【現代表記】 福沢諭吉 「英国 議事院談」 (議員を選挙すべき人物の事)

底本には小泉信三監修『福澤諭吉全集』第二巻(再版)所収の「英國議事院談」を使用した。


議員を選挙すべき人物の事

 蘇格蘭スコットランド阿爾蘭アイルランド合幷がっぺいして、議事院の改革をし、方今上院の議員658名、みな国民の選挙する者なり。その割合ごとし。


英の本国およびオールスの諸州より162人を選挙す。
同各都府より334人を選挙す。
同大学校2所より4人を選挙す。
蘇格蘭スコットランドの諸州より30人を選挙す。
同各都府より23人を選挙す。
阿爾蘭アイルランドの諸州より64人を選挙す。
同各都府より39人を選挙す。
同大学校1所より2人を選挙す。
 共計658人


 婦人、小児しょうに、外国人、悪事を賄賂わいろを行いしによりて罪を得たる者、および国内の貴族を除くのほかは、国人みな議員を選挙するの権あり。またあるいは一時の故障に由てこの権なき者あり。たとえば議員選挙の事に付き一種の職分をつとむ、或は貧民のめに寄附きふを乞う者、これなり。又家産の貧富に関係して議員を選挙すべからざるの法あり。ただし学校の内にて議員を選ぶには、身分の貧富にかかわらず、ただ学業の上達したる者をして選挙をさしむ。

 英の本国およびオールスの諸州においては、家産を有することごとくして、始めて議員を選挙すべし。すなわち一歳の価、諸雑費を引き40シルリングの地面家産(人に貸せば40シルリングの借賃かりちんを取るべき地面家産をいう)を永代所持する者、あるいは永代にあらざるも一歳の価10ポントの地面家産を生涯所持し、或は他の地面家産にても一歳の価10ポントなるものを60年以上の約束にて引受ひきうけたる者、或は一歳の価50ポントの地面家産を20年以上の約束にて引受たる者、或は引当ひきあてもなくして他の地面家産を借用し一歳の借賃かりちん50ポント以上を払う者にあらざれば、議員を選挙するを許さず。また親属の遺言によりて由緒ある地面家産を引受ひきうけ、或は妻の持参にこれを得て生涯所持すべきものは、一歳の価10ポント以下にても議員を選挙すべしといえども、金をもちこの地面家産を買い、或は他人より貰いし者には之を許さず。又地面家産を所持して議員を選挙するに、永代の地面なれば、第7月晦日みそかより6月前にその主人とり、借地等なれば、第7月晦日より12月前に其主人と為るにあらざれば、其年の議員を選挙するを許さず。

 英の本国においては、在昔都府城邑じょうゆうの選挙人(議員を選挙する者をう。選挙せられて議員の任にあたる人にはあらず。相混ずることなかれ。)をさだむるの法、はなはだ混雑なりしが、近世の改革によりこれを一新し、何人なんぴとにてもその都邑に住宅を構え一歳の価10ポントの地面を所持する者には選挙を許すなり。ただし第7月晦日みそかは選挙人を調べて其姓名を記するの日限なれば、この日限より12月前に住宅地面を所持し其諸税を払いし者のあらざれば不可とす。

 都府城邑じょうゆうおいて議員を選挙する者は、第7月晦日みそかより以前6月の内、その土地にり7里外にでざる者に限る。また城邑に於て地面家産を所持しこれめ其城邑の選挙人たりし者は、かねて又諸州の選挙人たるを許さず。

 オールスおよ蘇格蘭スコットランドおいては、諸府諸ゆうを一に合し、一般の法にしたがいて議員を選挙するを例とす。

 英の本国およびオールスにおいて選挙人の名籍を定むるの法、ごとし。諸州に於ては貧人の監察使なるものを命じ置き、小民の内にもみずから選挙人とるべき身分の者ありて名籍にるることあれば、第7月20日以前にその本人よりこれを観察使に訴うべし。しかるときは観察使にてみな其姓名を記して之を州の書記官に渡す。ただし観察使は右の如く名籍に洩れたる小民のうったえを聞き其姓名を記すとはいえども、其本人の身分、事実選挙人と為るべき者にあらざれば、また之を拒むの権あり。またわきより他人の選挙人たるべからざる所以ゆえんうったえて異論をのぶる者あれば、其訴えの書面を受取うけとり其姓名を記す。の如くして姓名の記、すでに成れば、之を吟味の士官に渡し、其書面を一見して点検の上、訴訟そしょうと異論との当否を定めて、選挙人の名籍はじめて成り、之を各州の奉行ぶぎょうに呈して、又変改すべからざるものとす。

 吟味の士官は各州各むらの裁判頭取とうどりおよび大都会の裁判司より命ずる者にして、右選挙人の点検をなすは第9月2日より第10月晦日みそかまでの内においてす。

 選挙人の名籍は毎年あらたまるものなれば、今年その列にくわわるとも明年みょうねんあるいこれを脱することあり。

 都府城邑じょうゆうおいては選挙人を定むるの法、稍々やや諸州に異なり。第7月晦日みそか前後に監察使および都城の書記官にて選挙人の姓名をことごとく記し、この名籍にるる者はその次第を書面にしたため、監察使または書記官へうったえずべし。又他人の選挙人たるを拒むには、其本人もすでに選挙人の列に加わりたる者にあらざれば、異論をのぶるを許さず。名籍を点検して選挙かかり吏人りじんへ渡すの法は、諸州の法に異なるなし。

 蘇格蘭スコットランドにて諸州の選挙人を定むるの法は、旧典によりて必ず選挙人とるべき権をそなうる者あり。あるいは一歳の価10ポントの地面家産を所持する者は、第7月晦日みそかより6月前にその主人と為れば選挙人の列にくわわるべし。或は同価の地面家産を生涯または57年の間これ引受ひきうけ、或は一歳の価50ポントの地面家産を19年の間借用し、或は人の地面家産を借り其借賃かりちんとして一時に300ポントの金を払いし者は、選挙人と為るべし。

 蘇格蘭スコットランド城邑じょうゆうおいては、一歳の価10ポントの家に住居する者は選挙人とるべし。

 阿爾蘭アイルランドの諸州においては、一歳の価10ポントの地面家産を永代所持し、あるいは他の所有にても60年の期限にてこれ引受ひきうけ、或は14年の期限にて人の地面家産を借り、その借賃かりちん1年に20ポントを払う者は、選挙人とるべし。

 蘇格蘭スコットランドおいても阿爾蘭アイルランドおいても、選挙人の名籍を点検再校するの法は、英の本国に行わるる法と異なることなし。

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