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少年から老女に変身する書家 Connie Constance / English Rose

先々週『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を観てから1969年前後の音楽ばかり聴いてる。より具体的に示すと、1967年から1970年。

十代後半から二十歳くらいの時期にこの辺りの年代のアメリカとイギリスの音楽を聴きまくっていて、その中には随分長い間聴き返すこともなかったものもあるので、自分が生まれるより十数年前の時代ではあるけど、古い記憶を掘り起こすように聴いています。

なぜそんなことに取り憑かれているかというと、この映画の舞台が1969年の2月8日と9日、そして8月9日なんだけど、そこに描かれた風景や音楽が僕の頭の中にあった1969年像と結構ズレがあったからで、1968年っぽいなって思ったんですね。
そりゃあ2月だったらラジオから流れる音楽も前年までにヒットした曲中心だったりするのは当然だし、そもそもまだ生まれてきてもなけりゃ行ったこともない土地の話で、その一年の差の何をお前は知ってるんだって話なんですけど。

で、恐らくいろんな後知恵によって頭の中に形作られてきた各年の像がなんでそうなっているのか、ざっくり年ごとで捉えていたものを月単位まで細かく切って見直したらどうなるかと思って振り返り始めた訳です。……暇か。

それでひとつ記事にまとめようと思って書いていたら思いの他文字数が膨れ上がっていって、これはひとつにまとめるのはしんどいなぁ…ということで3ヵ月ぶりの「今週のディスカバー」で筆休め。本編は今後ぼちぼち公開します。

本当にこの2週間は67年から70年の音楽しか聴いていないので、Discover Weeklyの選曲もさぞそっちの方向に引っ張られるだろうと思いきや、流石のSpotify。そう一筋縄ではいきません。

30曲を年代ごとにまとめるとこんな感じです。

1960年代 4曲
1970年代 5曲
1980年代 2曲
1990年代 1曲
2000年代 1曲
直近5年 8曲
ニューリリース 9曲

ぽつんとある90年代の一曲はモート・ガーソン(60年代に黎明期のMoogシンセサイザーで変な音楽作ってた人)だったり、80年代の2曲はどちらもジョナサン・リッチマンだったりするので、しっかりツボは押さえていて、直近5年以内に発表の作品の中には60年代の曲の編集盤なんかも混じっているので、実質3割以上は僕が今好んで聴いている時代のものに合致しています。

そして、その中にぽつぽつと混じるニューリリースのチョイスのされ方が相変わらず高度で、最近の若いアーティストの60'sテイストの曲もあれば、「最近古臭いのばっか聴いてるけどこういうのも好きだよね」とでも言わんばかりにヒップホップ的なものも混ぜ込んでくる。

そんな中、「やられたー!」って思ったのがこれです。

Connie Constance / English Rose

イギリスの若きシンガーソングライターによる The Jam の"English Rose"のカバーです。

なぜ僕の大好きな曲を知っているんだSpotify!
少なくともSpotifyでは一度もこの曲を再生していないはず。
原曲はこれです↓

今回はかなりストライクゾーンのど真ん中に当ててきたので、Spotifyが僕の視聴履歴の分析からこの曲を選曲するに至った経緯をちょっと考えてみました。

▼この曲が選曲されたプロセスの予想図

まぁ、多分間違ってるんですけど。

Spotifyの楽曲分析には少なくとも以下の指標が使われているようなので、どこがどう作用しているのか正直見当の付けようもありません。

Beats Per Minute (BPM)- The tempo of the song.
Energy- The energy of a song - the higher the value, the more energtic.
Danceability- The higher the value, the easier it is to dance to this song.
Loudness- The higher the value, the louder the song.
Valence- The higher the value, the more positive mood for the song.
Length- The duration of the song.
Acoustic- The higher the value the more acoustic the song is.
Popularity- The higher the value the more popular the song is.
Rnd- A random number. Sort by this column to shuffle your playlist.

とはいえ、あまり真面目に見当を付けようとも思ってないですが。
単純に、こんなふうに選曲プロセスについて妄想すると、自分の趣味の偏りをちょっと客観的に捉えることが出来て、これが楽しいだけです。

さて、肝心の Connie Constance の "English Rose" についても触れておきます。

アコースティックギターの伴奏のみで構成されている原曲が、ここではピアノに置き換えられて演奏されています。これ自体とても素直なカバーヴァージョンですが、ボーカルスタイルが独特。
声変わり直前の少年のようなハスキーで平坦な、ともすると拙くさえ聴こえる歌い出しから、2節目のヴァースの中盤あたりから謎のタイミングで音節を伸ばしたり、跳ねたり、ビブラートを掛ける歌い方に変化します。
3節目中盤の ”♪wild wind home~” あたりからはドスの効いた低音を掘るような歌い方が加わります。
転調する最後のヴァースになるといよいよ単語まで崩れてきて ”♪And caught the first train home” の 語尾とか「のぅ~んぬ」みたいな絶対 home って言ってへんやろって発音になってきます。
まるで少年から老女に年齢も性別もすごい速さで変態していくようなボーカルです。

この感じは何だろうと考えて、書道みたいだなって思いました。
線の伸ばし方とか跳ね方、はらい方に美学があって、たまにぐっと力を入れて筆を置いたり墨をポトリと落としたりする。

ちなみに、この曲を冒頭に置いたアルバム全体はというと、トラップっぽいビートの曲もあればレゲエ、ギターロック、ジャズと割とごった煮な感じで、上に書いたような歌がぐにゃぐにゃ変化するタイプの曲はさほど多くはないです。
その中でもビートのない6曲目 "Bad Vibes"、音の隙間の多い9曲目 "Grey Area"、10曲目 ”Let Go" あたりはやっぱりボーカルが自由なので、是非彼女には『Nina Simone and Piano!』みたいな弾き語りアルバムを作ってほしいな。

そして例によって、僕はこの Connie Constance という23歳のシンガーソングライターのことを全く知らなかったんですけど、最後に確認をと思ってググったら、このカバーヴァージョンが原曲に対するある種の批判性を含んだ意味を持つことを知りました。
原曲が発表された1978年当時、この曲がポール・ウェラーの愛する女性を歌ったものか、それとも愛国心を歌ったものなのか、”English Rose"という言葉の意味を巡ってファンを二分して議論されたそうです(知らんかった)
彼女はそこに”English Rose"という言葉が示す英国らしさの中に自分のような混血を含めた全ての多様な英国人が含まれていると新たな意味を加えます。

純粋に曲の美しさに魅かれましたが、まさかブレグジットの時代へのカウンター的な曲だったとは!

どうもありがとうございます。 また寄ってってください。 ごきげんよう。