2019/04/08 一番死ぬべきだった日、あるいは希死念慮を殺すことを決めた日

臆病な無神論者──つまり僕のこと──にとって、死ぬことは本当に怖い。自我はこの命が消えることで簡単に無くなって、僕の主観では世界は滅ぶ。そんな恐怖に耐えられなくて生まれたのが宗教なんじゃないかと思っているほどに。

だけどその一方で、僕は常にぼんやりと「僕が生きているのは間違っているんじゃないか」と、そうも思っている。常に人生における選択肢の下の方に自死は混ざり込む。僕が生きていくのは僕のエゴでしかないのだろうと思っている。僕が死んで悲しむ人がいたとしても(これすらも傲慢な考えだ)、変わる人はいないだろう。

僕は他人の自殺が嫌いだ。自殺とは逃避か、あるいは無駄だから。それは馬鹿で臆病な雑魚のやることだ。そうやって貶めていないと、いつか死んでしまう気がする、からかもしれない。

最終的に今日まで生きているのは、無神論者ゆえの恐怖と、半ば義務的な思い。「あの人よりも早く死ぬのは、あの人への冒涜で、あの日の俺の否定だ」という思いから。

あの日、2019/04/08。僕が人生で最も愛した音楽の作り手、wowakaさんの死が公表された日。僕はそれを、朝、高校に向かう道すがら知った。

当時は今ほど、彼に傾倒していたわけではなかった。中学を卒業して、AppleミュージックとかYouTubeとかを掘り始めて知った曲の一つが、たまたまヒトリエのウィンドミルだった、それだけの繋がりだ。厳密にいえばワールズエンド・ダンスホールあたりの有名楽曲は当然抑えていたけど。
それでも、好きだった音楽の作者が死ぬのは、身近だったものが簡単に永遠に失われるのは、当時の僕には。何も経験していないガキには、大きな衝撃だった。

けれど多分、他にも大きな理由はあった。僕以上に悲しんでいた人が、そのTwitterのタイムラインにいた、からだろう。そもそも訃報はリツイートで回ってきたのだから、そういうことだ。

その人は、僕が初めて創作を「上手くなりたい」と思った理由の人だった。ある作品の二次創作界隈で出会った彼は僕よりも原作を読み込んでいて、僕よりも原作に近くて、僕よりも上手くて、何よりも情熱があった。思い出補正もあるかもしれないけれど、今でも僕は彼の域にはいないという確信がある。僕は憧憬から文章を磨き、考え、上手くなろうと彼の手法を真似たりした。

そんな彼が複数アカウント所持の規約違反で小説投稿サイトをBANされたのが、同じ春の話だった。

コラボの計画なんかも立てていたおりの話だった。前日までは作品の伏線なんかも語っていた。けれど彼はなんの弁解も説明もなしにTwitterのアカウントを消して、数日後にひっそりと戻ってきた。僕は関係の破損を恐れて複垢の話なんてしなかったけれど、結果的にその不信感と、投稿プラットフォームが変わったこと、そして単純に部活に入ったことや彼が就職したことなどによる生活習慣の変化によって、どんどん疎遠になっていった。新刊が出ないことで有名だった原作の新刊が数巻出た今となっては、僕は界隈をいくつか転々として、今では彼のことはたまに思い出すくらいだ。それでも出来事は深い傷になっていて、僕は未だにDiscordのアイコンを彼からもらったファンアートから変えられていない。

wowakaさんは、彼も愛した作者だった。それは実際のところさしたる意味のない話だが、それら二つの出来事が、同じ春に重なったことは、僕にとっては少しだけ意味を持つ。

そもそも僕は高校に入り新しい環境に慣れるのに体力を使う時期だった、というのもある。もっと簡潔に言うのなら。あの日だけは、僕は完全に一人だった。少なくとも、僕はそう思っていた。

だから、僕が死ぬならあの日だったのだ。帰り道の曲がり角で、4階校舎の窓際で、何度もよぎった上で否定した結論なのだけど。でも、一番適切な日だったと、今では思う。

そしてそれが、今の僕の救いになっている。「あの日死ななかったのだから、今日死ぬのは違う」そういう救いに。

あの日よりも僕はwowakaさんに、ひいてはヒトリエに傾倒している。あの日傾倒していた二次創作の更新は、ぱったり途絶えてしまっている。あの日より弱い希死念慮は、あの日飲めなかったアルコールで弱めて、あの日の記憶で殺している。

次に死ぬなら、30歳を超えてからと決めている。wowakaさんよりくだらない僕が、wowakaさんより長く生きずに人生を諦めるなんて、死者への冒涜だと思うから。

でも、どうせ僕はその日も乗り越えるのだろう。諦めに似た傷を一つ増やす程度で、僕は次の死に場所まで走っていくのだろう。それは絶望ではなく、希望と呼びたいと思う。

自傷行為の代用品として買った煙草が切れたので、今日はこれで終わりにする。

2019/04/08の俺に、唾と感謝を吐き捨てて。

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