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未来の楽器リズムボックス Carrie Cleveland / Love Will Set You Free

ジョージ・オーウェルの『動物農場』はロシア革命の顛末を戯画化した物語です。

人間にこき使われるばかりの生活に不満を抱いた動物たちが、豚が中心となって立ち上がり、農場主を農場から追い出し自らの自治を獲得し、理想の動物社会を作り上げようとする。ところが、指導者的なポジションにあった豚の中の一部勢力が徐々に他の動物たちを支配しようとし始め、追いだしたはずの人間の似姿になっていく…そんなお話です。

日常的に使っているアプリがアップデートされて、UIが微妙にリニューアルされた時なんかに、『動物農場』のとあるシーンを割とよく思い出します。

納屋の壁に理想の動物社会を作るために何項目かのルールが大きく書かれている。豚が書いたものです。
それが、翌朝見てみると微妙にルールが変わっている。
ところが、豚ほど記憶力の良くない他の動物たちは、ルールが変わったことに一瞬だけ違和感を覚えるも、「いや、前からこうだった」と思い直す。
ルールの書き換えはどんどん繰り返され、他の動物たちが気付かない間に豚だけに都合の良いルールが完成されていく。

こんなシーンです。読み返さずに記憶だけで書いているので、ディテールに誤りはあるかもしれません。
何にしろ、ここで豚よりも記憶力の悪い動物に例えられているのは、不確かな記憶をあてにしてしまう愚かな僕らです。

SpotifyのUIで、前からこんなだったっけと違和感を覚えた点が最近ひとつありました。
自動生成のプレイリストには、再生ボタン・送りボタンの左にハートマーク、右に禁止マークが表示されています。
この曲スキ!という場合には左のハートマークをタップして曲をライブラリーに追加します。その曲が好みではない場合は右の禁止マークをタップします。
その禁止マークタップ時の挙動が違和感を覚えた点。

「今後Discover Weeklyでこんな感じの曲は再生しません。」

何このファジーなニュアンス!「こんな感じ」って…
これまでこんな表示出てたっけかなぁ?というのが感じた違和感。

でも、これってDiscover WeeklyのアルゴリズムにSpotifyが絶対的な自信をもっていることの表れではないですか?
あるいは移ろいやすいユーザーの好みに対して予防線を張っているのか?

なんにせよ、絶妙に人間っぽい表現だなぁと思いました。
そんな細部の変化を忘れないように、ここに書き付けておきます。

さて、今週のディスカバー

Carrie Cleveland / Love Will Set You Free

リズムボックスとオルガンとシンセベース、そこに女性ボーカルが乗るだけという構成で、メロディも途中のブレイク以外ほぼワンフレーズの超シンプルな構成の曲です。
寡聞にして知りませんでしたが、このキャリー・クリーヴランドという人が夫のビルと共に自宅スタジオでアレンジ、プロデュースして1978年にプライベートで少量のみプレスされたレコードだそうで、スウィート・ソウル・ファンの中では有名な激レア盤だったそう。

このリズムボックスという楽器の音色が昔から好きで、といってもリズムボックスと名の付く楽器が全て同じ音色という訳ではないんですが。
いわゆるシーケンサーの原始的なやつで、こんな風貌の楽器です。


有名なところでは、Timmy thomasの“Why can't we live together”がオルガンとリズムボックスだけの構成で、上の曲ととても良く似ています。

今の耳で聴くととても素朴な音色だし、全然フィジカルな感触がするんですが、同じくリズムボックスを印象的に使った1973年のSly & The Family Stoneの"Fresh"を聴いた細野晴臣さんが、機械のリズムによって人間のグルーヴが抑制されているこの音楽に未来を感じて、その後のYMOへと繋がっていったというようなお話をされていたのを以前読んだことがあります。

「レトロフューチャー」という言葉もありますが、ある時代に未来の像としてイメージされたものが、振り返って見た時にむしろノスタルジックなものに変わっているというのは良くあることです。

それこそ納屋の壁に書き付けられたルールのように、ずっと同じ未来を見据えているつもりで生きていても、いつの間にかそのイメージは随分すり替わっている。

そういえば、関係ありそうで関係ない話ですが、小学生の時に「未来の絵」という絵画コンテストに入賞したことがあって、僕としては空中に張り巡らされた筒状の道路を疾走する車と巨大ロボットの絵を描いたつもりだったのに、市民会館に入賞作品の発表を見に行ったら、僕の絵の描き方がまずかったのか誤読されて「地底の街」とかって勝手なタイトルが付けられて展示されていて、「地上と地底に別々の街があるという発想が独創的ですね」みたいなコメントが書かれていて、居心地の悪さを覚えたことを今思い出しました。だって、もしその発想の部分で評価されたんだとしたら僕の絵に評価に値するポイントはどこにもない。
今思うと、そんな誤読も悪くはないですけどね。
(おわり)


「今週のディスカバー」マガジン作りました。


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