【現代表記】 福沢諭吉 「ライフル操法」 (狙いの稽古)
底本には小泉信三監修『福澤諭吉全集』第二巻(再版)所収の「雷銃操法」を使用した。
雷銃操法 巻之2
福沢諭吉 訳
第4編
下た稽古
第3条 狙いの稽古
第1
此稽古に於ては兵卒へ雷銃の狙い方を教え、後の狙いを加減することを知らしむ。其法は、筒を自在台に掛けて遠近の距離を色々に狙わしむるに由て、其上達するや否を試むべし。若し自在台なくば、棒を3本集め、其上の方を綱にて結合する歟、又は雷銃の剣を組合せて地に立て、高さ4フート半の処に砂の袋を掛て、此袋の上に筒を据れば、自在台の代となるべし。
第2
稽古人は1の台に付き10人より多くすべからず。銘々に雷銃を携て1列に並ばしめ、教師ここに出て先ず狙いの大趣意を教ゆ。其箇条左の如し。
1則
狙いは前後とも、右に傾く可らず、又左に傾く可らず。
2則
狙いの筋は、後の狙いの切目に、前の狙いの頂を合せて、的の真中を見通す可し。
3則
眼は慥に的を覘済して、筒又は前の狙いに目を付く可らず。斯く的を覘えば、前の狙いは自然に見通しの筋に掛るものなり。初心の間は動もすれば的を見ずして、前の狙いのみに目を留め、遂に見通しを定ること能わざる者あり。よく心得べし。
4則
狙いのときは左の眼を閉べし。若し出来ざる者あらば、手拭にて片眼を塞ぐべし。自然に慣るるものなり。
第3
教師は又狙いに大中小3通りの差別あるとのことを弁解す。即ち左の如し。
後の狙いの切目の底に前の狙いの尖を合せて見通すものを小の狙いと云う。第1図の如し。
後の狙いの肩と前の狙いの尖と同じ高さになるものを大の狙いと云う。第2図の如し。
後の狙いの切目の中程に前の狙いの尖を合するものを中の狙いと云う。第3図の如し。
挿絵の画像リンク
第1図/第2図/第3図
慶應義塾大学メディアセンターデジタルコレクション
雷銃操法.二
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第4
右3通りの狙いの内にて、平生は其中を用る規則なり。且又大と云い小と云うとも其差、僅のことにて、筒の勾配に格別の高低を起すものにも非ず。故に放発のとき、其筒の持前にて、始終玉の下るものには大の狙いを用い、其反対なるものには小の狙いを用ゆべし。
第5
教師は上に述たる規則をよく弁解し、次で又稽古人をして其雷銃を以て100ヤールドの的を狙わしむ。既に狙いを定れば、其儘筒を自在台の上に置き、当人は其傍より立しめて、教師自から其場所に行て狙いの正否を改む。若し其狙い不正なれば、当人は其儘立たせ置き、他の稽古人を呼で其狙いを示し、不正なる箇条を述べしめ、教師も亦傍より斯る不正の狙いを以て放発しなば、其弾道は斯くなる可しとのことを説き、次の稽古人をして改て狙いを定めしむ。斯の如くすれば稽古人は仲間同士の不出来を見るゆえ、大に励むものなり。
第6
右の稽古は100ヤールドより始め、50ヤールドずつ次第に増して、900ヤールドに至るべし。即ち900ヤールドは雷銃の限なり。的の星は300ヤールド迄を6インチュの角とし、300ヤールド以上を18インチュの角と定む。斯の如く次第に星を大にする所以は、的の遠くなるに従て、前の狙いを見通すこと難ければなり。
第7
狙いの稽古は眼力を達者にするものなり。遠丁の処に放発せんには、平生より心掛け、実地にては玉の届かざる所にても、小さき物を見て、成丈け眼力を増す可し。此箇条は固く兵卒へ云い聞かす可きことなり。
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