見出し画像

2021上半期ベストアルバム〈2〉

前回に引き続き上半期ベストアルバム。

2月

Wobblyは「Popular Monitress」のなかで、自身のこれまでのキャリアとは異なる時間軸をHausu Mountainという異界で打ち出した。その時間軸は2019年の「Monitress」の底流に牢固としてあった側面が、2002年の傑作「Wide Open Spaces」のサウンド・コラージュの側面をビット・ミュージックに変え、細切れに短尺に凝縮しながらもそこから介して紡がれる。それはMax Allisonのアートワークで認識する事が出来る。

イタリアのアーティストSaele Valeseは「IVIC」というファーストアルバムでミニマル・テクノやドローン、エレクトロアコースティックという尺度を用いて未定形で索漠とした音を吹き込んだ。Andy Stottが「Luxury Problems」で表したダブの尺度を変異させた事に通ずる作品で、cv313Porter Ricksに見られるダブ・テクノと結びついていたミニマル・テクノに新たなフィールドが拡充された。

日本においてはミニマルな世界は二人の藤田によって拡充されているように思う。一人は「Bird Ambience」(5月リリース)をリリースした藤田正嘉であり、もう一人は「tsu tsu」をリリースしたFUJI||||||||||TA名義を持つ藤田容介だ。

モダン・クラシカルな要素を根底に持つ藤田正嘉に対してFUJI||||||||||TAの音はシームレスでドローン要素に近い。まるで黒沢清の作品のように旧来のテーマや通念を自分の特色として取り込む表現に近似しているように思う。韓国出身のアーティストHosooの新作である「Odyssey」やKreng/Svarte GreinerThe Night Hag」の対比として聴くと両作の特徴が立ち昇る。Kumi Takaharaの「See-Through」はアンビエントの氾濫からの揺り戻しを経て、モダン・クラシカルに還流されるまでの音の描写がなされている。




フィンランドのアーティストÁnnámáretによって、トラディショナルなヨイク(サーミ族による伝統的な歌唱スタイル)がアンビエントとして可塑的に延びていった先に作られたアルバム「Nieguid duovdagat」は、間違いなく今年のベストアルバムの一つ。伝統的なものの要素を阻まずEAIやフォークトロニカな音を取り入れ、ヨイクの新しいかたちを創り出している。


Nick CaveWarren Ellisの連名によるアルバムは、2005年以降映画のフィルムスコアに集中していたが今作「Carnage」は、アルバム形式としてアンビエント・ポップな要素を多分に含んだ作品になった。2019年にThe Bad Seeds名義としてリリースされた「Ghosteen」の装いを纏った作風でソロ名義としては過去最大の傑作。


Pontiac Streatorは前作「Triz」にあったダウンテンポやIDMといった認識しやすい枠組を用いることで、Pontiac Streatorが持つ特有の仮構の世界と結びついたが、今作「Select Works . vol II」ではそういった枠組を削ぎ落としアンビエント・ダブの要素のみが脱落したことで前作との領域と今作の2範域を往来し更に深化した。そうした往来はメキシコのアーティストSiete Catorceが促進させるラテン・エレクトロニックの中にも共通している。Siete Catorceはレゲトンから分派したジャンルであるネオ・ペレオを異質なUKベースに変え静的なグリッチ要素も取り入れることで動的なネオ・ペレオとの両義的な側面を「Temperatura」というEPに見出した。





この記事が参加している募集

サポートよろしくお願いします!紹介用の音楽等に当てさせて頂きます!