【現代表記】 福沢諭吉 「英国 議事院談」 (私法評議の事)

底本には小泉信三監修『福澤諭吉全集』第二巻(再版)所収の「英國議事院談」を使用した。


私法評議の事

 上下両院において常式の規則あり。もちて私法を評論することなり。しかりといえども古風旧例多くして逐一ちくいち枚挙するにいとまあらず。その一般を論ずればすなわごとし。私法の評議を決するにも、院内にて三次議案を復読し、其式の厳正なるは公法を議するに異なることなしといえども、一般の通則に於て、多くは院の評論(議長の前にて評論するをう)をついやすことなく、もっぱこれを特選の議員に委任し、この議案を可否する者に応接して、其是非当否を決せしむるを常例とす。特選の議員にて其議案を行わるべからざるものと決するときは、院に於て更に異論をのぶることはなし。特選の議員は議案の大意書(大意書とは、其議案の旨意しいを述べ、法に於て行わるべき所以ゆえんを弁じたるものなり。)を見て其当否を察し、法に於て行わる可らざるものはただちに之を拒み、行わるきものは書中の箇条を逐一採用して其評議を決す。昔日せきじつは私法の議案をことごとく特選の議員に任じて之を決せしむるの法なりしが、近来にいたりては蒸気土工等の作業年々に行われ、私法の事務極めて繁盛なることに付きては、其評議をば特選の議員一手に於て処置するときは、時日を失い雑費をかくること大なるに付き、更に吟味の下役を命じて其職をわかちたり。方今の形勢を以て之をあんずるに、此下役の者を命ずること年月をとげ益々ますます多かる可しと云う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?