③転生ゴブリン、食べ物チートで国を作る

第3話 弱肉強食の世界で

 犬狼を食べて分かったことがあった。ゴブリンの食への本能と消化能力は尋常じゃない。
 美味しそう、と感じたものは何でも食べれた。生肉だろうと問題ない。身体への吸収も、冗談みたいに早かった。その結果、犬狼4匹は、すぐにオレとトモミさんの腹に収まり、身体に吸収された。

「あれ? ともみん。なんか、身体大きくなってない?」
「え、あ。ホントだ! ヒデもだよ」

 トモミさんに言われて、身体を確認した。
 確かに。あの枯れ木みたいだった腕が、しっかりとした筋肉がついている。まるで乾いたスポンジに水を吸い込ませたように、みずみずしくて張りがあった。

「本当だ、すごっ」

 そういってから、改めてトモミさんを見る。出るところが出て、引っ込むところは引っ込んでいた。オレはすぐさま目をそらした。それから、剥いだ皮を集めて、トモミさんに渡した。

「あ、あ、ありがとぅ。ちょっと向こうを向いててね」

 トモミさんはそういうとゴソゴソしはじめた。

「これでオッケー。もうこっち見て良いよ」

 振り向くと、犬狼の毛皮を、胸と腰に巻いていた。残った骨を使って、落ちないようにうまく留めている。
 トモミさんは嬉しそうにして、その場でクルリと回って見せた。ほどけて落ちてしまわないか心配だった。そして。ちょっと期待してしまった。
 そこで、やっと気がついた。

「顔、人間っぽくなってる」
「本当? そういえば、ヒデも人間っぽくなってる。なんか中学生の時を思い出すね」

 たったそれだけのことが、なんだかおかしくて。お互いに笑いあって。
 それから、洞窟に戻っていった。

§5

「ん~?」

 洞窟の近くまで行くと、ちょうど巣穴の中からゴブリンが2匹出てきた。
 1匹はオレたち位の大きさで、中身の入った大きな袋を重たそうに担いでいる。もう一匹は小柄で、周りをキョロキョロしながら最初のゴブリンの後ろをついて歩いている。
 オレはトモミさんに聞いた。

「ゴブリンが2匹で行動するときって、どんなときか知ってる?」
「え? なんだろう。わかんない」
「危険なことをするとき」
「なんで?」
「運が良ければ、1匹帰ってこられるから」
「もっと大人数で行けば良いんじゃないの?」
「そうしないのが、ゴブリンクオリティ」

 そんなこといいながら、2匹のゴブリンをよくよく観察した。
 そのゴブリン達に、何かが引っ掛かった。

 ──ああ、そうか。服だ。

 それは、最初のゴブリンは腰に布を巻いているが、後ろの小さいゴブリンは何も着ていない。それが、違和感の正体だった。
 この2匹がなんのか、興味が出てきた。

「あの2匹、ちょっと気にならない?」
「うん。あの2匹もそうだし、袋の中身も気になる」
「じゃあ、追いかけてみようか」

 オレ達は、こっそり後をつけた。

§6

 ゴブリン達は洞窟のある崖に沿って、しばらく歩いていった。2、3分くらいだろうか。不意に、すえた嫌な臭いがしてきた。進むごとに臭いは強くなる。

 ──いったい何の臭いだよ。

 その答えは、到着地にあった。緑と黒のかたまりに、羽虫が集り、足が百本くらいありそうな虫がうにょうにょしていた。ここはきっと、生ゴミの捨て場所だ。そうすると、ゴブリン達の袋の中身も、生ゴミだろう。
 そう思てみていると、ゴブリンは袋を置いて、中身を一つずつ取り出して投げいれた。それは緑の固まりで、人形みたいで。──ゴブリンだった。
 洞窟のなかで見た、動かない兄弟達を思い出した。
 オレはトモミさんの視界を遮った。

「──どうしたの?」
「見ない方がいいとおもう」

 トモミさんが息を飲むのが分かった。でも、トモミさんは、オレの腕に手をかけた。

「ううん。大丈夫」

 そういってオレの腕を下げた。そうして、その光景を見て「うん。大丈夫」と呟いた。
 弱肉強食の世界。負ければ屍。これがオレ達がいる世界だ。心に刻んで、その上で、兄弟達に両手を合わせた。
 
──ん?

 小さいゴブリンが、高い声を出して叫び始めた。向こうを指差している。そちらに目を向けると、犬狼が走ってきていた。そのまま腰布を巻いたゴブリンに飛びかかり、地面に押し倒した。
 噛みつき殺そうとする犬狼と、必死に抵抗するゴブリン。うまくいなして、犬狼に腹を思いきり蹴飛ばし、引き剥がしに成功した。
 もう一度飛びかかる犬狼に、ゴブリンは袋を手にとって、ハンマーのように振るい犬狼にぶつけた。即席の殴打武器ブラックジャック。犬狼は鳴き声をあげて吹き飛んだ。でもすぐに立ち上がって、獲物に狙いを定める。ダメージはあまり無いようだった。
 犬狼が走った。狙いは、小さい方のゴブリン。
 それが分かった瞬間、腰布のゴブリンは走り出していた。小さいゴブリンと犬狼の間に割って入り、自分の体を盾にして、犬狼の牙を受けた。

 ──っらあぁ!

 衝動的に走り出していた。
 そして、犬狼を蹴り飛ばしていた。
 犬狼は崖にぶつかり一声鳴いた。それから起き上がって、こちらを見た。よく見れば、犬狼は痩せこけていた。簡単に獲物を口からはなしたことからも、もうすでに限界が近いのだろう。
 それでも向かってくる。向こうも必死なのが分かった。

 この犬狼は、オレがいなければこのゴブリン達を喰えただろう。そうして、弱者を喰って生きながらえたはずだった。でも、たまたまオレがいた。立場がひっくり返り、この犬狼の方が死ぬことになる。
 それが、弱肉強食の世界だ。

 犬狼はふらふらしながら立ち上がり、オレに襲いかかった。弱そうなヤツを襲えるくらいの賢さがあるのに、あえてオレに向かってきた。
 なんだろう。強いと分かっていて、それでも向かってくる。
 それはなんだか、カッコイイと思った。だから敬意を込めて、頭を殴り、昏倒させた。

 犬狼を殴り倒すと、2匹のゴブリンは、甲高い声をあげ続けた。それがお礼なのかなんのかはわからなかった。ただ、腰布のゴブリンは袋の中身を捨てる作業に戻った。小さいゴブリンも、周りを警戒している。作業が終わると、腰布ゴブリンは、ごみ捨て場にいる足がいっぱいある虫をつかんで、足と頭をもぎとって、小さいゴブリンに渡した。小さい方は甲高い声をあげてバリバリと食べた。小さいのが喜んでいるように見える。美味しいのだろうか?

 腰布ゴブリンは、今度はごみの中に手を突っ込んで、同じヤツを掴み出した。同じように頭と足をとって、今度はオレに渡した。

「くれるのか?」
「──……! ──……! ──!」

 相変わらず何をいっているかはわからなかったが、食べろと言ってくれているような気がした。オレは、それを受け取った。

「ありがとう」

 そういって、半分にちぎって、半分を渡した。

「一緒に喰おうぜ」

 腰布ゴブリンは、それを受けとると、小さい方に渡した。どうやら腰布ゴブリンにとって、小さい方のゴブリンは、大切な存在みたいだった。
 まるで兄弟みたいだと思った。

──そういえばオレも、小さいときは、強い兄ちゃんが欲しかったんだよな。

 そう思い出すと、目の前の腰布ゴブリンがカッコ良く見えてきて、貰った半分を腰布兄ゴブリンに押し付けた。兄ゴブリンはなにか叫んで受け取らなかったが、問答無用で口の中に押し込んでやった。

「──……が、と」
「え?」
「う──……った」
「おまえ、しゃべるの?」
「……れる──?」

 いや、絶対最初はしゃべれてなかったでしょ。
 ずっと金切り声だったよ。
 急に、どうした……。

 ──まさか。

 オレが食べ物を、渡したから?

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