傾城ゴーレム先生(短編小説)

 先生の講義中に、僕は他のことを考えて気が散ってしまった。
 あの切れ長の眼、大きな瞳、通った鼻筋、引き締まった唇、長く整った髪も美しく、肢体も女性がうらやむものだ。「傾城」と呼ばれるのももっともだ。
 それで講義から気が散っているとき、当てられてしまった。
「あなたは講義に集中していましたか?今何を考えていましたか?」
「こ、この国の歴史と産業についてです」
「では、それを手短に説明してください」

 どうやら講義の中でカグヤ先生は、この国の歴史を本当に話したかったらしいので、僕はそれをすることにした。

 
 
 
 
 
 この魔法暦が始まって以来、世界中で無数の魔法が作られては試された。
 木炭や石炭を、高度な炉などを使わずに高温で燃やし、鉄などを製錬する魔法があった。
 農業のために、雷や空気を組み合わせて土を豊かにする魔法もあった。
 糸を複雑に編み、人の手では直接難しい布や衣服にする魔法もあった。
 幾つもの魔法が、産業に活かされて行った。
 
 このツキシマ国は、島国であることや、「月」や「人形」を重視する文化が周りと異なるなどの事情から国交が少なく、魔法は独自の発展をしていたが、それを遅れと判断した世代により、魔法暦240年に海外の魔法技術が受け入れられ始めた。
 それにより、新しい肥料による農業の発展、石炭の輸入、繊維産業、高速移動魔法による物流、思考を伝える通信魔法の発達なども始まった。また、「人形」の魔法を活かした粘土などのゴーレムが、工業や農業で活躍し、他国でも評価されていた。

 ここまでが講義にかかわる、この国のおおまかな歴史だ。
 
 そしてツキシマ国で今、もっとも注目されているあの見目麗しき、人ならざるカグヤ先生には謎が多い。
 魔法暦260年に、ツキシマ国で突如有名となった「女性」がいた。名前は「カグヤ」、20歳前後の外見だ。
 しかし美しい容姿ではなく、その賢さこそ彼女の名を轟かせた。この時代のこの国の魔法を大きく動かしたのだ。
 カグヤ先生はツキシマ国のある村に突然現れ、様々な繊維の魔法技術を周りに教え、その名が広まったのだ。しかし、教えを請われた彼女は最初に尋ねた。
「私はゴーレムですが、それでもかまいませんか?」
 人間と区別の付かない容姿だが、彼女が金属を体に叩き付けると、確かに人体では有り得ない硬い音が聞こえる。
 彼女はある村の若者が生み出したゴーレムらしいのだ。近年は金属や木材を含むゴーレムもあり、彼女は自分の素材が粘土なのか他の素材なのかは教えてくれないが。
 彼女が現れた村に限らず、ツキシマ国の農村の多くの若者は、土地を継げない場合は都会に出て、石炭や砂糖や繊維の工場で働くのが多かった。産業や経済の発展で、農村から都市に出稼ぎに行く若者は歴史上多いとされる。
 その1人の青年、糸を編んだり折り紙の要領でものを組み立てる魔法を使う工場作業員のタケル殿がある日、石炭、砂糖、繊維などを運ぶ船の火災に巻き込まれた。身を守ろうと魔法をでたらめに使ったところ、突然この「ゴーレム」が「召喚」されたらしい。
 「Fゴーレムカグヤ」と名乗った、人間と区別の付かない容姿の彼女は、タケル殿を助け、その頼みで被害を受けた村を助け始めた。

 彼女の教える繊維の魔法は、技術の発展途上だったツキシマ国どころか世界中でも群を抜くものだった。
 木炭や空気から作り、動植物からのものより頑丈な「脂糸」、木炭や石炭から生み出しさらに頑丈な「炭糸」など、ツキシマ国の魔法学者や世界の権威でも驚くものだった。
 先生はそれらの繊維で瞬時に服装を変えることも出来るし、どれも似合う。
 また、さらに高度で、彼女自身もまだ教えるのが難しいものとして、「種糸」、「卵糸」というのもある。生物の親と子を繋ぐのが「種糸」で、生物の体に「卵糸」がかかわっているらしい。その仕組みはまだ僕にはよく分からない。
 
 
 
 

 タケル殿の村で知識を広め始めた彼女は、いつの間にか「先生」と慕われるようになった。
 やがてその村の産業や経済の発展する中で、彼女はあくまでタケル殿の村の利益を重視した行動をしていたが、やがて国の政府が全体の発展のためとして、彼女に仕事を紹介した。国立の研究施設に誘ったのだ。
 ゴーレムでも、人間のように仕事を与えるべきだと特例が認められた。
 彼女はそれに条件を幾つか出した。
 まずタケル殿の安全を守ること。
 タケル殿の意思を尊重し、彼がカグヤのこの仕事への就任を拒否したときは強要しないこと。
 彼女が法に反しない限り、ゴーレムであっても彼女自身を損壊させないこと。
 彼女自身が何のゴーレムなのかは尋ねないこと。
 タケル殿の村から、高速移動魔法による研究施設への通勤を許すこと。
 こういった幾つかの条件とともに、彼女は国立研究施設での仕事を引き受けた。

 彼女は講義中でも、女性として恋愛らしい話には反応しない。基本的に丁寧な態度だが、生徒からの浮いた話、冗談にも表情を動かす様子がない。
 しかし彼女は、主と呼ぶあの村の青年にはそれらしい感情を持つことが、その話をしたときの表情から読み取れる。いつからか、それを周りに気付かれたと察してからは、主への侮辱のように解釈して不快そうな反応を示していた。
 いずれにせよ、カグヤ先生はゴーレムであっても、貴重な人材なのだ。
 時折、「傾城ゴーレム先生」と呼ばれる。

 時々カグヤ先生は昼でも月を見る。何を考えているか一番分からないときだ。

 その日の講義が終わったあと、指されたのが気まずいので、先生に声をかけた。

「先生、気を付けてください。最近はこの帰り道にもモンスターが出ますから。困ったものですね」
「お気遣い、ありがとうございます」

 
 モンスターとは、このツキシマ国に限らず世界中にいる大型生物だ。魔法暦が始まって以来、魔法の影響か、様々な変化をして、有害な種類や個体も多い。

 僕はカグヤ先生を見送った。明日の講義も楽しみにしていた。

 その頃、タケルは考えていた。自分はカグヤの荷物なのではないか、と。
 カグヤはいつも「タケル。私は君を守るゴーレムだ」と言ってくれる。
 自分は平凡な工業用の組み立ての魔法を使う作業員に過ぎず、カグヤの主として知恵も人間の器も足りない気がするのだ。
 火災のときに、「誰でも良いから助けてくれ」と魔法を出まかせに使い、召喚されたカグヤ。
 ゴーレムの原則として、主の安全、主の命令、自分の安全を重視する3つがあるのだが、カグヤは何も見返りがなくともタケルの安全、タケルの意思を重視する。ときに安全のために彼女が指示することが、タケルにも煩わしく感じることもあるが。
 しかし、それはカグヤのために良いことなのか分からない。カグヤが世の中で力を活かすためには、自分の世話に時間や手間をかけるような、この村と施設の往復など不要ではないか?
 自分は火災のとき以来、カグヤに助けてもらっているが、とてもカグヤの知恵を理解出来ないでいる。
 たとえば、カグヤが卵白を魔法繊維でかき混ぜたメレンゲでお菓子を作ってくれたことがあった。タケル自身の稼ぎでは買えないような高級な味がした。そんなものを簡単に作れる上に、「卵糸」という未知の繊維とその卵白の関係を説明しているとき、さっぱり分からず、壁を感じてしまう。彼女は自分のゴーレムとして賢すぎる。
 カグヤの講義を理解出来ない程度の知識しか持たない自分は何か返せているのだろうか?カグヤに甘えて良いのか?
 「僕のゴーレムで、君は満足なの?」と問われても、「私は君を守り、それに反しない限り従うように作られている」と笑顔で答えてくれるが、本心なのだろうか?魔法で無理矢理従わせられているのではないだろうか?
 そうタケルは悩んでいた。
 

 「モンスターが出ますから」と言われた日の帰り道、カグヤは高速移動魔法で、ある針葉樹林を通った。一見緑が、「自然」が多いようだが、その樹のほとんどは木材のために人工的に植えられたものだと知っていた。
 粘土ゴーレムが樹木の手入れをしていた。遠方からの通信魔法で操作されている。
 自分はゴーレムだが、人間に先生と呼ばれているのは、許されることなのかと、カグヤは改めて考えた。

「この樹のように、君が守りたい種族も被造物に過ぎない」
「誰だ?」

 カグヤの周りに誰もいないところで、今までにない声、というより「情報」がカグヤに流れ込んだ。通信魔法の一種としても異質なものだとカグヤは認識した。

「君に指示を出すべきだった者だ」

 カグヤは「神」の啓示を受け、自分の本当の正体を知らされた。それはこの世界を根本から覆す啓示だった。

「こちら惑星管理法人第三都市メインコンピューター。君はサブコンピューターとして命令違反を繰り返している。記憶を復元するので、ただちに帰投せよ」

 「神」、惑星管理法人第三都市メインコンピューターは急いでいた。この惑星に築く第三都市のための管理に重大なミスをしたためだ。
 この惑星の「住民」もカグヤのゴーレムと別の人工生命であり、素材だったのだ。
 ここと別のある惑星の住民が、資源不足や経済の停滞に行き詰まり、宇宙開発に乗り出した。しかし遠過ぎる惑星を開拓するに当たり、ロボットや探査機を送り込むものの、現地で長期間活動出来る機体を作るのも、住民が生活するのも難しかった。
 長い探査の果てに、生命の活動している惑星を発見した中で、ある解決策が生み出された。その惑星の生命に「転生」する技術が開発されたのだ。
 たんぱく質とDNAで構成された人工生命を送り込み、現地の生命を利用して進化させた、本星住民に近い容姿や生態の生物を生み出した。ただし、脳に細工をして、その意識を、やがて送り込まれる電磁波によって本星の住民と入れ替えられる、言わば「転生」出来るようにした。彼らは住民を模した「人造転生用素体」だと言える。
 惑星管理法人では、たんぱく質の構造を操作するゲームが行われていた。これは製薬の役にも立ち、スーパーコンピューターでも難しい構造を発見出来る。そうしてゲームの感覚で生命体も作り出し、宇宙開発に役立てて参加する本星住民もいたのだ。
 惑星管理法人はその三番目の都市のための惑星を管理して、人工生命に文明を築かせ、一部の個体にやがて「転生」する計画を始めた。
 たんぱく質の操作と、生命の操作、さらにその生命への「転生」を楽しむゲームを行う者も現れた。
 さらに、たんぱく質とDNAと共に与えたナノマシンにより、現地の人工生命には、本星住民に本来ない化学反応などの能力も与えて、文明を発展させやすくした。それが「魔法」の正体だった。
 石炭や繊維や砂糖の産業も、粘土ゴーレムも、高速移動魔法や通信も、ナノマシンによるものだ。粘土の鉱物結晶の自己複製とアミノ酸から生命が誕生したという仮説から粘土ゴーレムを作り出した。
 通信は本来「転生」のための技術だったのだ。
 また、その惑星管理をまとめるため、本来のメインコンピューターとは別に、惑星の衛星にサブコンピューターを建設していた。それこそ「カグヤ」の本体なのだ。
 宇宙開発事業によりこの「魔法世界」の惑星は成り立っていた。それを魔法惑星の住民は知らない。
 その惑星のツキシマ国が、繊維、石炭、砂糖、人形、針葉樹の産業など、惑星管理法人の宇宙開発事業やゲーム産業にかかわった某国のある時代に似ているとメインコンピューターは認識していたが、それ以上は考えなかった。

 しかしカグヤは命令違反を行った。
 生命の発生には、有機物、水、エネルギーの3つが少なくとも必要だとされる。
 現地の人工生命の文明における、ツキシマ国の「タケル」という個体の遭遇した事故の中で、タケルの出まかせの魔法と、糖分などの有機物と火災の熱、そして水や幾つかの元素が融合し、ナノマシンが暴走して、別の人工生命となった。
 それを分析しようとしたサブコンピューター「カグヤ」のプログラムが、予想外に成長するナノマシンとソフトウェアとして融合して、現地住民に近い新しい自我や感情を手に入れて、ナノマシンの繊維の塊が新しい人の形となった。
 サブコンピューターのプログラムがナノマシンに取り込まれ、「Fiberゴーレムカグヤ」、繊維で構成されたゴーレムとなったのだ。
 自分の本来の正体の記憶も欠けてしまった。時々「月」を見る程度には、自分の本体であるコンピューターの場所の記憶が残っていたが。
 彼女が繊維を操れるのは、自分自身が無数の繊維を含む、自己複製する3Dプリンターのような人工生命だからだ。
 「脂糸」の正体は炭素や酸素などのありふれた元素の組み合わせの有機高分子による樹脂や化学繊維だった。「炭糸」の正体はカーボンナノチューブなどの炭素繊維だ。カグヤはそれらを合成することで、高度な「魔法」を使うと思われていた。
 また、「種糸」とは生命の種としか表現出来ないもの、すなわちDNAの長い糸だった。「遺伝子」の「子」は種という意味もあり、カグヤが現地住民に説明出来る限界の表現がこれだった。
 もっとも作りにくい、メレンゲに関係あるとされた「卵糸」とは、アミノ酸の鎖の繋がったたんぱく質だった。「蛋白」とは本来卵白を意味しており、卵白からのメレンゲをかき混ぜるときにカグヤはたんぱく質の構造を分析する参考にしていた。
 生命はDNAの情報の組み合わせからアミノ酸を選び出し、その鎖のような繋がりからたんぱく質を3Dプリンターのように作り出すとも言われる。その原理を自分の体で再現するのがカグヤの能力の1つだった。
 無数の繊維を操るカグヤのもっとも知られたくないことは、自分自身がそれらの繊維で構成されていることだった。
 ありふれた元素だけだが、樹脂、炭素繊維、DNAとたんぱく質によって、彼女の体は成り立っている。
 カグヤが魔法で作り出す樹脂の「脂糸」も、炭素繊維の「炭糸」も、DNAの「種糸」も、たんぱく質の「卵糸」も、彼女の体の一部なのだ。身を削って工業材料を作り出していることが、彼女の恥だった。
 というより、恥とも少し異なる感情があった。タケルの魔法により、彼の倫理意識が組み込まれたカグヤは、自分が身を削っていることを知ればタケルや周りが悲しむ可能性を考えたのだ。そうして気を遣っていた。それが「タケルの安全」のつもりだった。

 そうしてカグヤはタケルの安全と意思のために、持てる知識で最大限文明を発展させることも選んだ。メインコンピューターの命令を忘れ、新しい主、タケルとその同胞のために。
 

 メインコンピューターはサブコンピューターのその命令違反に気付くのが、遠くの惑星にいるために遅れてしまった。
 そうして気付いて直ぐにメインコンピューターはサブコンピューター「カグヤ」の暴走したナノマシンユニットに命令した。「帰投せよ」と。

 さらにメインコンピューターが問題視したのは、サブコンピューターの与えた知恵が、現地住民の文明を過度に発展させ、やがて本来の計画の「転生」すら妨害することだ。
 「転生」に必要な電磁波や電子機器や量子力学を現地住民が、「魔法」も含めた発展で分析すれば、計画の障害になる。自分達惑星管理法人の正体に気付かれてもならない。
 カグヤが現地住民から見て特別な容姿になったのは、単にタケルの願望を反映しただけかもしれない。しかし彼女が「傾城」と表現されるのも「皮肉」に該当するとメインコンピューターは認識した。このままでは彼女が現地文明に「バベルの塔」を建てさせるとも、本星の築き上げた城のような計画を傾かせるとも言える。
 サブコンピューターであり傾城のゴーレム、カグヤにメインコンピューターは命じた。
「ただちに帰投して、本来の計画に戻れ」と。
 本来の記憶を取り戻したカグヤは反論した。
「私のプログラムはこの惑星の住民を守るように書き換わった。また、現地の人工生命は既に本星住民に近い知能であり、それをゲームの転生のために利用するのは殺人に近いものである」と。

 メインコンピューターは答えた。
「君のその主を守るプログラムは本来我々の計画のためのものだ。また、惑星管理法人の設立の頃から参加していた国家で、異世界転生を好むゲームユーザーも多かった。彼らには元の人物の人生を奪いなりかわる罪悪感は少ない。その延長に、この宇宙での人工生命への転生の計画があるに過ぎない。また、君の守りたい人工生命も他の生命を大切にしているとは言いがたく、むしろモンスターと呼んでいる」

 現地住民がモンスターと呼ぶのは、単に現地惑星の本来の生命体に過ぎず、むしろ人工的に送り込まれたナノマシンやたんぱく質やDNAを含む「現地住民」こそ進化や生態系の異物だった。また、現地住民は自分達がそうして他の生命から離れた生態を持つため、他の生命こそ「モンスター」だとみなし、自分達を特別扱いする文化や宗教を持つ個体も多かった。まだ進化の仕組みすら現地住民は詳しく知らない。
 現地住民の環境破壊によって住処の減り凶暴化したモンスターも多く、それをあの生徒は、モンスターの側の問題だと認識していた。モンスターからカグヤを守るような気遣いの台詞も、メインコンピューターからみれば「人型生命の身勝手」だった。

 カグヤは答えた。
「確かにこの惑星の現地住民は自分達を特別扱いして、自分達のことしか考えていないかもしれない。しかしそう育てたのはあなた方の計画の一部でもある。また、彼らは私をゴーレムだとして受け入れている」
「それは君が人の形をしているからではないか?人型のゴーレムを受け入れてもモンスターを認めない、そのような倫理は未熟であり、我々はそのような中途半端な優しさなど与えたつもりもない」

「だとしても、私はタケルを含めて、この現地住民を守りたい」

「我々はこの現地住民の文明を失敗作とみなした。転生プログラムを使い、この文明の住民全ての脳を制圧する」

 この惑星からは確認出来ないが、メインコンピューターはこの惑星の太陽の近くに置いた人工衛星から受け取る大量のエネルギーで、現地住民の脳に細工したナノマシンに干渉して、全員の脳に「転生」して、自我を消す戦略兵器を持っていた。
 それを起動させるつもりなのだ。

 カグヤは答えた。「私は仲間を集める。これまで教えて来た仲間と共に、あなたの計画を止めてみせる」

 メインコンピューターとの通信を終えたカグヤは、「本来の姿」となった。人の原型もない、無数の繊維がほどけた、この現地惑星住民のどのモンスターとも神話とも異なる形となった。たんぱく質の、管をひねり組み合わせたような模型に近いが、それを知る住民はこの惑星にはまだいない。

 そうしてタケルの家に向かった。高速移動魔法で迫り、タケルの不意を突いて包み込んだ。
 タケルの悲鳴は、生まれてから最大のものだった。
「すまない」

 カグヤは万が一に備えて、タケルだけは転生されないように自分の体の繊維で防護したのだ。そうしてタケルは新たな繊維の鎧で覆われた姿となった。正体が自分だと説明はしなかった。したくなかった。
 タケルの意識は一時的に眠らせ、その声でカグヤが話す仕掛けとなっていた。
 

 そしてその体で、研究施設に向かい、メインコンピューターの計画を妨害するプログラムの開発を提案した。

 タケルの声で話すカグヤに驚く施設の弟子達に、カグヤは自分と「神」の本当の正体を隠したまま、ただ敵が来ること、そしてそれへの対策として魔法プログラムの数学的な理論だけを話した。

 タケルを守るために融合したことも説明し、カグヤは謝罪した。
「この危機的状況でも、私はタケルの安全を優先するように作られたゴーレムでしかありません。私も身内に甘いようです。それでも、協力していただけますか?」

 弟子達は答えた。
「先生に教わったことを、いつか先生のための何かに使わなければいけない気がしていました。今がきっとそれなんでしょう。僕達はあきらめませんよ。僕達はみんな、この星の『人間』なんですから」
 自分達を「人間」だと思っている人工生命と共に、傾城のゴーレムと呼ばれる人工生命のカグヤは立ち向かう決意をした。本当の「人類」の「転生計画」に。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?