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気分調査の再起動

 戦後の商品開発は、マーケティング調査とメーカーの開発技術の向上とがうまくリンクして、さまざまなヒット商品を産み出しました。現在の日本経済の低迷は、戦後の成功企業が、不動産事業で安定を求めたり、B2Bで、ユーザーとの接点を失ったことにあると思います。B2Bも、ある意味、大家的ビジネスです。

 僕は1970年代のはじめに、子ども調査研究所という、マーケティング調査の会社の高山英男、近藤純夫というマーケッターと出会い、さまざまなことを学びました。子ども調査研究所は、戦後の現代っ子の商品開発を行い、リカちゃん人形、人生ゲーム、チョロキューなどの玩具や、さまざまな新しいお菓子などの新製品登場に関係していました。グリコのおまけは40年近く、高山さんたちの報告に基づいて作られていました。

 マーケティング調査には、定量調査と定性調査があります。定量調査は、アンケート調査など、大量のデータを統計学的に分析するものです。定性調査は、グループインタビュー(グルイン)やヒアリングなどを通して、一人ひとりの個人の内面を探るものです。僕も、子ども調査研究所のさまざまな調査のアルバイトをしていました。80年になって、僕が「ロッキング・オン」と「ポンプ」を辞めて、フリーになり、高山さんの仕事を本格的に手伝うことが多くなりました。「商品全力疾走」(東洋経済新報社 1983年)という書籍は、高山さんのチームと、橘川のチームとの共著です。出版の企画コンセプトは「商品を文芸批評の方式で語る」というものです。書名は僕の案が採用されました。

ライフスタイルを創った100の商品全力疾走 

単行本 – 1983/4
高山英男とETC (著)

 僕は特に定性調査の方に興味があったので、たくさんのグルインに立ちあいました。報告書は、グルインの音声テープを起こして、キーワードになるフレーズを引き出し、傾向をまとめるというものです。80年代にコンピュータが登場し、定量調査はどんどんシステム化して集計も楽になりました。しかし、定性調査の方は、相変わらず締め切りぎりぎりまでテープ起こしに追われて、分析の時間もなかなかとれない状況でした。

 そこで考えたのが、「定性調査を定量的な手法で実施する」というものです。正式には「気分定性調査法」と言います。

 「商品全力疾走」のあとに、三省堂(教科書を作ってる出版社)の阿部さんに出会い、気分調査を単行本にまとめようということになり、出版されました。阿部さんは、国語教科書の編集者でしたが、教科書づくりは季節労働なので、あいてる時は、一般書を作っていたのです。その前に、僕は「イコール」というメディア情報誌の編集長をしていたので、その中の企画として、「気分調査」を実験していました。「イコール」については、いろいろ試したことがあるので、そのうち語ります。

現代気分の基礎知識―Kibun chart 1984 単行本 1984/1


イコール編集部

 気分調査は、橘川があちこちのマーケティング研究会で講師に呼ばれることがあり、そこで出会ったメーカーの人たちと、さまざまなテーマで調査を実施しました。特に積極的に営業をしたわけではないので、メーカーの担当者が書籍や講演などで、気にいってくれると、実施するという感じです。

 80年代、90年代と、大手企業で気分調査が採用された。90年代のはじめには、あさひ銀行(現在・りそな銀行)総研で2年にわたり、「生活者気分調査」が継続的に実施されて、関連書籍が3冊発行された。


生活者気分白書〈94〉 単行本 1994/9


あさひ銀総合研究所
出版社: ビジネス社


生活者気分白書〈95〉


あさひ銀総合研究所
出版社: ビジネス社


マーケット大変貌―シフト・マーケティングによる超市場開拓 単行本 

1994/7/1
橘川 幸夫 (著), あさひ銀総合研究所 (著)
出版社: ビジネス社

 また、97年には、松下電器産業(現在・パナソニック)では、気分調査のオンライン調査システムを開発し、サービスを行った。その他、自動車メーカー、情報産業メーカー、行政機関、デベロッパー、広告代理店など、さまざまな組織と共同して、調査を実施した。橘川は、この作業を通して、さまざまな業界の人と知り合い、業界の固有の問題などを現場で知った。

 2000年になって、電通も博報堂もマーケティング局を廃止した。子ども調査研究所の仕事も急減した。本当は、インターネットの時代にこそ、企業が蓄積した新商品開発力を、新しいステージで展開すべきだったものが、萎縮してしまい、保守的な経営が支配する社会になった。

 気分調査は、時々、若いマーケッターや編集者が注目してくれて、単発的に調査を実施することもあった。以下は、マーケッターの砂川肇さんと組んで実施した、団塊世代の気分調査の報告書である。

団塊気分の基礎調査 単行本 2005/12/20


現代気分研究所 (著), ジャパンウェルダリー研究所 (著)

 という歴史的経緯があり、もうすぐ2020年。再び、気分調査を使いたくなった。特に、それは国内ではなく、アジアを含めた諸外国の国民性を知ることが、これからの日本に必要なことだと感じたからである。

 ビジネスでも研究でも、気分調査の手法に感じるものがある人の連絡を求めます。


▼参考

以下、マーケッターの大久保忠男さん(ネット&コミュニティ研究所)と現代の母親の気分調査を行おうと企画したものです。事情があり中断していたが、大久保さんは、2017年に他界しました。

予告「現代ママさん気分の基礎調査」

2006年10月22日 21:37

追悼・大久保忠男さん


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