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2021上半期ベストアルバム〈3〉

3月からはR&Bやジャズの傑作も含めて上半期のベストアルバムを紹介します。

トロントを拠点に活動するEmily Steinwallの「Welcome to the Garden」は、60年代の「A Love Supreme」から連綿と続くスピリチュアル・ジャズ(ジャズの要素にキリスト教以外の民族宗教の要素を取り入れた音楽)の趨勢にスピリチュアル・ジャズの前身のスピリチュアル(ゴスペルの元にもなり、歌詞の多くはキリスト教の内容を多く含みながらも厳しいプランテーション・システムに対抗する為に奴隷時代の黒人が独自に創りあげてった音楽)に戻り、ヴォーカル・ジャズや、アート・ポップ性を帯びた現代の音を経由して再び往来してきた事を認識させられるアルバム。2013年のMélanie de Biasioの「No Deal」周辺を境に今のアンビエント/アート・ポップとの密接な結合、そして、Kamasi Washingtonの「The Epic」が求心力となりスピリチュアル性の領分を広汎なものにした。


長野県出身のUtena Kobayashi(小林うてな)は冷却化した日本の音楽的高揚をArthur Russellの隠微なヴォイスをLorenzo Senni以後のトランスを用いて「6 Roads」に吹き込むことで解凍し得るアルバムを創り出した。


オーストラリアを拠点に活動するガーナ人Genesis Owusuがファーストアルバム「Smiling With No Teeth」の中でKashifのような暖かみのあるシンセ・ファンクを響かせながらPrinceの特徴的なビートをGenesis Owusuの過去作「Cardrive EP」にあったジャズ・ラップ性と対応させ、ソウルやパンクといった副次的な軸を設ける事で既成のオルタナティブR&Bの位置付けとも異なるアルバムをリリースした。


チェコを拠点にするQOWが「Dawafer」をリリースした事でエピック・コラージュという視点からエレクトロアコースティックの世界との接合点を、エジプトという場所から発信できた。


OnやLocrianといった多岐にわたるジャンルの音を創造するアーティストInnodeの新作「Syn」がEditions Megoからリリースされた。前作の「Gridshifter」と比して多義的でありながらミニマルな拡散力を持った音で、Tim Heckerの「Konoyo」に含まれた精神性に傾斜した情感を伴うポスト・インダストリアル性や、Raimeの持つ暗くて重い厳粛さと退廃が相互了解の上に成り立ったような音が展開される。それらを体現した「BBSH」という楽曲は、過剰なノイズとAndrew Peklerの「The Prepaid Piano & Replayed」に通じるグリッチが配置され、「I/O」ではミニマルなEBMの入り口を彷徨しながらLocrianという別の世界を通じて奏でられるパンク性がInnodeに集約されながら全面に出た作品で間違いなく今年の傑作だ。


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