【現代表記】 福沢諭吉 「雷銃操法」 (空発)

底本には小泉信三監修『福澤諭吉全集』第二巻(再版)所収の「雷銃操法」を使用した。


第5条 空発

第1

 生兵に玉を込て放発するを許す前に、先ず火薬のみにて空発の稽古を為さしむ。此稽古は、専ら兵卒の体を丈夫に馴らして、放発のとき筒の戻りに堪えしむる趣向なり。空発の数左の如し。

1人ずつの放発 10発
同列の放発    4発
連発       6発
〈立つ身構え〉

1人ずつの放発 10発
連発      10発
〈跪く身構え〉

第2

 此稽古に於て、教師はよく心を用い、兵卒の体、腕、手先の取舞わし、引金の引きよう、並に狙いのとき頭の構え方等に、不出来のことあれば直にこれを改めしむ可し。若しこれを改めざれば中りを求む可らざるは勿論のことにて、且玉を込て放発するときに至ては、其不出来を自由に改ることも難きものなり。

第3

 教師は又稽古人に弁解することあり。即ち火薬の発するときは、其勢にて膅中より玉を打出し、又同時に筒を後の方へ押戻す力を起す。これを筒の戻りと名く。故に放発のときは、台尻を肩のくぼみに強く押付て筒の震動を防ぐべし。都て自分所持の筒を大丈夫のものと思い、少しも臆することなくして、放発すれば必ず手際よきものなり。

第4

 台尻を肩に押付るには、台尻の金の真中を肩の窪に当つべしとの理合を説き、尚又兵卒に以前の論説を思出さしむることあり。即ち第2条手銃の論説にて、玉の筒より飛出るときは放発線の方に向うゆえ、筒の戻りも矢張り放発線の向にて後の方を押すとのことなり。

元来台尻の曲りたるは、筒の見通しをよくするためなり。斯く曲りたる台尻を肩に当て放発するゆえ、筒を押戻す力は上の方にありて、これに対する肩の力は下の方にあり。故に放発のとき、動もすれば筒先の上るものなり。此理合を速に合点せんには、膅の真中に筒を押返す力のあるものと思う可し。然るときは其力は台尻より上の方にあること明白なるべし。


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