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今週のディスカバー Jamila Woods / HEAVN

それ程流れの速くない川で、浅瀬に入り、形の気に入ったいくつかの流木を川底に突き刺す。流木は川の流れを切り裂いて水面に模様を描く。そこに何か予想外の現象や不思議な模様が現れてこないかと期待しながら川面を眺める。

毎週のDiscover Weeklyの変化を楽しむ心持ちを比喩的に表現するとそんな感じです。
Spotifyの特化型AIのレコメンドをある種の自然現象と見做して、その中に理解を超えた混沌が描き出されることを期待してしまっています。
この期待が的外れなものなのかは、今のところ良く分かりませんが、そんなふうに意識して聴き始めて4週目。いくつか気付いたことの中のひとつは、至極当然のことながら、Discover Weeklyが豊かなユーザー体験を提供するサービスであるのと同時にSpotifyのビジネス戦略の一手であるということです。

というのも、試みに今週のプレイリストで調べてみたんですが、全30曲を発表年順に並べてみると、今年リリースされた楽曲が20曲、過去2年以内の曲が4曲、その他1960年代~2000年代の曲をばらばらに6曲という割合で、明らかにニューリリースの楽曲が優先的にレコメンドされていたのです。先週のリストも確かにこんな感じでした。

発表時期が新しければ新しい程、ユーザーがその曲を聴いたことがない可能性は高まる訳で、「新しい音楽との出会いをお届けします」というDiscover Weeklyのコンセプトからすればとても理に適っているんですが、要はこれって、ユーザーが曲を再生する毎に発生するフィーが、著作者が既に亡くなっていてレコード会社や著作権の管理団体に支払われるだけの曲よりも、リアルタイムでSpotifyに楽曲を提供してくれているアーティストに対してより多く支払われる仕組みなんじゃないかと。
Spotifyがアーティスト側に楽曲の提供を促す際に、「うちにはDiscover Weeklyがあるから、潜在的にあなた(アーティスト)のファンになる可能性の高いユーザーにピンポイントでリーチすることが出来ますよ。」と説明できる、みたいな。
「だから、この選曲結果はステマである可能性が高いんである!そのことに常に意識的であるべきである!」とかそんなことは全然思わないんですが、AIのレコメンド=無作為な自然現象と捉えるのもそれはそれでちょっとうぶ過ぎるかもしれません。

さて、

今週のディスカバー
Jamila Woods / HEAVN

シカゴのR&Bシンガー、Jamila Woodsの2017年のアルバム『HEAVN』からそのタイトル曲。

と、知ったような書き出しですが、全然知りませんでした。
ところがちょっと検索してみると、自分が彼女のことを知らなかったということそれ自体が、現在の身の回りの情報環境のある側面を映し出しているように感じたので、それについて書いてみます。

Nonameというラッパーが好きです。
彼女の2016 年のアルバム『Telefone』は、ここ数年では断トツ愛聴している一枚。


そして件のJamila WoodsはNonemeと同じシカゴ出身のシンガーで、チャンス・ザ・ラッパーと並んで現在のシカゴシーンを代表するような存在なんだとか。"VRY BLK"という曲ではNonameが客演しています。(↓出典)

そもそも今調べるまで僕はNonameがシカゴの人であることも知りませんでした。そもそも曲以外彼女のことを何も知らない。年齢も知らなければ、ラップの内容も分かんない。
そんな状態で曲だけは何度も聴いてきた訳ですが、よくよく考えてみると、最近好きなアーティストってそういう人ばっか。そういう場面に出くわさないから改めて意識したことがなかったけど、最近好きなアーティストについて誰かに説明してって言われたら何ひとつ説明できないような人ばっかだわ。
下手したらどこの国の人かも知らない。でも曲は大好き。

それが良いとか悪いとかではなく、例えば20代前半くらいまでの頃の自分ならそんなことはあり得なかったなと思う訳です。
何故かといえば、最新の音楽との出会いは多くの場合、音楽雑誌を入り口にもたらされていて、雑誌によってあらかじめその音楽の同時代的な位置付けを確認できるようになっていたから。(例外的にジャケ買い的な体系化できない出会いもありましたが)
今も音楽雑誌は毎月発行されているし、それこそ上にリンクを貼ったサインマガジンみたいな雑誌的な機能を持ったウェブメディアだって複数あります。が、僕はそのどれも日常的に読んでいない。
繰り返しになりますが、それが良いことなのか悪いことなのかは分かりません。
実際こんなふうな状況は既に10年前くらいから徐々に進行していたし、これは単純に自分自身の音楽に対する興味が相対的に低下していった結果とも言えます。
現にDiscover Weeklyが雑誌的な出会いを補って新たな興味を生み出してくれたんだからそれでいいじゃんと思わなくもない。
ただやっぱり、自分の趣味趣向にどんどん最適化されていくツール上でよりは、雑誌みたいな興味の外に拡がりを持ったメディアで出会った方が、出会い方としては豊かだよなとも思います。とはいえ雑誌にだってクラスタはある訳ですけど。


余談ですが、一点 Spotify…というか iTunes Music Store に始まる音楽配信に対してひとつの不満がずっとあって、配信される楽曲のジャケット画像と歌詞情報以外に、演奏者、作編曲者、エンジニア、レコーディングスタジオとかのクレジット情報はつけておいて欲しいなぁと思っています。
CDやレコードなら裏ジャケやブックレットでそれを確認できたんですが、この曲のギター誰が弾いてるんだろう?と思った時そこから興味を拡げていく取っ掛かりがないのはすごく残念だし、単純に良い音楽を作る過程に関わった人たちに敬意を払いたい。

周辺情報を自分で調べようともしてこずにどの口が言うって話ですけどね。

と、また肝心の音楽について語るのを忘れてしまってる。これ書きながらアルバム『HEAVN』ずっと聴いてますが、これ大傑作です!
(おわり)


「今週のディスカバー」マガジン作りました。


どうもありがとうございます。 また寄ってってください。 ごきげんよう。