見出し画像

100円コーナーの謎CDにギャップ萌え Cody Chesnutt / Boylife in America

大学生の頃、個人経営の中古CDショップでアルバイトをしていました。

そのお店では、国内盤は全て品番登録で買取価格と販売価格が管理されていて、管理外のインディー盤とか輸入盤は店長と音楽に詳しいバイトスタッフが値付けするという形でやっていました。そして一定以上の価格の付いた商品にはレコメンドコメントを書く。

アルバイトは僕の他に2人。
全然音楽に興味なさそうなおじさんと、ヒップホップ・R&Bに詳しいお兄さん。
基本的に店番は店長と二人かバイト一人で行うので、他のバイトと顔を合わせることはほとんどありませんでしたが、ヒップホップ好きのお兄さんの痕跡は彼が値付けしてコメント文を書いて店頭に並べたCDから窺い知ることが出来ました。

昨年(固有名)のブレイクで話題をさらった(固有名)主催のレーベル(固有名)発の新人(固有名)待望のデビューアルバム。往年の(固有名)を思わせる攻撃的なラップと(固有名)などの大ネタ使い、同郷LAの(固有名)や(固有名)をフィーチャーした豪華な一枚。

みたいな、固有名が分からなければ何がポイントなのかよく分からない解説と、金色のアクセサリーをじゃらじゃら付けた強面の男性が写ったどれも同じように見えるCDジャケット。
あー、僕にはこの辺りのCDの価値を判断するのは無理だと早々に諦め、買い取ったCDの中にそれっぽいジャケットのものがあれば、ヒップホップお兄さん案件として脇によけていました。

さて、今週のディスカバー

Cody Chesnutt / Boylife in America

この曲が収録されている"The Headphone Masterpiece"というアルバムは2002年発売だそうなので、アルバイトしていた時期に目にしている可能性は十分にある訳ですが、もし当時このCDを買い取っていたとしたら、僕のジャケ診断の結果、100%ヒップホップお兄さん案件だし、ジャケットデザインのクオリティの低さからして多分100円コーナー行きだな、と判断したと思われます。
雑に並べられた国旗のチョイスとか謎過ぎるし。
ドイツ、日本、イギリス、ラスタの旗に、青一色に星ひとつの国旗。
青い国旗はどこの国のか分からなかったので調べたところ、ソマリアの国旗でした。このコーディ・チェズナットという人、ジャマイカ系アメリカ人だそうなので、エチオピアと隣り合ったソマリアの国旗を掲げているのはそのことと関係があるのかもしれない。何にせよ統一感のないことこの上なし。

今週のDiscover Weeklyに流れてこなければ、一生聴くこともなかったと断言できます。

が、これがジャケットの印象からは想像も付かないラブリーな宅録作品。
いや、むしろ音を聴いてからこのジャケットを見ると、このデザインの洗練されてなさと内容が最高にマッチしてるとさえ思えてきました。
チープなドラムマシンのリズムと、深夜に壁の薄いアパートの一室で録音したのかと思う程控えめに鳴らされるアコースティックギター、安っぽいリバーブの掛かったボーカル。音を外したテイクをそのまま使っちゃう詰めの甘さ。
かと思いきや、アルバムにはしっかりソウルしたりファンクしたりヒップホップしてる曲も多数。とにかく録れるだけ録りまくって詰め込んだって感じで36曲。
もしリアルタイムでこのアルバムに出会っていたら、宅録キッズだった当時の僕はきっと熱狂してたはず。

Discover Weeklyがランダムなレコメンドによって僕の偏見や先入観に穴を空けてくれます。
自分とは関わりのないトライブのものだとか、大した内容ではなかろうと思い込んで耳を傾けることのなかった音楽と接触させ、十数年前の記憶の底をつついてくる。

こちら側からSpotifyに突っ込んでいる好みの情報は、十数年のリスナー遍歴の極々一部にも関わらず、既にAIの方が自分よりも自分のことをよく分かってる…という気分にさせられる状況が生まれています。

今始まっているこの状況が、これから登場するAIネイティブ世代の時代ともなれば、親よりも自分よりも、子供の頃から人生を併走してきたAIのサジェスチョンに全てを委ねるのが何より正しい…みたいな感じになっていくんでしょうね。
(おわり)


「今週のディスカバー」マガジン作りました。


どうもありがとうございます。 また寄ってってください。 ごきげんよう。