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逆説的お願い」という心理学用語があります。自分がやって欲しいことのを相手にお願いすることです。「そんなことに何の意味がある?」と思うかもしれません。それなりにあるようです。

有名なのはユダヤ人強制収容所を生き抜いた心理学者ビクター・フランクルが勧める不眠症治療です。ハイパーセンシティブ(過剰感受性)と呼ばれる心理状態があります。例えば「明日は早起きしなきゃいけない。早く寝よう」と思った途端に眠れなくなります。「寝なきゃ、寝なきゃ!」と焦るほど眠れないのは、睡眠を過剰に意識するからです。

有名な実験があります。こんな感じです。みなさん、ドラえもんを1分間頭に浮かべて下さい。次に目を閉じて、5分間ドラえもんが絶対に頭に浮かばないようにしてください。成功しましたか?ドラえもんが頭に浮かばないようにするためには、自分の意識を監視しなければなりません。監視するためには常にドラえもんが浮かんでこないか意識的にチェックしなければなりません。ドラえもんが浮かんでこないか意識的にチェックするためには、ドラえもんを意識しなければなりません。だから意識的に意識しないようにすると、逆に意識してしまうのです。

寝れない人は「寝なきゃ!」と意識するので逆に眠れなくなります。睡眠とは意識を遮断することですから。ビクター・フランクルのお勧めは、不眠症の患者に「絶対寝るな!死んでも寝るな!」と命じることです。これが逆説的お願いです。

公衆便所でおしっこできない患者の治療報告があります。医者は患者に次のような逆説的お願いをしました。おしっこしたくなったら公衆便所に行く。ベルトを外す。チャックを降ろす。〇〇〇を出す。でもおしっこしてはいけない。我慢して〇〇〇をズボンにしまい帰る。これを続けたら患者は公衆便所でおしっこできるようになったそうです。

さて自分が人に何かを頼む時にも逆説的お願いが役に立つそうです。例えば「これから一緒に本屋に行こうよ」とお願いするのではなく「これから一緒に本屋に行くの嫌だよね?」と訊いてみるとか。「7時にレストランで夕食どう?」ではなく「何時に夕食一緒にするのがベストですか?」と相手に決めさせるとか。だそうです(Daniel G. Amen, Change Your Brain, Change Your Life: The Breakthrough Program for Conquering Anxiety, Depression, Obsessiveness, Anger, and Impulsiveness NY: Three Rivers Press 1998)。

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