ViQQの最新EP「ECHOES」について本人に直接インタビュー!【AFROPOP NOW! Vol.1】
アフリカ音楽キュレーター・アオキシゲユキです。
Afrobeatsそしてアフリカ音楽フリークの皆様、大変お待たせ致しました。以前このnoteで紹介したところ予想を超えるたくさんの反響を頂いたナイジェリアのインディーズアーティスト「ViQQ」を今回再び取り上げてみたいと思います。
まだViQQを知らないという方!ぜひ過去のインタビュー記事をお読み頂けたら嬉しいです。僕らが知り合うことになった経緯を簡単にまとめています。
はい、実はViQQのことは僕が去年SNSでナンパしました(笑)
この2年ぐらい本当に様々なAfrobeatsを聴いてきましたが、どこにも属さない繊細なメロウネスを彼に感じたんですね。なのでついつい出来心で彼に声をかけてしまったわけです。
そんなViQQがこの度、4月7日に5曲入りの新しいEP「ECHOES」をリリースし、リリースの際には直接「シゲ、新しいEPが出来たから聴いてよ!」とメッセージを送ってくれました。
ViQQの音源は上記のリンクから各音楽配信サービスで聴くことが出来ます。
そんな訳で今回もViQQにインタビューのオファーをしてみたら、彼も快く引き受けてくれました。今回は【AFROPOP NOW!】と題して「ECHOES」制作の経緯や各楽曲の説明、そしてナイジェリアの現状などについても聞いてみましたので是非お楽しみください!
<アオキ>
まずは新しいEP「ECHOES」のリリースおめでとう!君の新曲が届くのをずっと楽しみにしていました!それじゃ早速インタビューを進めていくね。
今回のEP「ECHOES」の全ての曲を最初に聴いた時、トラックとメロディの融合がとても素晴らしいと思ったよ。例えば「November 30th」のコード感は非常に情緒的でクールだよね。
<ViQQ>
ありがとう!僕は2019年の11月30日にこの「November 30th」を録音しました。ガールフレンドのためにね。そう、11月30日は彼女の誕生日だったんです。そして彼女は今でも僕のガールフレンドだよ(笑)
Festac(→1977年に開催されたWorld Black and African Festival of Arts and Cultureの観客を収容するために設計された街で、名前は芸術祭の頭文字が由来となっている)に滞在していた友人が部屋にスタジオを持っていて、そのスタジオに行く何日か前に音源を渡してくれてたので、僕は事前に歌詞を書く充分な時間を持つことができたんだ。そして彼女の誕生日を祝った後にスタジオで曲を録音し、その夜彼女に出来たばかりの曲を送ることができました。想像通り彼女はとても喜んでくれたし、凄く興奮してくれました。非常に思い出深い曲だね。
<アオキ>
それ凄い!彼女の誕生日のためにこの曲を制作したなんてめっちゃロマンチックだね!やるなぁ。
<ViQQ>
僕にできることなんてそれくらいしかないよ。彼女は学校に通っていたので遠く離れていたんだ。離れている彼女の気持ちが少しでも楽になればと思いました。
そして、今回の「ECHOES」に収録する曲を選ぶ上では、この「November 30th」が選曲のベースになったんだ。曲が方向性を示してくれたね。
<アオキ>
そっか、君は本当に彼女思いのナイスガイだよ。そして「ECHOES」にとっても重要な意味を持つ曲なんだね。せっかくだから是非他の楽曲についても教えてください。
<ViQQ>
OK!まず3曲目の「Be With Me」も同じ友人の部屋のスタジオで録音しました。つまり2019年にレコーディングした曲が2曲あるってことになるね。
それから2曲目の「Comfy」は、2020年にIkorodu(ラゴスの北東にある大都市)にある別な友人の自宅スタジオで作りました。誰が作ってくれたビートなのかは覚えていないんだけど、友人の誰かからビートを貰って自分のパートを録音し、その後に「この曲にはラップのヴァースが必要だ」と感じたんだ。そこで僕の友人でもあるイギリスのアーティストKagedimesに曲のデータを送ったんです。そうしたら彼が見事に仕上げてくれてこの曲が生まれました。
4曲目に収録されている「Judi」もIkoroduで作りました。これはフリースタイルのトラックです。私はいくつかのモチーフだけを先を書いて、あとは自由にフロウして無事にレコーディングできました。全く問題なかったね。
5曲目の「Tear It Apart」だけが2021年に制作した唯一の曲で、これはLekki(ラゴスの東南にある半島で自由貿易地区として開発が進行中)にある友人のホームスタジオで作ったものだね。今年の割と早い時期に。
実はこれらの曲について、当初は一緒にまとめる予定はなかったんだ。しかし「ECHOES」はひとつのアイデアから始まった。それは衝動のようなものでもあり「何かを紡ぎ出したい」という願望でもあったんだ。(過去に収録した)曲を何度か聴いているうちに、ふと「これらは一緒にリリースされる運命にある」と感じたんだ。それを理解するのは難しいことじゃなかった。これらの曲達は思いがけず私の目の前に姿を現したようなもので、そのことに気付いてしまったらもうリリースしたくてどうしようもなかったんだ。そして今、私はこのEPを世界中の人々の耳に届けるために全力を注いでいるんだ。
<アオキ>
なるほど!今回の「ECHOES」リリースの経緯やそれぞれの曲がどのように作られていったのか、とてもよく分かったよ。ありがとう!私は「Be with me」も「Judi」も大好きで、とても洗練されたグルーヴを感じてる。ちなみに「Judi」ってどういう意味なのかな?
それと、ナイジェリアのアーティストの曲を聴いていると、曲のクレジットに「フリースタイル」という表記をよく目にするんだけど、これは他の曲とどう違うのかな?
<ViQQ>
「Judi」は「Dance」の意味さ。それからフリースタイリングは、リリックを書かずに頭の中でビートに合わせて歌ったりラップしたりすることだよ。私たちのナイジェリアでは「作詞」と「フリースタイル」は全く別物で、昔からフリースタイルの曲には必ずと言っていいほど「Freestyle」というクレジットが表記されているんだ。
「Judi」は歌詞を書いたのではなくフリースタイルで歌ったものだよ。僕は普段フリースタイルであることを明記しないんだけど、この曲はとてもチルな曲であらかじめ歌詞を書くような感じではなかったので、敢えてフリースタイルであることを明記しました。そのことをとても気に入ってるよ。
<アオキ>
なるほどね。フリースタイルがあるのはラップだけだと思ってたんだけど、歌にもフリースタイルが存在するんだね。日本とは違う感覚だなぁ。
さて、今度はビートやトラックのことについても聞きたいんだけど、君はトラックを選ぶセンスがとても良いと僕はいつも感じてるんだ。自分でトラックを作ることもあるのかな?例えば「FL Studio」のようなDTMソフトを使って。
<ViQQ>
うーん、自分の曲のミキシングやマスタリングは自分でするんだけど、ビートメイキングに関してはまだなかなかコツがつかめていないのが正直なところだね。つまり、ビートを作る方法は知ってるけど公式なものとして自分で作った曲は今のところないんだ。でも勉強中だよ。そしてもうすぐだと思う。もしかしたらみんなが思っているよりもずっと早いかも知れないね。なぜなら僕はそのことについていつも考えているから。そして、自分の曲のミキシングとマスタリングから多くのことを学んだから、きっと実現させてみせるよ。
<アオキ>
それはとても楽しみだね。君が作ったビートが聴ける日を楽しみにしているよ。ミキシングとマスタリングについてもっと尋ねてもいいかな。これらはとても重要かつデリケートな作業だと思うんだけど、その中で君が特にケアしていることは何だろう?
<ViQQ>
ミキシングとマスタリングは音楽制作において最も重要な要素だね。それと同時に最も複雑でもある。気をつけなければならないことがいくつもあるんだ。私が主に注意しているのはボーカルの明瞭さと曲の厚み、つまりヘビーさなんだ。
私はミキシングとマスタリングを行う時に、その新しい曲と自分が過去に制作してきた曲とを必ず比較するようにしているんだ。それだけで自分が何をすべきかが見えてくる。
これは難しいことで、1日で簡単にできるようなものじゃない。ミックスが正しく行われていることを確認するために、さまざまな出力(スピーカーやヘッドフォン)でミックスを聴き、あらゆるレベルの聴覚でプロフェッショナルなサウンドを作り上げる必要がある。とても難しいんだけど、でも同時にとても楽しい作業でもあるね。
<アオキ>
ミキシングとマスタリング作業はとても興味深いね。君が制作プロセスを非常に繊細に、かつ丁寧に進めていることを垣間見ることができたよ。ありがとう!
次はナイジェリアの音楽シーンについても触れたいと思います。
3月に大きなニュースがあったね!Burna BoyとWizkidがグラミー賞を受賞しました。これはとても大きな出来事だと思ってます。今アフリカ音楽そしてナイジェリアの音楽シーンは世界中から注目されているし、今後もますます注目されていくと思います。そのことについてはどう感じてる?
ナイジェリアを代表するアーティスト、Burna Boy(左)とWizkid(右)
<ViQQ>
そうだね、あの夜のことを思い出すよ!あの2人の受賞はまさにAfrobeatsが必要としていた評価だったと思う。それ以前から彼らは波に乗っていたけど、今回のグラミー受賞はその事実を強調するものだと思ったね。
そしてそれは明日への約束さ。Afrobeatsが世界的に広まっているということは、ナイジェリアの音楽が繁栄しているということ。あの日、私はAfrobeatsの一員であることをとても誇りに思ったし感謝してるんだ。
<アオキ>
まさにそうだね。その一方で昨年ナイジェリアでは「EndSARS」という大きなムーブメントがありました。多くのアーティストが政府に対して声を上げていたと思う。そんな混乱の中でもAfrobeatsはとてもメロウだった。アーティストとして、また一人の国民として、君は社会に対しどんなことを望んでいるんだろう?
<ViQQ>
そう、「EndSARS」の時期は間違いなくこの国の歴史の中で最もクレイジーな時期のひとつだった。警察(主にSARS)が罪のない一般市民を殺害し、恐喝するというような恐ろしいことに対して、みんなが一丸となって声を上げたのは初めてのことでした。
今ではその動きも下火になり、話題にする人も少なくなりました。しかし私たちの心の中にはこの「EndSARS」という出来事がしっかり刻まれていますし、2020年10月20日にLekki料金所で起きた平和的抗議活動に対する発砲事件「OCTOBER 20 2020」(※)を、私たちは決して忘れることはないよ。
多くのみんなと同じように私もこの国がうまくいくことを望んでいる。そう、もっと成長して欲しい。私たちはこの社会で多くのことを見たし経験してきた。だから今よりもっと進歩して、人々が安心して暮らせる社会がどうあるべきかの最低限の水準をただ夢見ているだけなんだ。
僕は進歩を望んでいる。これは我々ナイジェリア人の多くの人々にとって共通してることだと思う。
(※Lekki料金所に集まった平和的抗議活動の参加者に対し駆け付けた警官が突如として無差別に発砲、少なくとも12人が死亡。しかし実際の死亡者はもっと多いと言われている。事件の詳細はBBCのニュースを参照ください。)
<アオキ>
OK、君の考えを聞かせてくれてありがとう。そのとおりだね。単純な比較は出来ないけど日本もある部分では大きな問題をいくつも抱えている。僕はナイジェリアの平和と成長を心から願ってる。君のリアルな声と君の音楽の魅力を日本のリスナーに届けることが僕の役割だと思ってるんだ。
それじゃ今度はナイジェリアの魅力を日本に伝えていこう。例えばViQQの好きな食べ物とか、好きな女優さんとか、最近ラゴスで流行っていることとか。そうそう、お勧めの観光地があればぜひ教えて欲しいね。
<ViQQ>
機会があればぜひラゴスに来てください!ラゴスには色々な食べ物があるんです。日本の皆さんはどんな食べ物が好きなのかわからないけど、例えばジョロフ・ライスやホワイト・スープ、バンガ・スープ、パウンド・ヤムがあります。好きになってしまうメニューがきっとたくさんありますよ。私からのアドバイスは、出来るだけ色々な食事を試してみることです。
Jollof rice(ジョロフ・ライス)は、ココナッツオイルで炒めた肉をトマトで煮込み、いったん肉を取り出して煮汁で米を炊き、最後に肉を添えて盛るらしい。パエリアっぽくて美味しそう!
<ViQQ>
それから、私の好きな女優はジェネビーブ・ナジです。彼女は間違いなく最高だし、昔からずっと最高です。
Genevieve Nnaji(ジェネビーブ・ナジ) 最近だと映画「LIONHEART」で監督兼主演を務め、第92回アカデミー賞の国際長編映画部門へのノミネートを果たしました。「LIONHEART」はNetflixで観ることができます!
<ViQQ>
あと、こっちで今流行ってことだね。ダンスのルーティーンや音楽、ミュージックビデオなど、楽しいものからネガティブなトレンドまで日々色々と変わっているよ。「人気がある」という質問はもっと具体的じゃないと正直どう答えていいのかわからないんだけど、でもあえて言うなら音楽だけがこの国の本当の喜びだと思うね。世の中のほとんど全てのものが悪いし、誰もが出世することばかり考えている。そのな中で音楽だけは唯一誰もが真の意味での投資をしているものだと思います。
オススメの場所。うーん、そうだね。エレグシ・ビーチ、ランドマーク・ビーチ、クイロックス・ナイトクラブ、レッキ・コンサベーション・センター、ミュソン・センター(舞台とアートと音楽のパフォーマンス)あたりかな。ナイジェリアに来たらラゴス島に滞在することをお勧めします。きっとあなたの滞在を満喫できると思いますよ!
Lekki Conservation Centre(レッキ・コンサベーション・センター)はLekki半島のラグーンに隣接する自然観察保護区で、貴重な野生植動物が生息しています。
というわけで、最後はViQQがラゴスの観光局職員になってしまいましたが(笑)、今回はViQQの新EP「ECHOES」の制作の裏側やナイジェリアの料理、そしてViQQの好みのタイプについても聞くことができました。
最後に彼のサウンドロゴ(またはサウンドシグニチャー・・・曲のイントロなどに入る決めゼリフのようなフレーズのこと)についてViQQに聞いてみました。彼のサウンドロゴは「ViQQ PON TiN」というフレーズなんですが、この意味は「オレは乗ってる」「オレはいける」「ビートに乗ってる」「オレはオレ」というニュアンスになるみたいです。彼の曲のイントロで「Your Boy ViQQ PON TiN」というフレーズが聴こえたら、一緒に口ずさんでみて下さいね!
ViQQのリリース音源は以下のリンクからお好きな音楽配信サービスでお聴き頂くことができます。
ちなみにViQQって結構イケメンなんですよね。僕の知り合いの女性も「ViQQカワイイ!」ってビジュアルのほうも好きになってしまったようなんですが、そんなViQQのことをもっと知りたい方はぜひSNSでフォローして頂けたら嬉しいです。
ViQQのインスタグラムはこちら https://www.instagram.com/viqqofficial/
美しくメロウなメロディと優しさを奏でるAfro RnB/ Afro Fusionアーティスト、ViQQ。インディーズだとかメジャーだとか関係なく、自分がいいと思ったアーティストとこうして海を越え直接繋がることができる現代だからこそ、音楽の楽しみ方や新しい繋がり方は無限大の可能性があると思います。
ぜひ皆さんの毎日に彼のメロウでチルなAfrobeatsがいつも流れてくれたらいいなと思ってます。
そしてなんと、ViQQの音源が日本のラジオ番組で初オンエアされます!
FM川口のマンスリーレギュラープログラム「メタリックフライデー」の5月7日(金)19時からの生放送でViQQを紹介して戴けることになりました!!
この番組は金属加工の町工場を経営するおやっさんとカルロスさん、そしてラジオパーソナリティーの金谷美奈子さんがお届けする楽しいものづくり&音楽紹介番組です。川口にお住いの皆さんは85.6MHzにチューニング!そうじゃない方はリスラジなどを使って聴くことができますのでDon't miss it!!!
おやっさん・カルロスのメタリックフライデー
今回も最後までお読み頂きありがとうございました!金属製蝶ネクタイ「Metal Butterfly」のプロデューサー、アオキシゲユキでした。
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