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【第19話】〜きっとそれは真実じゃない。〜

マリンは学校へと走っていた。
本村が学校を辞めるらしい、と聞いたからだ。
理由はまだよくわからないが、本村はどうやらライブハウスに出演していたらしい。あみの知り合いも関係していたようで、そこから噂が流れてきたという。

本村とのことを知らないあみがマリンに連絡をくれたのは、ショッキングなニュースだったのもあるし、しかも理由がちょっと予想外かつ、身近だったこともあったようだ。
でも、もしかしたら、マリンに連絡するちょうどいい理由ができたと思ったのかもしれない。と、思いたい。

本村が学校を辞めるのは、ライブハウスに深夜、無理やり生徒を連れていったから。らしい。
まただ、マリンは思う。きっとそれは真実じゃない。
「確かめなきゃ」
だが、マリンが学校に着いた時には、職員室にもう本村はいなかった。

校長室をノックし、許可を得て中に入ると、男子生徒がいた。確か隣の、本村のクラスの生徒だった気がする。彼も本村のことで来たのだろうか。
「どうしました?」
という校長に、マリンはうまく話し出せなかった。
本村のことを聞きたいのに、てっきり誰もいないと思っていたのが予想に反して同学年の男子がいたことで、何から話して良いのか、わからなくなってしまった。
「あの、ええと……」
何も言い出せないマリンにイラついたのか、話の途中だったのか、
「だからどうして本村先生を辞めさせたんですか? SNS で広まっていることは嘘だってわかってるじゃないですか」男子生徒がストレートに切り出した。

やっぱり嘘だったんだ、マリンが少しホッとしていると、
「今回のことは、本村先生の希望です」
校長のその一言で、二人とも校長室を追い出されてしまった。

二人は、もどかしさと怒りで興奮したまま、肩で息をし顔を見合わせる。
何か言おうとしたまま無言で見つめあった後、どちらからともなく口にした。
「えっと、だれ? 名前、聞いていいですか?」