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2021上半期ベストアルバム〈4〉

四月のベストアルバムではロックやテープ・ミュージックの傑作も目立ちます。豊富な実験的音楽が多くのジャンルで見られる年ではないかと思う。

Monsterra - Peligro

ワルシャワを中心に活動するMonsterra(Wild Booksのメンバーでもある)のアルバム「Peligro」はサーフ・ロックの視点からヒプナゴジックなダブや、エキゾチカを展開する怪作で、サーフ・ロックが1960年前半に隆盛していた中で鳴っていた陽気さが歪な変容を遂げ、トレモロ・ギターのリズムが奇妙なダブと混淆され隠微でありながら作品の全体にまで塗り固められた奇妙な一つの塊として迫ってくる。


Grzegorz Tarwid - Ay

ポーランド出身のピアニストGrzegorz Tarwid(Sundial)のソロアルバム「Ay」に収録されている最後の楽曲「Holmen II」は、現在の過密状態を忌避する状況を捉えたような楽曲で冒頭の「Pop」とは対照的な構成として機能している。従来のフリー・インプロヴィゼーションの特徴の一つである「自由即興」とは異なり、「Pop」という言葉が示唆するようなポップミュージックが有する構造を留めたサウンドが特徴で発奮され得る問題の輪郭を浮かび上がらせた作品。


Natural Information Society with Evan Parker - descension (Out of Our Constrictions)

田中ノリタカやRobert Aiki Aubrey Loweとも活動しChicago Underground Quartetとしても活動するJeff ParkerやJoshua Abramsが活躍するNatural Information Societyの新作「descension (Out of Our Constrictions)」は、冷静さと欲動を並存した作品だ。アヴァンギャルド・ジャズが2010年代にLittle WomenやFire! Orchestraのような新たな空間の創造によって諸ジャンルとの接合点を結びつけ更に進展した事を示す(Eli Keszlerに見られる)ミニマリズムと同調しながらアヴァンギャルド・ジャズの前身とされるモーダルジャズの冷静さを含む傑作。


Nikolaienko - Rings

ウクライナ出身、エストニアを拠点に活動しているNikolaienkoは、彼自身が2012年以来運営してきたレーベルMuscutからのリリースではなくJan Jelinekが創設したレーベルFaiticheから「Rings」をリリースした。ファーストアルバムの「The Sounds of Pseudoscience」はエレクトロニック音楽を最初期に牽引していたTod Dockstaderやその他多くの先駆者から影響を受けた作風が特徴的だったのに対して、「Rings」ではFarben(Jan Jelinek)のようなグリッチ、テープがもつレペティティブ(反復的)な暖かさがアルバム全面に包含されている。エレクトロアコースティックのもつ自然との相関的な重層性ではなくテープ・ミュージックのもつ反復の重層性に焦点を定めた傑作。


Scotch Rolex - Tewari

東京出身の石原興がScotch Rolexとして「Tewari」をリリース。1990年代に南アフリカで生まれた「クワイト」はヨーロッパによるキリスト教や植民地支配の接触を経てディスコやヒップホップ、西欧のハウスミュージックから影響を受け生まれた。そこからNyege Nyegeに代表されるようなレーベルによってGqom(ゴム)として派生して怒涛の勢いを見せている。石原興ならではのトラップ・メタルなテイストは「クワイト」に先達て存在した「クウェラ 」に近いアフリカ的旋律との折衷が表現された作品だ。

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