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UKのAfroswingとAfrobashmentが拡張するアフリカ音楽の可能性。

今年7月21日、UKのレコードチャート「Official Charts」に新たなジャンルとして「Afrobeats」が誕生しました。このチャートは英国のレコード業界と音楽コンテンツ小売業界によって運営されており、文字通り「公式」と呼べる長い歴史を持ったチャートで、それだけ現在の英国においてアフリカ音楽、特に「Afrobeats」と呼ばれる市場が大きく広がってきていることの現れだと思います。

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最新のAFROBEATSチャートはこちらでチェック!

しかしこの「Afrobeats」、実はUKでは他にも呼び方がいくつかあって「Afrobashment」とか「Afroswing」と言ったりもします。ちょっとややこしいですよね。
ではこの3つの呼び名って一体何が違うんでしょう?
オンタイムでそのシーンに触れていた訳ではないのでWEB上の情報源を辿ってみたところ、ナイジェリアやガーナをはじめとする西アフリカのポピュラー音楽「Afrobeats」と、トラップやヒップホップ、R&B、グライム、そしてダンスホールなどが混ぜ合わさって生まれたムーブメントのようです。2010年代初めに台頭してきたFuse ODGMista SilvaTimboKwamz&Flavaなどによる「UK Afrobeats」と呼ばれる音楽がその原型となっています。
その後、当時BBC 1XtraのAustin Daboh(彼はBBC、Spotify、Apple Musicなどでキャリアを積んだディレクター)が考案した「Afrobashment」をSpotifyが、アーティストのKojo Funds(後述)が考案した造語「Afroswing」をApple Musicが、それぞれ自分たちの音楽配信サービスのプレイリスト名に採用したことで2つの呼び名が定着したようです。
分かりやすく表記すると、

Afrobashment・・・Austin Dabohが命名 → Spotifyが採用
Afroswing・・・Kojo Fundsが命名 → Apple Musicが採用

ということです(Wikipedia Afroswing および ガーディアンの記事参照)

ちなみに「Afrobeat」と「Afrobeats」も意味が違っているようで、「s」が付かないほうの「Afrobeat」はいわゆるフェラ・クティトニー・アレンなどが主に1970年代に一世を風靡したアフロビートのことを指すそうです。

ややこしいついでにもう一つ言うと、Wizkidが楽曲をリリースする時に「Wizkid」名義で切る時と「Starboy」名義で切る時があって、ややこしいのは「Starboy」名義で切った時に「ft. Wizkid」と入れてくることがあるんですね。「Starboy」は彼の愛称でもありますが同時に自分のレーベル名でもあるので、「Starboy」名義の時は個人よりもプロダクションとして意味合いが強いリリースなのかなと思うんですが、個人的には何となくライセンスや印税的なところも計算してやってるのかな、とも思ってます(笑)


さて、では本題に入っていきましょう!UKのAfrobeatsシーンから4組のアーティストを紹介させて頂きます。

Kojo Funds

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1995年ロンドン生まれのKojo Fundsは、ガーナとドミニカの血を受け継ぐシンガー・ソングライター&ラッパーです。
プロデューサーのGAと共に2016年にリリースした「Dun Talkin」(ft. Abra Cadabra)が、2017年のMOVOアワードでBest Newcomerにノミネートされたことによって、この新しい音楽は「Afroswing」と認識されるようになり、彼は「Afroswingの王」という称号を手にすることになります。
(参照記事)https://crackmagazine.net/article/long-reads/kojo-funds-king-afroswing/


そして翌2017年にはYxng Baneとの「Fine Wine」、Mabelとの「Finders Keepers」がそれぞれBPI(British Phonographic Industry)のシルバーとプラチナディスクに認定され確固たる人気を集めます。


昨年2019年の夏にリリースされた「I like」ではWizkidをフィーチャー。メロウかつ極めてセクシーなビデオに仕上がってますね。

自分のルーツでもある西アフリカとカリブの要素をDance hallやRoad Rapと組み合わせ、UKのアフロシーンの中心人物としてこれからの展開がとても期待出来るアーティストです。


J Hus

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これまでいくつかアフリカ関連の音楽記事を書いてきた中で、一番日本語の情報が多かったのがこのJ Husでした。もちろん彼はアフリカの文脈で語られている訳ではないんですが、記事起こしをする上では非常に助かりました。
J Husはイーストロンドン出身のラッパー&シンガーで、ガーナとガンビアの血を受け継いでいます。先程ご紹介したKojo Fundsの「Want from me」のRemixを始めとするいくつかの曲を2014年にオンラインで公開、そして翌2015年にリリースしたミックステープ「The 15th Day」でもダンスホールやアフロビーツを取り入れたサウンドで一躍注目を集めます。その後も「Friendly」「Playing sports」などのシングルをリリースしたのち、2017年の1stアルバム「Common Sense」からのリードシングル「Did you see」で初のトップ10入りを果たしました。


Buuna Boy
Stormzyからもフィーチャーされるなどしてその存在感は着実に高まっていきます。そして2020年リリースのセカンドアルバム「Big Conspiracy」ではBuuna BoyKoffeeElla Maiらをゲストに招き、見事に英国アルバムチャートで1位を獲得します。


J Husの音楽を語る上では1stアルバムからの盟友であるプロデューサーJae5の存在が欠かせません。

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Jae5は10歳から13歳までをガーナで過ごし、その頃から兄の影響でPCDJやFruity Loops(現FL Studioの初期のネーミング)を使った音楽制作に触れています。驚くことにJae5がフェイバリットに挙げるアーティストの中にはセリーヌ・ディオンが含まれていて、この頃セリーヌをよく聴いていたとのこと。また、現在彼が音楽制作をする上でのインスピレーションはダブステップからの影響が大きい、とインタビューで答えています。

ちなみにJ Husといえばやはり彼の逮捕歴。彼はナイフ所持などの理由で2011年、2014年、2015年、2018年と合計4回逮捕されており、2015年にはナイフで刺されて入院、その入院中のベッドの上でギャングサインをしている写真をSNSに投稿して物議を醸すなど、リアルにストリートギャングの側面もあるのです。彼が身を置いている環境のハードさとは逆に、名作「Big Conspiracy」の中にはメロウで哀愁の漂うトラックも多く、彼のそうした人物像と音楽性が深く濃く楽しめるアルバムになっているのではないかと思います。

という訳で最後は冒頭で紹介したKojo Fundsの「Want From Me」のJ Hus Remixヴァージョンをお届けします。


NSG

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最初に言ってしまうと、僕個人的にはこのNSGがとても好きです。
NSGはガーナ&ナイジェリア系のKruddz、Mojo、OGD、Dope、Abz、Mxjibという6人のメンバーで構成されたイーストロンドン出身のコレクティブで、2013年に「Whine&Cotch」という曲をリリースしたところからキャリアをスタートし、2017年にGekoをフィーチャーした「Yo Darlin'」、そして2018年にはTion Wayneをフィーチャーした「Options」が続けてヒット。

ちなみに先程紹介したJae5NSGのプロデュースにも携わっていて、NSGJ husの初期のミックステープ「The 15th Day」の「Forget a Hater」という曲で共演しています。
また、今回は取り上げませんでしたが、やはりこのシーンの重要人物であるNot3sと「Pushing Up」という曲でコラボしたり、UKの人気ラッパーNinesの最新シングル「Airplane Mode」ではNSGがフィーチャーされたりと、UKのAfrobeatsシーンに欠かすことのできない存在となりました。

ミュージックビデオで観る彼らは、音楽のクールさだけでなくファッションセンスもメンバーそれぞれに個性があって最高だし、ビデオのエディット感もいいですね。認知度ではどうしてもJ Husの存在の陰に隠れてしまいますが、これからもっと大きなうねりを起こしそうな勢いを感じるNSG。何と言っても6人組というだけでJurassic 5みたいなので、僕は無条件で大好きです(笑)


Lotto Boyzz

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彼らについての説明の前に、まずは是非この曲を聴いてください。

正直、僕はこの曲にやられてしまったのがきっかけで、今回UKアフロビーツを記事にしようと思ったぐらい強烈なパンチ力の曲でした。リズム、メロディ、ビデオの完成度。Lotto Boyzzのことを知らなかった僕は、最初はこれをナイジェリアの新しいアーティストだと勘違いしていて、「ナイジェリアからとんでもないアーティストが出てきた!」と驚いたんですが、よく調べたらUKだったという話です。ゲストヴォーカルのKamilleとの相性も最高だし、後半メインで踊ってるダンサーもカッコいいですね。

彼らはバーミンガム出身のAshLucasからなる2人組で、当時はそのままAsh&Lucasと呼ばれていましたが、途中からLotto Boyzzに改名します。他のAfrobeats系アーティストと一線を画す彼らの特長は、アフロポップに更にR&Bテイストを足したようなポップで美しいなメロディと洗練されたトラックのバランスです。


こちらはグライムアーティストJayKaeをフィーチャーした、地元であるバーミンガムにオマージュを捧げた曲で、映像に出てくる場所はすべてバーミンガムのランドマークとのこと。


ちなみに番外編として、Lotto BoyzzよりもっとメロディアスなAfrobeatsになるとWSTRNというアーティストがいまして、メロウなアフロがお好きな方でしたらぜひ聴いて頂きたいんですが、この「Night & Day」なんかはまさにUKからしか出てこないタイプの音じゃないかなと思います。


というわけで今回は現代のUKのAfrobeatsシーンを代表するアーティストを4組ご紹介しました。今世界的に人気が高まっているAfrobeatsは、ナイジェリアやガーナというアフリカの国だけを「点」で観るだけではなく、UKやUS、そしてカリブ海などの音楽シーンも含めた「面」で観ていくと、また違った世界が広がってくるように感じます。

そして何よりアフリカのアーティストにとっては、Afrobeatsというプラットフォームで才能を発揮し人気を集めることができたなら、英国を経由してアメリカ、そして世界中のリスナーにアクセスするチャンスが以前に比べ拡大していると言うことができると思います。

昨今のUK Afrobeatsシーンの盛り上がりと、アフリカン音楽を取り入れて独自のカルチャーに昇華させるUKのクリエイティブを知って、アフリカ音楽がこれからの時代のスタンダードになっていくのではないかという仮説が確信に変わりましたし、音楽の世界においてUKのアーティスト達が果たす役割は、いつの時代も極めて重要な意味を持つということもあらためて感じました。

長文を最後までお読み頂きありがとうございました!
アフリカのオシャレ集団「SAPEUR」からインスパイアされ誕生した金属製蝶ネクタイ「Metal Butterfly」のプロデューサーでアフリカ音楽キュレーターのアオキシゲユキでした。

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