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幻想の音楽通信 Vol 18

blastah - forever

ポルトガル出身のblastahは、Sangre NuevaのメンバーでもあるDJ Pythonとの長い交流を経てDJ Pythonが設立したレーベルWorldwide Unlimitedから新作「forever」をリリースした。

アンゴラを中心に発展した「タラキシンハ」(スロウテンポが特徴のキゾンバから派生したダンスミュージック)をHuerco S.に代表されるアンビエンスに蔵していた潜在的なエレクトロニック性やアウトサイダー・ハウスを顕在化させたサウンドを、それらと同時にレゲトンに蔵していた可能性として派生したネオペレーオに託したサウンドを提示した2022年の中心点に位置するであろう作品。


Huerco S. - Plonk

Huerco S.のファーストアルバム「Colonial Patterns」がリリースされた年である2013年は、Kanye Westの「Yeezus」が誇示するようにRustieに代表されるトラップ[EDM]というエレクトロニックの系統樹が大きなヒップホップ・シーンと合流した年であると推測する。その合流の結果が現行の先鋭化したヒップホップのシーンや今日の複雑化したIDMシーンを引き起こした一因と推測する。

「Colonial Patterns」サウンドを耳にするに当たって、Huerco S.や、また多くのアウトサイダー・ハウスアーティストのサウンドに含まれる特殊でパセティックな性質も手伝って、「アウトサイダー・ハウス」という陶然とした不明瞭な位置付けが先行してしまいがちだが、この「Colonial Patterns」がリリースされる一月前に世に出たForest Swordsの「Engravings」との大きなシーンを巻き込み招来した共鳴の中にこそ今作「Plonk」の主体性があると考える。

アンビエント・ダブというジャンルが認知されるに至ったその源流をForest Swordsの「Engravings」という存在抜きに考えることは困難であるように思う。Pontiac Streatorのサウンドを聴くとIDMの視点からもその要素の連関が窺える。Forest Swordsは2010年のEP「Dagger Paths」にあったギターによるコード進行と、そのコードから浮かび上がる輪郭を抑制し、「Engravings」でPablo's EyeやBoards of Canadaといったアーティストが持つ浮遊感が特徴に挙げられる「ダウンテンポ」なサウンドを織り交ぜてみせた。このアルバムの余波はMønicのような実験的でポップなサウンドにも取り入れられ始めている。




Huerco S.は「For Those of You Who Have Never (And Also Those Who Have)」において全面にアンビエント色を強化し、「Plonk」で、その結実を創造した。また「For Those of You Who Have Never (And Also Those Who Have)」に関してもその影響を感じさせる作品としてUllaの「Tumbling Towards a Wall」を挙げたい。

「Plonk」にある過剰さは、skoltz_kolgenの持つラディカルでIDMを用いて人工的なものを原型に戻すようなアコースティック性に通じており、その性質は「For Those of You Who Have Never (And Also Those Who Have)」を経た後にMaterial Girlのアンビエンスで、多分にアウトサイダー/エクスペリメンタルなサウンドにまで貫徹している。

異なる系列の同心円を結び合わせた契機をForest SwordsとHuerco S.は作った。



Nia Archives - Forbidden Feelingz

ロンドンを拠点に活動するNia Archivesの昨年の「Headz Gone West」に引き続きリリースされたセカンドEP「Forbidden Feelingz」は、Gallery S.とリキッド・ドラムアンドベース(リキッド・ファンクとも呼ばれる)というジャンルに属したサウンドに近い存在でいながら全く異なる符号を示している。Gallery S.の2021年のアルバム「The Many Hands of God」は、リキッド・ドラムアンドベースの特徴であるファンク、ソウルのサンプリングの比率はNia Archivesと比べて薄く2009年にModeratがダブ・テクノな要素を借りて2ステップの表現範囲を飛躍的に広げたようなスタンスに近いのに対し、Nia Archivesのリキッド・ドラムアンドベースの性質は従来のジャズステップと共に浮かび上がっていたそれとは異なり瞬間的にトリップホップやフォークトロニカといったジャンルにメタモルフォーゼを展開したサウンドが特徴。加速していくテンポにE-Z Rollersが「Weekend World」で表現した90年代のエネルギッシュなスタイルともリキッド・ドラムアンドベースの代表格であるHospital Recordsから産出されたアーティストとも異なる天衣無縫な音の伸張を顕した作品。



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