウトの観光ビジネスでは定式化した観光の中で旅行業者やホテルなど少数の主体と有名な観光資源のある地域のみが観光業に関与していたが、観光の選択肢が多様となる時代においては観光ビジネスの裾野が広がり、ユーザーに寄り添ったサービスを提供する主体が地域を問わず増えることが望まれる。

メタ観光は地域の持続可能性にも寄与する

 メタ観光は地域の知られざる資源を可視化することで観光客に多様な選択肢を提供するが、同時に地域住民が地元の魅力を把握する良い機会にもなる。鼎談1でもシビックプライドについて言及されたが、地域住民が地元の魅力を理解していることは、変化が激しい時代において地域の魅力を維持する上で大切である。例えば、すみだメタ観光祭では地域の特徴的なドンツキ(行き止まり道路)の魅力が明らかにされた。このことは、近い将来、仮に再開発でドンツキが失われることになった場合には、その魅力を知る地域住民がその魅力を如何にして未来へつないでいこうかと考え、活動していくことになるだろう。地域の魅力を失ってから後悔する、ましてや失ったことすら気がつかないということが起こらぬよう、予め地域住民が地元の知られざるたくさんの魅力を知ることは重要である。このように地域の魅力を持続可能に残していく点でもメタ観光は作用するものである。

今後の活動について

 今回議論された様々なアイデアはデジタル技術の圧倒的な進化により実現可能なものであると考えている。当機構としてはメタ観光をビジネスとしても展開できるように取り組みを展開しながら、観光の様々な可能性をみちびく新たな活動を誘発するためにも、メタ観光という考え方にもとづき観光に関する新しい考えの発信や先行事例となる実践を引き続き続けていく。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?