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大学院博士課程後期を受験 その1


何を研究するのか。

 ある方向性が決まれば,それに向かって邁進するのが僕の信条だ。博士課程に入学して何を研究するのかは,大方決めたあった。中学,高校,そして高専に勤務した経験を持つ者として,何か人類への貢献を考えたところ,「英語+海事」という構図が浮かんできた。「よし,辞書を作ろう!!」

辞書といえば、一般的に皆さんが思い浮かべるのが、ジーニアスやプログレッシブ、あるいはウィズダムといった英和辞典であろう。はたまた、LongmanやOxford、Cobuildのような、英英辞典になると思う。これらは,大型書店ならまず目にする辞書だし、当然ながらアマゾンのようなネット型書店でも購入が可能だ。最近はインフラの整備に伴い、注文してから翌日配達完了といったこともある。英語と海事が仲良くお辞儀をする様を頭の中で思い描いてみると、そこには「海の英語の辞書」が漂流していた。

「読み物」として辞書を使う。

海事英語辞書を作る。

 国土交通省のウェブサイトによれば、我が国の輸出入は99パーセント以上を海上交通に委ねている。船の航路は大きく分けて内航船と外航船になるが,外航船で使われる言語は英語だ。それも、通常、中学・高校で学習する一般英語とは性質を異にする「海事英語」である。とある論文によると、それは中学から高校3年までの課程で英語を習得した上に学習するものだ。ということは、9年間の課程で英語の基本的な語彙や文法などをマスターしているという前提の下で履修することになる。実際、広島商船高等専門学校と弓削商船高等専門学校の2商船高専に勤務したが、商船学科に籍を置く大方の学生は英語が不得意であった。
 ここで、現存する海事英語辞書について少し触れておこう。とはいっても、一般の読者の方には海事英語辞書などという存在も馴染まないのではないだろうか。英語辞書といえば、その構造たるや、見出し語、発音記号、語義、用例、類義語や文法項目などが網羅された、知識の玉手箱をイメージすると思う。日本語母語話者のために編纂された、秀逸なものの代表として『ジーニアス英和辞典』、『プログレッシブ英和中辞典』、『ウィズダム英和辞典』や『スーパーアンカー英和辞典』などがあげられよう。これらは、編纂者の緻密で根気強い、まるで小石を拾い集めるような作業の積み重ねを経て完成されていく。また、最近では用例採集にコンピュータ・コーパス(言語研究を目的としてインターネット上に作成された資料)を使うなど、データに基づいた編纂が常識化されている。一昔前は、用例一つにしても編纂者の知識と内省によるものが一般的であったが、これは偏りを産んでしまうため、現代では、コーパスを使用するのがもはや主流だ。
 これほどまでに精緻な作業を経て製作される英和辞典に比べて、海事英語辞書の内容は...。見出し語に対して訳語がつけられているのみの、いわば単語帳のような内容を思わせる。それもそのはず。実は大半の海事英語辞書は、国家試験の海技士技能試験の「持ち込み用」として作られている。また、商船高専には、海事英語という授業科目があるのだが、指導に当たる教員は中学・高校での教歴を持つ者が多く、船の背景知識など殆ど持たないまま教壇に立っている。授業で使う辞書は『ジーニアス英和辞典』などの英和辞典だ。これは、店舗で例えれば、「デパート」か「大型ショッピングセンター」であり、「専門店」ではない。海事英語を指導するためには、専門用語がしっかりと網羅された辞書が必要だ。小生が目指すのは、『語義の展開を生かした海事英語辞書の製作』である。語義の展開というのは、中心義(中心的な意味)と周辺義(周辺的な意味)の関係性、つまり意味の拡張が把握出来て、それらの繋がりが意識できるものだ。ここでいう周辺義とは、比喩義ともいわれ、メタファー(隠喩)、メトニミー(換喩)そしてシネクドキ(提喩)を指す。ここで一つ例をあげてみよう。

  anchor
           錨
   (リレーの)アンカー
   留め金
   (大型店の)主要店舗
   (ニュースの)アンカーパーソン

といったような意味があるだろう。「錨」は船の錨でこれが中心義。その他は周辺義となる。これらに共通する概念は、「重要な役割を担う人、頼れる人、物」である。また、これは海事英語の「錨」が陸に上がって意味拡張され、比喩として使われたのだ。こういった背景事実がつかめれば、英語の学習も楽しくなるのではないだろうか。辞書というよりも、むしろ「読み物」を作ることを心がけたい。




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