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遠くを、ただ遠くを見よう。阿部重夫さんの「ストイカ」(Σtoica)創刊。


 日本ジャーナリズムの至宝、阿部重夫さんとは、彼がロンドンから帰国し、浪人の頃に知り合った。インターネットの勃興期であり、よく一緒に話をしたり行動をともにしたこともある。記憶に残っている阿部さんの発言は、僕が「インターネットというのは、どこの国でもネトウヨみたいなのが大量に出てくるのはどうしてだろう」と聞いたら「それは、左翼より右翼の方が楽しいからだろう」というようなことを阿部さんが言った。なるほど、左翼はクソ真面目で綱領とか正義感とかに拘束されているが、右翼の方が情念で好き勝手なことを語れるからな。キリスト教のカソリックとプロテスタントの違いにつながるのかも知れない。プロテスタントの大勢力であったピューリタンの語源は、「バカ正直」というようなものであったと聞いたことがある。

 インターネットは客観的に正しいことよりも、直感的に面白いことの方が拡散するポピュリズムのメディアなのだろう。

 阿部さんは「選択」の編集長になり、日経新聞時代に蓄積した情報人脈を駆使し、大スクープを連発した。しかし、やがて、「選択」の発行体制そのもののスキャンダルに気づき、それを無視することは出来なかった。阿部さんの視線は、常に、強固な権力の裏側で自分勝手な利益を得ているものに向かっている。「選択」を離れ、新たに、自前で「FACTA」を創刊し、インターネットの表面だけのニュースとは違う、あらゆる事象の背後を追求する本物の調査報道を開始した。数多くのスクープをものにし、いくつかの企業を揺るがし、背徳の首謀者を表舞台に晒した。オリンパス不正経理問題、五輪裏金問題など、阿部FACTAの記事が発端になり、日本社会全体を揺るがせた記事は、限りがない。

 阿部さんは若い頃にフィリップ・K・ディックの「あなたを合成します」「ブラッドマネー博士」を翻訳し、2013年にはディックの処女作である「市(まち)に虎声あらん」も翻訳した。未完の大小説「有ざらん」は僕が発行人になっている。あらゆる知識に精通し、文章を書かせれば、かつて日経新聞論説委員時代は、日経三大美文家(だったっけw)と呼ばれ、格調高い文章力は定評がある。ただし、阿部さんの知的レベルと同等でないと理解不能の比喩や引用があって、読むのは大変。阿部さんの雑誌のライターたちは、阿部さんにガンガン赤入れをされて大変だと思う。

 さて、最近送られてくる「FACTA」のネタが、ありふれたものばかりで、文章も何か普通になっていておかしいな、と思ったら阿部さんの名前が、誌面のどこにもない。てっきり病気でダウンしたのかと心配したが、どうやら、「FACTA」とも袂を分かち、新しい雑誌を創刊するという。永久革命家・阿部重夫、ここにありだな。誌名は「ストイカ」(Σtoica)である。

 第一号を申し込んだ。巻頭言の「言葉を飾らぬ事実報道だけでは戦にならない。眼高手低。自らの可死をふり返って、遠くを、ただ遠くを見よう」。凄まじい闘争宣言だ。

「ストイカ」(Σtoica)の創刊に合わせて、今まで触らなかった、Facebookにも登録し、noteでも書き始めた。いよいよ、ネットの世界にも乗り込んでいくのか。

 昔、阿部さんに「SNSはやらないの?」と聞いたことがある。そしたら「ジャーナリストというのは、今、どこにいて、何をしているかを隠して行動しなければならないのに、SNSでリアルタイムに身元を明かすのは自滅行為だ」と言っていた。その阿部さんが、ネット環境を使いこなそうとしている。何か、普通とは違うことをしでかしそうな関心と期待が出てくるな。

 僕は、阿部さんとは、正反対の、普通の生活者の声を吸い上げていく参加型ジャーナリズムを作ってきたつもりだ。今も、やっていることは、その方法論そのものである。方法論は真逆であるが、本質は一緒だと思っている。その本質とは「言葉の力を狂信している」ということである。

 阿部さんが70歳を越えて新雑誌を立ち上げたんだ。僕も、もう一度、参加型メディアの雑誌を立ち上げたいと強く思う。このインターネットが普及した新しい状況の中で。


阿部重夫
ストイカ(Σtoica)を創刊します
https://note.mu/stoica_0110/n/n60fce266091f

▼Σtoicaの1号は、以下で、もらえます。

オピニオン誌Σtoicaは非売品です。ご希望の方には、先着順で限定部数を無料でお送りします。以下のご登録フォーマットをコピーし、お名前、ご住所、メルアドもしくは携帯電話番号を記入して、以下のご登録先のどちらかにお送りください。ご登録データはほかに転用することはありません。

register@stoica.co.jp

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