【現代表記】福沢諭吉「増訂華英通語」(何紫庭序)

底本には小泉信三監修『福澤諭吉全集』第一巻(再版)所収の「增訂華英通󠄁語」を使用した。


 蓋し聞く、之を言うて文無くんば、以て遠きに行く可からざるなり。惟うに言語の相通ぜざる者も亦然り。我が 朝は遠きをなづくるに道有り。外国商旅の梯航して来る者、絡繹輻輳す。ただ土音おのおの方隅にわかる。故に意気つねに投契するに難し。古者いにしえ訳を重ぬるに官職有るは、是の故なり。吾が友 子卿は英人の書塾に従学する者、歴るに年所有り。凡そ英邦の文字、久しく深くしきりに究め、恒に慮る華言と英語とは北轍南轅に異ならずと。爰に日用応酧おうしゅうの事款をて、類を別け門を分ち、あつめて一帙を成し、名づけて華英通語と曰い、以て同好に公けにす。是の書を閲する者、巻を開けば燎然たるに庶幾ちかし。既にく巻中の声韻を究め、復た類を推して以て其の余を尽さば、まさに応答流るるが如く、絶えて齟齬の苦無きを見んとす。言談もて人を相するに、ほとんど両地の人たるを忘る。誠に語を習う者の津梁とるに堪えたる也夫かな
とき

 咸豊乙卯蒲節後二日

何紫庭序


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