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ブルース ディッキンソンと武士道

長い間思いあぐねてきた三島由紀夫とIron MaidenとBruceについて書くことにする。コトは文学に及ぶ上、メイデンファンにとってもマニアックが過ぎると思われ、ためらってきたのだが、一連の流れを受け、書こうとする次第である。

4枚目のアルバム「Piece Of Mind(邦題;頭脳改革)」収載の「Sun and Steelは宮本武蔵を題材とした曲だが、三島由紀夫のエッセイ「太陽と鉄(英題;Sun and Steel)」との相関は、あまり指摘されてこなかったと思う。
邦題が原題と似ても似つかぬ「鋼鉄の殺人鬼」であることも、理由かもしれないが。

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三島の「太陽と鉄」は自らの肉体鍛錬の経緯や身体観を語る作品で、エピローグには三島自身の自衛隊戦闘機F-104の搭乗経験に続いて
「イカロス」という詩で結ばれていて、もちろん連想するのは「Piece Of Mind」内の「Flight Of Icarus (邦題;イカルスの飛翔)」である。

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メイデンの曲の背景に歴史、物語、叙事的な作品が伏線にあることは
これに限ったことではないため、日本でも話題にならなかったのだと思う一方、秘されてきた気もしてならない。


数年前、メイデンファンである福島の有力蔵元、奥の松酒造のオーナーが持ち掛け、日本酒の酵母で作ったメイデンビール「Sun and Steel」が発売された時も、ラベルの意匠は鎧兜姿のサムライエディで、テーマは武蔵というカバーストーリーに即したものだった。

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限定版のボックスセットには、日本とのコラボを醸し出すべく漢字が記載されるも「日と鋼」とされ、三島作品との関連は敢えて消されたかの印象を私は持った。

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三島の衝撃的な最期は、キリスト教文化圏では自死扱いとなるし、
抵抗があることは想像に難くない。



三島は、江戸中期に書かれた山本常朝の「葉隠」をきっかけに
「文武両道という考えを必要とし始めた」と。「葉隠入門」※で書いている。※(英題;「On Hagakure,The way of Samurai」 別訳者による別タイトルもあり)

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われらがブルースもメイデン、ドキュメンタリー番組制作者、作家、脚本家、俳優、パイロット、英国空軍(RAF)名誉大佐、フェンサー、クリケットと三島顔負けの文武両道で、さらに醸造家、マーケティングディレクター、ハイブリッド飛行船への投資と、商にまで手を広げている。第一次世界大戦時代の三葉機の操縦や、戦車の操縦、英空軍(RAF)の名誉大佐で制服姿を披露している姿は、誤解を恐れずに言えば、政治信条は別として、往年の三島のそれと被る気もする。

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さて、謎めいたプロモーションを経て、7/15に久しぶりのメイデンの新曲「THE WRITING ON THE WALL」が先行シングルとして披露された。以降日本語の漢字「死」をモチーフに謎めいたメッセージが公式SNSに続き、
なんと本日7/19の22時に「Senjutu/戦術」という日本語タイトル!のアルバムが9/3発売と正式発表された。

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メイデンの歌詞における使用語句の頻度は、熱心なファンの研究によれば
1位「know」、2位「now」、3位の「time」とのことだが、語句リストを見てみるとLive/Life、Die/Death、品詞違いの生と死の関連語が多い。実際にその国で使われる単語の頻度を調べたデータベースをであるコーパス(corpus)、BNC(British National Corpusイギリスでの単語の実使用頻度統計)と比べてみたが、特徴的なのが分かった。

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プロ級のフェンシングの腕前も持つブルースは、87年の初の武道館公演の際はわざわざフェンシングの装具を持ち込み、リハーサルの合間にフェンシングの稽古を武道館で行ったという逸話がある。騎士道精神を熟知するブルースが、サムライにおける死の意味、葉隠の言う「武士道というは死ぬことと見つけたり」を知らないはずはない。


葉隠は危険な書だ、死を礼賛している、との説もあるようだが、私はそうは思わない。三島も葉隠入門にて「われわれは今日死ぬと思って仕事をするときに、その仕事が急に生き生きとした光を放ちだす」と記している。

Don't waste your time always searching for those wasted years
Face up... make your stand
And realize you're living in the golden years

メイデンの前ツアーのセットリストはラストがWasted Yearsだった。
中咽頭がんにかかり、死をも覚悟したブルースの復活のステージで、
ラストにこの曲を選んだブルースの「サムライの心意気」。

その戦略“とやら”を9/3まで楽しみにするばかりである。
そして、来日公演は間違いなく、ある。



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