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AfrobeatsとR&Bが溶け合う、世界で一番メロウな場所。

皆さん、こんにちは!
アフリカ音楽キュレーターのアオキシゲユキです。

10月13日にJ-WAVEの音楽番組「SONAR MUSIC」に出演させて頂いたのですが、なんとその時の内容を「J-WAVE NEWS」の記事として掲載して頂きました。J-WAVEの皆さん、そしてSONAR MUSICの番組の皆さん、本当にありがとうございます!当日ご紹介した内容がギッシリと詰まってますので、番組を聴いて下さった方も初めましての方も、ぜひ一度覗いて頂けたら嬉しいです。


番組でもお話させて頂いたのですが、今ナイジェリアやガーナなどのAfrobeatsとUKのシーンは非常に密接な関係を築いており、互いが互いに影響を与え合いながら楽曲のクオリティを高め着実にAfrobeatsサウンドを世界に向けて発信しています。この辺については以前投稿したAfroswingAfrobashmentの記事で詳しく触れていますので、ご興味がございましたらお読み頂けると嬉しいです。


この記事ではKojo FundsJ HusなどUKのHiphopアーティストをご紹介しましたが、Afrobeatsの影響を受けているのはHiphopだけではありません。実はR&Bアーティスト達も今次々とAfrobeatsのサウンドを自分たちの楽曲に取り入れて始めています。
そこで今回はR&BAfrobeatsが現在進行形で溶け合っている世界で一番メロウな場所を皆様にご紹介していきたいと思います。


Jorja Smith

まず初めはfeaturing系で、Buuna Boyをゲストに迎えたJorja Smithの「Be Honest」です。

Jorja SmithはUKのウォルソール出身のシンガー/ソングライター。彼女はジャマイカ人の父(2nd Naichaというネオソウルグループの元シンガー)と、ジュエリーデザイナーであるイギリス人の母との間に生まれました。8歳からピアノを、その後はクラシックの歌唱法を学び、18歳からはロンドンのスターバックスで働きながら作曲活動を続け、2016年にデビューシングル「Blue Lights」をSoundCloudでリリース。この曲がいきなり人気となって大きな注目を集め、Drakeのツアーに抜擢されただけでなくDrakeの曲でもフィーチャーされました。その後も「Where Did I Go?」や「On My Mind」などがヒット。UKだけでなく世界的にも活躍の場を広げている注目のR&Bシンガーです。

2019年8月にリリースされたこの「Be honest」の前、7月にリリースされたBurna boyのアルバム「African Giant」の中にJorja Smithをフィーチャーした「Gum Body」という曲が収録されています。「欲しいんだったら正直になって」と歌う「Be Honest」と、「君が恋しい 君を失いたくない」と歌う「Gum Body」は、まるで2つの歌で1つの物語を成しているようにも感じられます。
ちなみにJorja Smithの曲で私の個人的な好みはアルバム「Lost & Found」収録曲の「February 3rd」です。このアルバムはJorjaのボーカリストとしての魅力が詰まった聴きごたえあるアルバムだと思ってます。


Mahalia

同じくこちらもfeaturing系で、またもや登場のBurna boyをフィーチャーしたMahaliaの「Simmer」です。

MahaliaはUKのレスター出身のR&B・ソウルシンガー。なんと13歳でメジャーレーベルと契約を交わした天才歌姫です。父がイギリス系アイルランド人、母がジャマイカ人というルーツを持ち、両親共にミュージシャンです(ちなみに父はErasureAndy Bellがヴォーカルを務めるシンセポップバンド)のサポートミュージシャンで、母は元Colourboxのメンバー)。
Mahaliaは今UKの若手で一番期待されているアーティストと言っても過言じゃないと思います。Mahaliaの2019年の1stフルアルバム「Love & Compromise」は本当に名盤で、ゲストにはアメリカ西海岸の重要人物であるあのTerrace Martinや、今アメリカで注目の若手シンガーLucky Daye、そしてUKからはElla Maiが参加しています。
このアルバムにも収録されている「Simmer」は先程のJorja Smithの「Be honest」より1か月早い2019年7月にシングルとしてリリースされているので、おそらくBurna boyは同じ時期にこれらの曲のレコーディングをこなしているんじゃないかと思われます。働き者ですね。


Nao

続いてもUKから紹介するR&BシンガーでNaoの「If You Ever」です。

Naoと言っても日本人ではなく「ネイオ」と読みます。彼女もジャマイカの血を受け継いでいて、幼い頃にゴスペルピアノやジャズヴォーカルを学び、Jarvis Cocker(ロックバンドPulpのフロントマン)などのバックシンガーを経験し、2014年までの6年間はThe Boxettesという女性アカペラグループにも所属していました。2014年には「So Good」、翌2015年には「15 February」と2枚のEPをリリース。また同じく2015年にはDisclosure(UKのダンスミュージックユニット)のアルバム「Caracal」に収録された曲「Superego」でフィーチャーされるなど次第に注目を集めていきます。
彼女の特徴はなんと言ってもその声。非常に特徴的なその声を堪能して頂くなら絶対にこの名曲「Orbit」だと思います。

6LACK(アメリカ・アトランタ出身のラッパー。ブラックと読みます)をフィーチャーした「If You Ever」がAfrobeatsかと言われると「辛うじてリズムは・・・。」という感じではあるのですが、おそらくこうした感覚で今後Afrobeatsの要素を多くのR&Bアーティストが自分の楽曲に取り入れていくであろう、という予想から選んでみました。

(2021/01/25追記)
Twitterでは話題に上げていたのですが、年明けすぐにNaoの新曲がリリースされました。しかもそれがナイジェリアの人気シンガーAdekunle Goldをフィーチャーしたド真ん中Afrobeatsだったのでびっくりしました!
Adekunle Goldは昨年、妻でありシンガーでもあるSimiとの間に第一子が誕生していますが、同じくNaoも昨年初めての子供を出産しており、この曲ではAdekunleとNaoそれぞれが我が子の誕生によってもたらされた人生の喜びを歌詞に込めています。

ちなみにAdekunleの奥さんSimiが妊娠中に制作した「Duduke」(Dudukeというタイトルはお腹の中にいる赤ちゃんの胎動を表現した言葉だそうです)も優しさ溢れる曲なので、こちらも併せてぜひお聴き頂けたら嬉しいです。


Abir

続いてはモロッコ・フェズ出身でニューヨークを拠点に活躍するAbirです。

聴いて頂けばお判りのとおり、随所にアラブ感が感じられるアフロポップに仕上がってますね。元々Abirはここまでアラブ感のある楽曲はリリースしてきておらず、初期は割とEDM的というかエレクトロ交じりのR&Bもしくはフューチャーソウルといった感じでした。しかし2018年リリースのEP「MINT」のリード曲である「Tango」で私はガツンと持っていかれたのを覚えてます。個人的にダントツで2018年のナンバーワンソングでした。

この「Tango」のテイストでずっと行ってくれたらいいなと思っていましたが、つい先日Abir初のフルアルバム「HEAT」を聴いてみたら、今度はモロッコ感を前面にプッシュしたアラビアンR&Bに方向性が大きく変わっていました。物事って自分の思う通りにはなかなか進まないですね(笑)でもこれはこれで非常に良い仕上がりなので最近もよく愛聴してます。


Shay Lia

そして最後も新作で大きく舵を切ってきたR&Bシンガー、Shay Liaです。

Shay Liaは去年リリースの1stアルバム「Dangerous」が恐ろしい程にカッコ良くて瞬時にハマってしまったアーティストです。彼女はアフリカのジブチ(紅海の入口にあって対岸のイエメンと向かい合う小さな国です)で幼少を過ごし、現在はカナダのモントリオールを拠点にするシンガーで、同じカナダのプロデューサーKaytranadaにその実力を認められ次第に頭角を現してきました。そのKaytranadaがプロデュースを手掛けたShay Liaの名盤「Dangerous」からまずは1曲お届けします。

そんなShay liaが今年2020年9月リリースのEP「Solaris」で突如Afrobeats化しました。一体彼女に何が起こったのか、まずはこちらのリードシングル「Love Me, Love Me Not」をお聴きください。

とあるインタビューでShay Liaは「これは1つのプロジェクトで、私の中にあるもう片方の側面を表現したもの」と語っています。つまりこれまで彼女がアーティストとして表現してきた領域とはまた違った側面、特に自身のアイデンティティについて(彼女がジブチ人の血を受け継ぎ、4歳から18歳までをジブチで過ごしたその経験の中で培ってきたもの)を、Afrobeatsという新たなフォーマットを活用して表現したかったということになります。

また別なインタビューでは「Beyoncéは常に刺激的で、The Lion Kingのアルバムで全てが可能なことを彼女は示してくれた」と語っており、あのアルバムが今回の制作における大きなきっかけであること、また彼女はR&BとAfrobeatsの融合に関心を抱いていて、Tiwa Savageが自身に多大なるインスピレーションを与えてくれたとも語っていました。その他にもOxladeRemaAdekunle Goldなどの名前も挙がっており、彼女が現在のナイジェリアンアーティストやプロデューサー達からインスパイアされていることが良く分かります。
ちなみに小ネタですが、「Solaris」1曲目の「Irrational」の随所に使われてるフレーズはJunior Seniorの「Move Your Feet」ですね。こういうところでJunior Seniorに再会できるのも音楽の楽しみ方のひとつ。懐かしくなっちゃいました。


というわけで、今回は「AfrobeatsとR&Bが溶け合う、世界で一番メロウな場所」というテーマで、R&Bシーンが今後Afrobeatsを取り入れながら一つの大きなトレンド(例えばAfro R&Bみたいな呼び名が付く等)になっていくのではないかという私の予測も含めて5人の女性アーティストをご紹介してきました。最後のShay Liaがまさにひとつのモデルケースなんじゃないかなと感じてます。実際、メロディやコード感はR&Bのテイストが強くリズム側でAfrobeatsという印象を感じていて、そこがナイジェリアやガーナ系と大きく違うところではありますが、R&Bもしくはソウルのメインストリームで活躍するアーティストとして、自身が積み重ねてきたキャリアと自己のアイデンティティを融合させ新しい作品をクリエイトしていく上でAfrobeatsがひとつのプラットフォームとして存在しうることの表れでもあり、このAfrobeatsのマインドをどのように取り入れ表現していくか、今の時代背景も含めてShay Liaの今回の作品は非常に興味深い展開だと思ってます。
そこで次回はこの流れの源流にある一人のアーティストにフォーカスを当てて深く掘っていきたいと思いますので、次回もどうぞお楽しみに!

また、個人的にはパルプジャービス・コッカーとかイレイジャーアンディ・ベル(ハリケーン#1やOASISの元メンバーのアンディ・ベルとは別人です)そしてJunior Seniorまでが思わぬところで出てきたことに驚いた回でもありました。非常に懐かしい!


(2020/11/14追記)
一番大事なアーティストを紹介し忘れていました。
AshantiAfro Bをフィーチャーした「Pretty Little Thing」です。

言わずと知れたAshantiですが、彼女の名前はかつてガーナの内陸部にあった「Asyanti Empire」(アシャンティ王国またはアシャンティ連合)がその名の由来となっています。今やアメリカR&B界の頂点に君臨する女王でもあるAshantiが最新シングルでフィーチャーしたAfro Bはコートジボワール系イギリス人のDJ/シンガー/ソングライターで、Hiphop + Dancehall + Afrobeatsをfusionさせた「Afrowave」の提唱者でもあります。
この「Pretty Little Thing」の1つ前のシングル「The Road」辺りから明らかにこれまでとは違う方向性を打ち出してきている(The RoadはソカシンガーMachel Montanoとのコラボ)ので、女王Ashantiの今後の展開がどうなっていくのかも楽しみのひとつです。

(2020/11/15追記)
もう1曲ありました。John Legendの「Bigger Love」!

今年4月にリリースされた「Bigger Love」のMVは、世界中のファンから集まった動画を使って作られており、その後7月にリリースされた同名のアルバムも、家族やファンやブラックミュージックに対するJhon Legendの「大きな愛」が込められています。プロデューサーには元Tony! Toni! Tone!Raphael Saadiqを迎え、Johnの強い想いが音に乗って全方位から飛び込んでくるような強烈なバイブスのアルバムに仕上がってます。
初めて「Bigger Love」を聴いた時は、イントロで一瞬「Burna boyの新曲かな?」と思ってしまいました。Afrobeatsの美味しい部分をちゃんと抽出した上で、しっかりとJohn Legend印の味付けに仕上げてるなぁと感じます。特にAメロの、

all I wanna do is just fall in

のメロディ&節回し&歌い方は確実にBurnaを意識してると私は勝手に思っていて、逆にこういうのを聴かせて貰うことによって「Burna boyって凄いな」と再認識しますし、同時に音楽やアーティストに対するJohn Legendの誠実さとリスペクトの気持ちも伝わってきます。


最後までお読み頂きありがとうございました。
金属製蝶ネクタイMetal Butterflyのプロデューサーでアフリカ音楽キュレーターのアオキシゲユキでした!

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