日商簿記範囲外のEX論点【有価証券④】~有価証券の信用取引①~

日商簿記3級から1級の範囲外の論点、および範囲内ではあるものの出題率の極めて低い論点を紹介します。
基本的に、公認会計士・税理士等で紹介されるような論点となります。
なお、論点に対しての適用指針等は紹介しません。

今回は、有価証券の論点から「信用取引(信用買い・信用売り)」を紹介します。




1.有価証券の信用取引

全体概要

信用取引は、証券会社に現金や株式等を担保として差し入れ、その金額の約3倍まで現金や株式を借りて取引が出来る制度のことです。
金融商品会計基準では、信用取引を売買取引の一種と捉えています。

信用取引は、制度信用取引と一般信用取引に分けられます。
それぞれ、

  • 制度信用取引 ⇒ 証券取引所によって取引条件等が決められている

  • 一般信用取引 ⇒ 取引条件等は投資家と証券会社の間で決める

といった特徴があります。


注意点

信用取引を行う際は、証券会社の指定する期日までに、約定代金の30%以上30万円いずれか多い額を委託証拠金として差し入れる必要があります。
また、約定金額の20%を下回った場合は、追加で保証金を差し入れる必要があります(追加保証金追証)。


逆日歩

信用取引の売り手側は、逆日歩と呼ばれるコストを買い手側へ支払う可能性があります。
逆日歩は、証券会社側の株が不足した際に、投資家等から株を調達する為にかかったコストのことです。
1日あたり1株〇円といったように計算します。

逆日歩の代金 = 1株当たりの金額 × 保有株式数 × 日数

買い手の場合は品貸料、売り手の場合は品借料とも呼ばれます。


2.有価証券の信用買い

概要

信用買いは、証券会社から現金を借りて株式を購入し、期日までに決済する取引です。

決済方法として、

  • 反対売買 ⇒ 初めに行った取引と逆の取引を行う

  • 現引き(品受け) ⇒ 代金を支払い、現物の株を受け取る

があげられます。

信用買いでは、証券会社へ利息(支払日歩)を、決済時に支払う必要があります。
計算式は、以下の通りです。

支払日歩 = 約定金額 × 利率 × 日数 / 365日


仕訳

差入時の仕訳

差入保証金  XXX / 現金預金  XXX
          or
差入有価証券  XXX / 有価証券  XXX

上述した通り、証券会社の指定する期日までに、約定代金の30%以上30万円いずれか多い額を委託証拠金として差し入れる必要があります。

現金ではなく、有価証券で差し入れることも可能です。
その場合、差し入れる前の時価に一定の率(代用掛目)を掛けた額が委託証拠金の額となります。
代用掛目率は証券会社によって異なりますが、80%程度であるとされています。

開始時の仕訳

担保差入有価証券  XXX / 信用取引未払金  XXX

取引開始時、手数料を含めた有価証券の購入価額で担保差入有価証券勘定(流動資産)を計上し、相手方に信用取引未払金勘定(流動負債)を計上します。

また、委託手数料や消費税等が発生した場合は、決済時にまとめて支払う為、未払金勘定で計上します。

期末時の仕訳

担保差入有価証券  XXX  / 有価証券評価益  XXX
          or
有価証券評価損  XXX / 担保差入有価証券  XXX

期末時の評価は、売買目的有価証券の処理に準じます。

反対売買による決済時の仕訳

信用取引未払金  XXX / 担保差入有価証券  XXX
現金預金     XXX / 有価証券売却益   XXX
          or
信用取引未払金  XXX / 担保差入有価証券  XXX
有価証券売却損  XXX / 現金預金      XXX

反対売買によって決済を行った場合は、その有価証券の決済時の時価と帳簿価額の差額有価証券売却損益を計上します。

上記では省略していますが、支払日歩開始時・返済時手数料といった代金は、決済時に精算する為、対応する勘定科目で計上する必要があります。
また、逆日歩が発生した場合は、品貸料勘定(営業外収益)などを使用して計上します。

現引きによる決済時の仕訳

有価証券     XXX / 現金預金      XXX
信用取引未払金  XXX / 担保差入有価証券  XXX
            / 有価証券運用益   XXX
          or
有価証券     XXX / 現金預金      XXX
信用取引未払金  XXX / 担保差入有価証券  XXX
有価証券運用損  XXX /

現引きによって決済を行った場合は、決済時の時価で有価証券を計上し、有価証券の時価担保差入有価証券の帳簿価額との差額で、有価証券運用損益を計上します。

上記では省略していますが、手数料による未払金等が発生している場合は、この時点で計上します。


3.有価証券の信用売り

概要

信用売りは、証券会社から株式を借りて売却し、期日までに買い戻して決済する取引です。

決済方法として、

  • 反対売買 ⇒ 初めに行った取引と逆の取引を行う

  • 現渡し(品渡し) ⇒ 株式を引き渡し、代金を受け取る

があげられます。

信用売りでは、証券会社から利息(受取日歩)を、決済時に受け取ることができますが、現時点での金利は0%に設定されているようです。

なお、評価損益等が発生した場合は、信用売りの性質上

  • 時価が上がった場合 ⇒ 損失を計上

  • 時価が下がった場合 ⇒ 利益を計上

することになります。


仕訳

差入時の仕訳
2.有価証券の信用買いと同一

開始時の仕訳

担保差入金  XXX / 借入有価証券  XXX

取引開始時、有価証券の約定金額で担保差入金勘定(流動資産)を計上し、相手方に借入有価証券勘定(流動負債)を計上します。

また、委託手数料や消費税等が発生した場合は、決済時にまとめて支払う為、未払金勘定で計上します。

なお、開始時に委託手数料を計上することも認められており、その場合は手数料分の金額を担保差入金勘定から減額し、借入有価証券勘定を増加させます。

期末時の仕訳

借入有価証券  XXX  / 有価証券評価益  XXX
          or
有価証券評価損  XXX / 借入有価証券  XXX

期末時の評価は、売買目的有価証券の処理に準じます。

反対売買による決済時の仕訳

借入有価証券  XXX / 担保差入金    XXX
現金預金    XXX / 有価証券売却益  XXX
          or
借入有価証券   XXX / 担保差入金  XXX
有価証券売却損  XXX / 現金預金   XXX

反対売買によって決済を行った場合は、その有価証券の決済時の時価(買い手数料含む)と帳簿価額の差額有価証券売却損益を計上します。

上記では省略していますが、受取日歩開始時・返済時手数料といった代金、決済時に精算する為、対応する勘定科目で計上する必要があります。
また、逆日歩が発生した場合は、品借料勘定(営業外費用)などを使用して計上します。

現渡しによる決済時の仕訳

現金預金    XXX / 有価証券     XXX
借入有価証券  XXX / 担保差入金    XXX
           / 有価証券売却益  XXX
          or
現金預金     XXX / 有価証券   XXX
借入有価証券   XXX / 担保差入金  XXX
有価証券売却損  XXX /

現渡しによって決済を行った場合は、決済時の時価で現金預金を計上し、借入有価証券の帳簿価額現渡を行った有価証券の帳簿価額との差額で、有価証券売却損益を計上します。

上記では省略していますが、手数料による未払金等が発生している場合は、この時点で計上します。


4.例題

(1)信用買い

以下の取引について、仕訳を示しなさい。(単位:円)
なお、期末時の評価方法は洗替法によるものとし、小数点以下は四捨五入とする。

①当社は、信用取引を行う為、委託証拠金を2,000,000円差し入れた。

差入保証金  2,000,000 / 現金預金  2,000,000

②当社は、A株式(取得日時価:@6,000)を750株、信用取引で買い付けた。
なお、委託手数料が20,000円発生している。

担保差入有価証券  4,520,000 / 信用取引未払金  4,500,000
               / 未払金      20,000

担保差入有価証券4,520,000 = 取得原価@6,000 × 750株 + 委託手数料20,000

③期末日を迎えたので、時価評価を行う。
 A株式の決算日時価は@6,200であった。

担保差入有価証券  150,000 / 有価証券評価益  150,000

評価益150,000 = (決算日時価@6,200 - 取得原価@6,000) × 750株

④翌期になったので、再振替仕訳を行う。

有価証券評価益  150,000 / 担保差入有価証券  150,000

⑤決済日を迎えたので、反対売買によって決済を行った。
 A株式の決済日時価は@6,400であった。
 なお、以下の金額が発生している。
・返済時手数料:35,000円
・支払日歩:利率3%、45日で計算
・品貸料:1日当たり1株2円、2日分発生

信用取引未払金  4,500,000 / 担保差入有価証券  4,520,000
支払手数料    35,000 / 品貸料        3,000
支払利息     16,644 / 有価証券売却益    280,000
未払金      20,000 /
現金預金     231,356 / 

①売却価額4,800,000 = 決済日時価@6,400 × 750株
②品貸料3,000 = 750株 × 1株当たり単価@2 × 2日分
③有価証券売却益280,000 =売却価額4,800,000 - 担保差入有価証券4,520,000
④支払利息16,644 = 約定金額4,500,000 × 金利3% × 45日 / 365日
⑤現金預金231,356 = 売却価額4,800,000 + 品貸料3,000
- 信用取引未払金4,500,000 - 支払手数料35,000 - 支払利息 16,644 - 未払金20,000

※約定金額には、委託手数料分は含めない

⑥上記⑤の決済方法を、現引きで対応した場合の仕訳を示しなさい。
 なお、決済時に発生した収益・費用は、支払日歩以外は考慮しない。

有価証券     4,800,000 / 現金預金     4,536,644
信用取引未払金  4,500,000 / 担保差入有価証券  4,520,000
支払利息     16,644 / 有価証券売却益    280,000
未払金      20,000 /

①現金預金▲4,536,644 = 信用取引未払金4,500,000 + 支払利息16,644 + 未払金20,000

※その他の金額の計算式は、上記⑤の仕訳参照


(2)信用売り

以下の取引について、仕訳を示しなさい。 (単位:円)
なお、期末時の評価方法は洗替法によるものとし、小数点以下は四捨五入とする。

①当社は、信用取引を行う為、委託証拠金の代わりにX株を差し入れた。
X株の取得原価は3,000,000円、時価は3,300,000円、代用掛目は80%であった。
なお、差し入れた有価証券は、適当な勘定科目を用いて通常の有価証券と区別する。

差入有価証券  3,000,000 / 有価証券  3,000,000

②当社は、B株式(取得日時価:@3,500)を1,200株、信用取引で売り付けた。
なお、委託手数料が20,000円発生している。

担保差入金  4,200,000 / 借入有価証券  4,180,000
            / 未払金     20,000

借入有価証券4,180,000 = 取得原価@3,500 × 1,200株 - 委託手数料20,000

③期末日を迎えたので、時価評価を行う。
 B株式の決算日時価は@3,750であった。

有価証券評価損  300,000 / 借入有価証券  300,000

評価損150,000 = (取得原価@3,500 - 決算日時価@3,750) × 1,200株

④翌期になったので、再振替仕訳を行う。

借入有価証券  300,000 / 有価証券評価損  300,000

⑤決済日を迎えたので、反対売買によって決済を行った。
 A株式の決済日時価は@3,600であった。
 なお、以下の金額が発生している。
・返済時手数料:30,000円

借入有価証券   4,180,000 / 担保差入金  4,200,000
有価証券売却損  170,000 / 現金預金   170,000
未払金      20,000 / 

①購入価額4,350,000 = 決済日時価@3,600 × 1,200株 + 返済時手数料30,000
②有価証券売却損170,000 = 借入有価証券4,180,000 - 購入価額4,350,000
③現金預金▲170,000 = 担保差入金4,200,000 - 購入価額4,350,000 - 未払金20,000

⑥上記⑤の決済方法を、現引きで対応した場合の仕訳を示しなさい。
 現渡ししたB株式の帳簿価額は3,750,000円であった。
 なお、決済時に発生した収益・費用は考慮しない。

現金預金    4,180,000 / 有価証券     3,750,000
借入有価証券  4,180,000 / 担保差入金    4,200,000
未払金     20,000 / 有価証券売却益  430,000

①現金預金▲4,180,000 = 担保差入金4,200,000 - 未払金20,000
②有価証券売却益430,000 = 借入有価証券4,180,000 - 有価証券3,750,000

※その他の金額の計算式は、上記⑤の仕訳参照

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