【現代表記】 福沢諭吉 「英国 議事院談」 (議事院に於て裁判を司る事)
底本には小泉信三監修『福澤諭吉全集』第二巻(再版)所収の「英國議事院談」を使用した。
議事院に於て裁判を司る事
国内貴族の者、大罪を犯し、或は之を匿す者あれば、上院を以て国内最第一の刑法局と定め、乃ち其事を司らしむるなり。但し此官は所謂ロルドハイスチュワルドと云うものにて、往古は英国に於て無上の官名なりしが、方今は事実其官員あるにあらず、只事に臨て王命を以て一時仮りに此全権を上院の議長へ付与するのみ。議事院集会の内に於て右の如き裁判の起るときは、議事院へ国王の出御を請て其親裁を仰ぐを例とす。然るときは上院の議長にも特権なく、裁判の席に列して事を議すること、他の貴族の員に異なることなしと雖ども、休会の時間に於ては然らず。貴族の罪を裁判することあれば、議長の全権を以て上院一個の刑法局を設け、独断を以て刑法を処すること、他の裁判司が尋常の罪人を裁判するに同じきなり。
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