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映画「きっと忘れない(With Honors)」についての語り

動画配信サービスU-NEXTの見放題作品をふらふらしていたら見つけた良作。
薄く茶色がかったポスターがいい味出していて目に留まったいわゆるジャケ借りなのだが、これがなかなかおもしろかった。


作品情報

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きっと忘れない(原題:WITH HONORS)(1994年公開)
監督:アレック・ケシシアン
脚本:ウィリアム・マストロシモ
キャスト:ジョー・ペシ、ブレンダン・フレイザー、モイラ・ケリー、パトリック・テンプシー、ジョシュ・ハミルトンほか
あらすじ
名門ハーバード大学4年生の奨学生・モンティは、優等賞で卒業することを目指していた。ある日、書きかけの卒論が消えてしまい、下書きをコピーするため図書館へ走るが、歩道の通気口に落としてしまう。それを、地下で暮らす浮浪者が燃やそうとしていた。(U-NEXTのストーリーより引用)

ハーバード大学に通うエリート学生4人と、卒論を拾ったホームレス・サイモンの不思議な交流を描いた青春ストーリー。
物語の軸となっているのは、モンティがサイモンとの交流を通して本当に大切なことを学び成長していく姿だと思うが、4人のシェアハウス生活やサイモンの軽妙なしゃべりを楽しんだり、彼らの会話から経済格差や社会問題を学んだりと、色々な観点から鑑賞できる作品になっている。
以下、私の感じたことをいくつか語りたいと思う。


 ~ここからネタバレあり~


ハッとさせられるサイモンの名言

作中、サイモンはモンティたちに様々な言葉を残すのだが、その中でも特に印象に残っているのが、良い卒論を書いて優秀賞を取って卒業することに囚われていたモンティに伝えたこのメッセージ。

"聞きかじりの知識は信じるな。"
"死者の言葉も信じるな。"
"色々な意見を聞いて自分のフィルターにかけろ。"

情報過多な現代を生きる私たちにかなり刺さる教訓ではないだろうか。
Twitterを見ていれば様々な分野に携わる人々の意見が流れてくるし、グーグルの検索エンジンに言葉を入れれば何万件もの情報が出てくる。インターネットに繋がってさえいればどこにいても情報を手に入れることができるし、現実世界で抑圧されている人々が堂々と意見を述べることだってできる。自分の知りえなかった分野の人々と関わることも出来る。とても便利だ。だが、次々に溢れる情報を自分の中でどのように処理していけば良いのかわからなくなることがある。

その意見には根拠があるか?
その根拠は信頼できるものか?
その意見に疑問点はないか?   
その情報はどこから来たのか?
その情報は正しいものか?

私はよく、自分が伝えたいことをわかりやすく言葉にしている意見を見るとすぐに共感してしまうが、その意見の根拠となる情報が示されていた時それについてあまり調べたことがない。よくない、よくないよな。見聞きした情報や意見は、たとえ同じ意見だったとしてもよく調べる必要があるなと反省した。自分なりの”フィルター”の精度をいかに高め、情報を選択していくのかを私たちは試されている気がする。そして、この”自分のフィルター”は死ぬまで見直して更新していかなくてはならないだろうなと思う。
ちなみに、サイモンは、上記のメッセージを残しながらも「俺の言葉も丸呑みするなよ」と言っており、凄い人格者だなと思わざる負えなかった。法律には詳しくないから何とも言えないけれども、合衆国憲法について語る部分も圧巻だった。彼とエヴァンズのラジオをもっと聞いていたかったな。


大学生のシェアハウス生活

モンティは、コートニー、エヴァンズ、ジェフの3人と共同生活を送っているが、彼らのシェアハウス生活はみていてとても楽しい。ウィットに富む会話はもちろん、個性にあふれる私室、それぞれの大学での専攻分野が垣間見える描写など、彼らの学生生活と性格が端的に表されている。ちなみに、私が好きなキャラクターはエヴァンズ。「言葉を自在に操る」とサイモンに評されるくらい口が達者で、彼がシェアハウスから放送するラジオはとても面白い。あと、エヴァンズは鶏を飼っているのだが、サイモンがこの鶏を調理して作ったディナーをモンティが食してしまう場面は思わず笑ってしまった。


なぜ僕が中で彼は外なんだ?

モンティに卒論を返す条件として、サイモンはシェアハウスの庭に止めてあるおんぼろ車で寝泊まりと食事を要求する。ハーバード大学があるボストンの冬は寒いことで有名だが、雪が降りしきる中サイモンが寝ている暖房もない車を部屋の中から窓越しに見つめるモンティが嘆く。「なぜ僕が中で彼は外なんだ?
自分は暖かくてベッドがあって机があってコンピュータもある部屋で過ごしているのに、なぜ彼は真冬の雪が降り積もる庭でボロボロな車の中で過ごさなくてはならないのか。

シェアハウス生活を送っている4人は、モンティこそ母子家庭で育って奨学金を利用しているようなことも言っていたが、コートニーの家にはメイドがいるらしい発言があったり、シェアハウス生活の費用はジェフの親が援助していたりと、金銭的に余裕のある家庭で育った者が多い。もちろん、サイモンの人柄もあるだろうが、シェアハウスや大学の外の世界の不条理さに気づいてしまったモンティが徐々にサイモンを気にかけるようになる姿は感慨深い。


まとめ

青春映画として楽しむのも良し、サイモンのメッセージを受け取るのも良し、ブレンダンフレイザーのファンになるのも良し、とても良い作品だった。(上では書いていないが、密かにブレンダンフレイザーのファンになってしまった。)何か大切なことを教えてもらった気もする。
色々な本を読んで、漫画を読んで、映画を観て、他人の意見を聞いて、自分なりの意見を言葉にまとめて、”自分のフィルター” を作っていこう。