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【第21話】〜懐かしい風に吹かれて〜

本村はかつて自分が通っていた高校に来ていた。
小学校ならともかく、高校なんて卒業当時から背丈はそんなに変わってないのに、なんだか母校がミニチュアのように感じるのはなぜだろう。

今までだって、毎日学校に通っていたのに。
職員室に行くとちょうど中から記憶にある顔の教師がひょっこりと顔を出した。挨拶をすると「懐かしいだろ」と校内に入ることを許してくれた。

職員室を出ようとすると、「そういえば、モリヤと仲良かったよな? アイツ家は継がずに、IT の会社起業して大成功したらしいぞ」と教えてくれた。

教室や、階段の踊り場、図書室などを見て回ったあと、屋上に出た。
懐かしい風に吹かれると、ここで過ごした唯一の友人との思い出が駆け巡る。中学から一緒のモリヤとの仲は、高校に入ってさらに深まった。
本村の高校時代の記憶には全てと言っていいくらい彼がくっついている。
それほど、よく一緒にいたのだが、いつ頃からか、それぞれの性格や成長過程で変化していく対人関係のペースなどがズレてしまったと感じるようになっていた。そもそもどうしてそこまで仲良くなったんだっけと思うこともあった。

元来、あまり社交的ではなかった本村がぐっと内に籠る時期だったのに比べて、モリヤはいつも輪の中心にいるようなタイプだった。
進路を考えた末、本村はアメリカの大学に行くことに決めた。
だがそれを、ギリギリまでモリヤには話さなかった。
受験シーズンになり、学校に行くことも少なくなった時、偶然別のクラスメイトと話をしているところを聞かれ、モリヤはそれを知ることになった。

珍しく、怒ることのない彼が怒りをあらわにした。
「なんで言わなかったんだよ」
そう言われ本村は、機会がなくて、とボソリと言った。

実際にそうだった。学校で会うこともなくなっていたし、
ただ、「もし俺がそっちだったらどう思う?」
反対だったら……考えた結果、「ごめん」小さくそう言った本村に、モリヤは、もういいよ。と去っていってしまった。

それが、ほとんど最後の会話だった気がする。
「経営者で成功か……」想像できすぎて、本村は笑みをこぼした。

その時だった。「先生――!」と呼ぶ声がして、屋上の入り口を振り返る。
マリン、高島、あみが走ってやってきた。