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メタ観光と技術

理事:真鍋理太郎

2021年8月19日にメタ観光オンラインシンポジウム vol. 2「メタ観光の基幹技術」が開催されました。このシンポジウムは機構の財源事業としての有料シンポジウムですが、シンポジウムの前半で、パネルディスカッションへの論点提示をした私の講演内容をnoteへ掲載・公開します。

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まずはメタ観光の定義の振り返りです。繰り返しとなりますが、メタ観光の定義は「GPSおよびGISにより位置情報を活用し、ある場所が本来有していた歴史的・文化的文脈に加え、複数のメタレベル情報をICTにより付与することで、多層的な観光的価値や魅力を一体的に運用する観光」となっています(この定義はまたアップデートしたほうが良いかもしれませんね)。シンポジウムの冒頭、牧野代表理事からの主旨説明で「観光とは情報の消費」であると論じられ、メタ観光を「開発」と「振興」とに分けて考えることができると表現されました。
開発とは、メタ観光の資源となる「その場」にいくつものレイヤーとして存在する観光資源を発掘・発見あるいは創造し「メタ観光データベース」に収めその所在を地図という場所を媒体とした表現手法を持って表現・可視化するメタ観光マップを作っていくこと、「振興」とは表現・可視化されたメタ観光資源をキュレーションすることでより価値を高めて、ガイドツアーや地図・ガイドブック、アプリ・ARなどによってコンシューマ(消費者)が情報消費する=観光するということになります。
シンポジウムでは正式プレスリリース前ということで触れられませんでしたが、当機構が2021年の夏から冬にかけて取り組むすみだメタ観光際で実施する取り組み内容がが正にこのような構成になっています。みなさま、すみだメタ観光祭にもぜひご参加ください。

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さて、私は2015年ごろに「都市の情報流」というモデルを提案しました。これは市民が都市で関わっている情報を「流れ」として捉えることで、いくつかの場面・技術的ファクターに整理できることを示したものです。観光が「情報の消費」であるなら、観光を「都市の情報流」の中で位置づけることができるのではないでしょうか。このモデルの中から4つのシーン、収集、蓄積、編集、表現を取り上げ、それぞれのシーンごとにメタ観光に関係するだろう技術を整理していきたいと思います。
以下、メタ観光の4つのシーンに関する技術やそれを論じる論点を提示し、最近の学術研究をいくつかあげています。本稿では学術研究については触れませんので、どのような研究が行われているかはスライドをご参照ください(ギリギリ読める文字サイズではあるかと思います)。

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1つ目のシーンは、メタ観光の対象となる情報(観光資源)を集めるシーンです。メタ観光では、メタ観光資源として捉え直すということも含めて既にある情報の取集とメタラーなどによる新しい情報の創造が「集める」シーンとして考えられます。
紙面に印刷されたものも含んだ既存のどちらかというと整理されていない情報、インターネット等に既に整理され公開されている情報(Japan Search、Tokyo Museum Collection 他) 、ネット社会で生まれてきたコンテンツ・個人のSNS発信(YouTuber、Instagram 他)などが対象となる情報でしょうか。これらに対して、非電子化データを電子化したり、ネット資源をクローリング・スクレイピングすることで収集したり、その際に適切な形でのデータ抽出・テキスト置換・データ(形式)の変換をする、などの技術が関係してきます。
一方で、新しい情報の創造については、微地形というどこにでもある要素がブラタモリでタモリさんがこだわることで新しい観光要素として認識されたように、専門家・マニア視点による街の捉え直しや、地域に暮らす人々による資源の蓄積(例:地域の思い出、今昔写真など)、さらにはアーティストによる地域を題材とした絵画や写真などの創作が挙げられます。ここでは、地域を捉える柔軟な視点・技術(街を把握する技術)、さらには情報を引き出すためのワークショップの手法・技術などが必要となるでしょう。

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次に、メタ観光の情報を蓄えて、広くアクセスを可能とするシーンです。主として「メタ観光マップ」を作成することを意識します。メタ観光マップをはじめ、情報(POI:Point Of Interest)が蓄積された電子地図では情報が蓄積されるデータベースとその情報を表現する地図の技術が重要でしょう。 
メタ観光のデータベースを論ずる際には、メタデータの仕様、メタ観光情報として整理する際のカテゴリ・レイヤー・タグという概念の関係性の整理、他のサービスとの連携なども考慮したオープンデータ化についての議論などがあります。
地図として表現する際に、そのメタ観光マップはすべての人がアクセスできるような地図型データベースとなります。メタ観光の特徴はいくつものレイヤー・対象が重なっていることです。2次元の地図では重なりを表現することは古からの課題となっているわけですが、あえて重なっていることを「主張」する表示・可視化方法を考えなくてはいけません。また、次のシーンである「編集」のために、多くのメタ観光情報が表示されたメタ観光マップから「お気に入り」を選定・保存するような方法を用意する必要もあるでしょう。そのためには自ずと個人用サービスを提供することとなってくるかもしれません。
一方で、社会技術としてメタ観光マップの公共性を論じる必要もああります。誰が、どこに、作るものなのか、それはWikiのようなユーザコミュニティによる情報蓄積なのか、行政はどのように関わってくるのか。メタ観光マップの公共性はどの程度なものになるのでしょうか。

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次の段階が、メタ観光として楽しむためにこれまでなかった新しい視点で対象を編集(キュレーション)するシーンです。
メタ観光では、その場の楽しみ方を多様化・複数レイヤーすることができ、また対象となる観光要素が非常に多くなるのでそれら多数の観光要素をもとに1つの場所から他の場所への誘導していくような楽しみ方もできます。これまで観光対象ではなかったことを楽しめる観光要素として捉え直したり、場所で貫いて複数のレイヤーの相互干渉(レイヤーの相互干渉、コンフリクト)を楽しんだり、空間的広がりを意識して「面」(地域)として楽しんだりすることがメタ観光の醍醐味です。そのために、エンタテインして、あるいは超訳して、これらの価値を理解してもらうような編集(キュレーション)が必要です。
キュレーション等に関する知識・技術としては、地域をこれまでにないマルチな思想・観点から深読みして楽しめるような知識を基礎とします。もしかするとAIがこのような知的作業をこなすようになるかもしれません。メタ観光というものは大所から言うと、観光の多様化・民主化というパラダイムシフトへつながるものです。

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さて、4つのシーンの最後となります。その場所の魅力の組み合わせを(ICTによる)豊かな表現力で表現するシーンです。
メタ観光では、編集・キュレーションされた魅力を伝えるためにはICTの活用が不可欠だと考えています。現実では触れることのできない情報が可視化され、さらにそれらが組み合わせて表現され、リアルな現実に「情報」が表現・可視化されたことを楽しむ「観光」がメタ観光と言えますので、そこには現実空間や人間の感覚を拡張するICTによる表現力が不可欠なわけです。
その際には、すでに開発されているものも含め様々なICTを組み合わせることが考えられます。インタラクティブなWeb地図や電子掲示板を使って俯瞰的に情報を把握したり、VRやARを活用して「その場」でのさまざまな表現で情報を体験したり、あるいは音声ガイドなどを用いて視覚だけではない五感での体験も提供できたりするでしょう。また、YouTube等によるインフルエンサー動画配信で視聴者がメタ観光ツアーを擬似体験することや、Google Earth 上での擬似ツアーも考えられます。

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これらメタ観光に必要な技術を「メタ観光テック」とでも呼んでおきましょうか。メタ観光の実現には、それぞれのシーンでICTを主としたさまざまな技術が必要とされています。それら技術は、すでに実現されているものも多いように感じますが、メタ観光で活用することでより一般的に浸透していくこともあるでしょう。一方で、解くべき技術的・社会的な課題も多く残っているように思われます。

以上が私からの論点提示となります。この論点提示ののち、シンポジウムでは、庄司昌彦先生(武蔵大学)、田良島哲様(国立近現代建築資料館 / 東京国立博物館)、水田修様(KDDI株式会社)から話題提供が行われ、その後、伏谷理事、牧野代表理事のコーディネイトのもとパネルディスカションが展開されました。その様子は機構のアニュアルレポートでご紹介できると思います。

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