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メロウ過ぎて泣けてくるアフリカンミュージック~アンゴラのKizomba(キゾンバ)の魅力~

2023年のお正月、皆さんいかがお過ごしでしょうか?アフリカ音楽キュレーターのアオキシゲユキです。

2022年はなかなかnoteの更新が進まなかったんですが、その間僕は一体何をしていたかというと、年間で70冊の本を読んでいました。
70冊って結構なボリュームですよね。12カ月で割ると1カ月当たり約6冊になりますので、ざっと計算して週に1.5冊弱のペースになります。

どんな本を読んでいたのかといえば、仏教・脳科学・ウェルビーイング・環境・金融・経済。特に経済はインドに関するものが多かったです。そしてもちろんアフリカ音楽やディアスポラに関する本もたくさん読みました。
実は昨年から大学院への進学をずっと考えていたのですが、会社の経営をしながら大学院の単位を取得するにはそれなりに勉強時間を確保する習慣が必要!というわけで、その習慣作りを1年かけてやってました。あと3週間もせずに試験日がやってくるので、無事合格のご報告ができるよう最後まで気を抜かず試験勉強に励もうと思います。

さて、今年1発目に紹介するアフリカ音楽は、普段僕がメインで追いかけているナイジェリアのAfrobeatsではなくアンゴラKizomba(キゾンバ)です。その前にまずはアンゴラの概要についてご説明しましょう。

アンゴラの概要


(写真はWikipediaより) -- http://www.lanafactum.at - sent to me by the author for publication, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=26051870による

いきなり違いますね。Googleで「アンゴラ」と検索すると「アンゴラウサギ」が出てきてしまうんですが、皆さん騙されないでください。アンゴラウサギはアンゴラ産ではなくトルコ産です!危ないところです。

アンゴラはアフリカのこの辺り。

アンゴラの正式名称はアンゴラ共和国(República de Angola)。かつてはポルトガルによって統治されていた為、独立を果たした現在も公用語はポルトガル語です。国土は日本の約3.3倍で総人口は3300万人(2020年)。首都はルアンダ。使用されている通貨はクワンザで、2022年12月30日付の為替レートで1クワンザは0.26円でした。

アンゴラは1975年の独立から2002年までの長きに渡り内戦状態が続き、国内に埋められた地雷の数はなんと30万個を超えたと言われています。アンゴラ政府は2025年までに地雷ゼロを目指しており、日本政府もこの地雷撤去活動に対し無償資金協力を行っています。
一方でアンゴラはダイヤモンドや石油などの貴重な地下資源に恵まれており、そうした資源輸出によって内戦以降の経済成長率は一時23%を超えました(2007年)。
ちなみに2021年の統計による世界のダイヤモンド産出量のランキングでは、

1位 ロシア 39,117
2位 ボツワナ 22,878
3位 カナダ 17,616
4位 コンゴ民主共和国 14,091
5位 南アフリカ共和国 9,718
6位 アンゴラ 8,723 (単位は000cts)

ということでアンゴラは南アに続き世界6位の産出量を誇っています。この後のランキングにはジンバブエ、ナミビア、シエラレオネ、レソトとアフリカ勢が続いており、なんとトップ10のうちロシアとカナダ以外は全てアフリカというわけですね。

Kizomba(キゾンバ)とは?

アフリカ音楽キュレーターを名乗りながらこんなことを言うのもアレですけど、こうしてサラリと紹介に入ろうとすると、さぞかしキゾンバのことを詳しく知ってるかのようにみえるかもしれませんが、そんな僕も今まさに「キゾンバとは何か」をネットで調べながら文章を綴っているわけで。さてさて、キゾンバって一体何なんでしょうね?

当然のことながらまずはWikipediaを開いてみると、

キゾンバ(Kizomba)は、アンゴラで生まれたダンスと音楽のジャンルの一つである。ズーク直系であり、通常ポルトガル語で歌われ、アフリカのリズムと融合したロマンティックなフローのある音楽のジャンルである。

Wikipedia「キゾンバ」より

どうやら「ズーク」を理解する必要がありそうですね。
ではズークとは何か?

ズーク(Zouk)は、グアドループやマルティニークなどのフランス領アンティルを発祥地とする音楽のジャンルである。ズークというジャンルを確立させたのは、クレオール言語を話すブラック・カリブである。ズークの歌の多くはアンティル系のクレオール(フランス語系)で歌われる。

Wikipedia「ズーク」より

フランス領マルティニークと言えば、名著「黒い皮膚・白い仮面」で有名なフランツ・ファノンの出身地。NHKの「100分de名著」にこの「黒い皮膚・白い仮面」のファノン回があるんですが、これ観て僕は号泣しました。ここでは詳しく語りませんが、ファノンの「おお、私の身体よ、いつまでも私を、問い続ける人間たらしめよ!」という締めくくりの言葉に対して伊集院光さんが引いた補助線の切れ味が凄まじかった名場面。気になる方は書籍、またはこちらの裏話をぜひ。

肝心なズークに関する詳細は、音楽評論家である高橋健太郎さんと渡邊未帆さんによるCINRAでの対談がとても勉強になったのでシェアします。ズークバンド「Kassav'」から読み解くズーク誕生の歴史と背景がよくわかります。

早速Kassav'のアルバムをいくつか聴いてみたところ「めっちゃPapa Wembaっぽい!」というのが僕の素直な感想でした。実際Kassav'のメンバーであるJean-Claude NaimroとPapa WembaはJeanの1996年のソロアルバム「Digital Dread」の収録曲「Ou Pèd La Klé A!」で共演していますので、同時代のアーティストとしてお互いに密な交流があったことが伺えます。


さて、そろそろズークからキゾンバに話を戻していきましょう。

日本でキゾンバを好んで聴いている方がいるのなら、おそらくはダンスの1ジャンルとしてキゾンバを踊っていらっしゃる方なんじゃないかと思い、Youtubeでキゾンバのダンス動画を調べてみました。
きっとキゾンバってめちゃくちゃ激しいダンスなんだろうと思いきや、思ってたほど激しくない。いやいや、ダンサーの方々にしてみれば僕ら素人が思う以上に実際は激しいのかも知れません。でもおそらく動きの激しさよりも情感というか、まるでチークダンスのようにセクシーで素敵だなと思いました。

なるほど、ダンスとしてのキゾンバはこういう感じなのか。
この辺のニュアンスを押さえた上で次は音源を聴いてみることにします。
今回はSpotifyに上がってた「KIZOMBA2023」というプレイリストから2組のアーティストをピックアップしてみました。


Anna Joyce

プレイリストの中でいきなりヤラれてしまった曲がありました。Anna Joyceの「Destino」という曲です。

このサビの威力たるや。何回聴いても泣ける。ヤバい。これは僕の感覚なんですが、同じポルトガル語圏だからなのか、コードに対するメロディの乗せ方がブラジルのポップスに近い感覚がありますね。

Anna Joyceは1987年アンゴラの首都ルアンダ生まれ。幼い頃に暮らしていたポルトガル・リスボンの児童合唱団で唄を歌い始めます。その後シンガーでプロデューサーのJohnny Ramosと出会い彼のツアーへの参加や、アンゴラ出身のDJ・プロデューサーであるDJ Kapiroの曲にゲスト参加するなど、着々とキャリアを重ねていた2011年、突然彼女は脳腫瘍に倒れます。
すぐさまイギリスで手術を受け、1年をかけて彼女は無事復活。同時に音楽活動も再開した彼女は、アンゴラ出身で世界的にも有名なアーティストAnselmo Ralph(アンセルモ・ラルフ)が所属するレーベル「Bom Som」と契約、そしてAnselmo Ralphを手掛けるプロデューサーNelson Klasszikの手によりレコーディングを行います。

Anselmo Ralph


Anselmo RalphのKizombaヒット曲「Não Me Toca」もご紹介しておきます。


彼女の腫瘍は「下垂体腫瘍」という病名らしく、調べたところ下垂体がぶら下がる茎の部分から発生する腫瘍で、視力視野障害やホルモン機能の異常で発症。 基本的には良性腫瘍であるため、腫瘍を残さずに全て摘出することができれば完治することも可能とのこと(東京女子医科大HPより引用)ですが、どうやら2021年2月に摘出手術を受けたらしいので、最新アルバムである「Anna」は脳腫瘍手術から復帰してすぐ製作されたアルバムということになりますね。

大病を乗り越え音楽の力でアンゴラの人々をエンパワーするAnna Joyce、ぜひ注目して頂けたら嬉しいです。これは本当に良いアルバムなので。


Claudio Fénix

もうひとりアンゴラのキゾンバアーティストを紹介しましょう。
Claudio Fénixです。
1992年生まれの彼もアンゴラの首都ルアンダ出身。6歳で教会の合唱団に入り歌い始めます。彼は17才で音楽のキャリアをスタートさせました。Kizomba、Zouk、Afropop、R&Bが彼の音楽的バックグランド。
「Volta Só Já」「Minha Mulher」などの彼のヒット曲を聴いてみると、純粋で美しいメロディと心に染み入るような彼のメロウなボーカルが映えるセンチメンタルな世界に浸ることができます。

どうやらアンゴラのアーティスト達は全力でメロウ&センチメンタルに寄せてくるようで、他にもBruna TatianaやRui Olandoといったアーティスト達もみんな激しくスィート。アンゴラ全員「Ti Amo」状態。めちゃくちゃいい国!


(番外編)Força Suprema 

このままだと甘いデザートだけで終わってしまうので、少し苦みの効いたエスプレッソのようなアーティストもご紹介したいところ。そんな苦みと芳醇な香りをバキバキに漂わせてくるヒップホップクルーがForça Supremaです。
アンゴラでは絶大な人気を誇るヒップホップグループのようで、NGA、Masta、Don G.、Prodígioという4人のメンバーで構成されるForça Suprema、そのキャリアはなんと20年!もはやレジェンドの域。
この「Deixa O Clima Rolar」も最新シングル「Se Tu Me Deixares」もカッコ良すぎ!トラックメイクのセンスめちゃくちゃ良いと思います。

そしてこの「Se Tu Me Deixares」は元ネタとしてマイケル・ジャクソンの「Remember the Time」を使ってますね。しかも、ついさっき紹介したAnselmo Ralphがゲストボーカルで参加してました。

実はポルトガル語のラップって初めてだったんですが、僕は違和感全然なかったです。タフでロマンチックでリアルなForça Supremaの音源を今年は更にじっくり紐解いていきたいなと思いました。

というわけで今日はアンゴラの音楽シーンからKizomba(キゾンバ)と、番外編でアンゴラのヒップホップを紹介しました。ポルトガル語なのでアーティストのバイオグラフィーなどの情報を探し出すのにちょっと苦労しましたが、今回もまた新しいアフリカ音楽にたくさん触れることができて、新鮮な驚きをたくさん受け取ることができました。

そしてそして最後に告知になりますが、明日1/3のJ-WAVE「SONAR MUSIC」で、2023年大注目のアフリカンアーティストを紹介させて頂きます!

SONAR MUSICツイッター公式アカウント

SONAR MUSICのオンエアは22時から24時。
僕の出演は23時過ぎの予定です。
2023年もJ-WAVEと一緒に素敵な音楽をお楽しみください!

ここまでお読み頂きありがとうございました。アフリカ音楽キュレーターのアオキシゲユキでした。


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