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ハリネズミの恋 -むかしむかし2-


 魔法つかいのおばあさんと、魔法つかいの助手のネズミがいっしよに住みはじめて、ひとつきがたちました。
 おばあさんの家のげんかんに、小さなかんばんがでています。
      
   まほうのしごと ほか             
        なんでもそうだん        
           ひきうけます
                                                  魔法つかいのおばあさん

                                               

 ながいあいだ、ふつうの人間として  くらしていた魔法つかいのおばあさんには なかなかしごとがきません。なにもしなくても くらしていけるのですが それでは おもしろくありません。
 それに 魔法を使えるようになった魔法つかいのおばあさんは、すこしでも はやく 魔法を使ってみたくてたまりません。
 ネズミは、まちの電柱や森の木にビラをはりにいきました。

 
 その夜のことです。


 魔法つかいのおばあさんの家のよびりんがなりました。
「おや、こんな時間になんだろうね」
 魔法つかいのおばあさんがドアをあけると、
 
                    ハリネズミ

 がいました。

「このビラをみたんですけど……」
 ハリネズミのむすめは、ネズミくんがはったビラをさしだし 小さな声でいいました。
「魔法をつかってほしいんだね!」
 魔法つかいのおばあさんは、目をかがやかせました。
 だまってうなずいたハリネズミは、きんちょうしているのか からだをこわばらせています。
 しばらくして おもいきったようにいいました。
「私のからだから、ハリをとってほしいのです」
「えっ」
 あまりにおもいがけない たのみに、魔法つかいのおばあさんとネズミくんは顔をみあわせました。
 ネズミくんは、あいてにしないように おばあさんのマントのすそをひっぱりました。
そして心のなかで、ハリをとったら ただのネズミじゃないかと思っていました。
魔法つかいのおばあさんは、ネズミくんには目もくれず、ハリネズミのむすめに なぜ そんなきもちに なったのかをたずねました。
 むすめは、せなかのはりをキュッとたてました。
「これなんです。せなかのハリは私たちハリネズミにとって、敵にあったときに 身を守るためにひつような武器なのです。ほら、こうすると」
と、いうと むすめは、ますます せなかをまるめてハリをさかだててみせました。
 ネズミくんは、おもわず キーッととびのきました。魔法つかいのおばあさんでさえ いいきもちはしませんでした。むすめは、かなしげに目をふせると、
「みんな、そうして逃げていきます。あの人も、いまにきっと……」
「あの人?」
 魔法つかいは、顔色をかえたじぶんがはずかしくなって、あわてて ききかえしました。

 

 ハリネズミのむすめは、恋をしていました。
 それも、バクの男の子に…。
 

 ハリネズミのむすめは、森を散歩するたびに おなじ夜行性のバクにであうようになりました。
 バクの仕事は人がみる悪い夢を食べることでしたが、あまり へんな夢ばかりをたべすぎると、気分が悪くなることがあります。そんなときに、ハリネズミのむすめにであいました。
 そして、すっかり なかのいい おともだちになりました。
 でも、どんなに なかがよくても、ハリネズミは、バクのオヨメさんにはなれません。
 むすめは、このごろ、バクの男の子が悲しげな目でじぶんのせなかのハリをみつめているのに きがついていました。

 はなしおわったむすめは、
「だから、魔法で私のせなかからハリを一本のこらず、ぬいてほしいんです」と、おもいつめた目でいいました。
「おばあさんならできるだろ?ほら、本のまんなかへんに、いらないものをとりさるには……って魔法があったでしょ 」
 はじめは反対していたネズミくんでしたが、むすめのはなしに同情して、おばあさんのマントのすそをひっぱりました。
 おばあさんは、おだまりと、ネズミくんをたしなめると むすめにいいました。
「むすめさん、あんたのせなかから、ハリをぬくことはかんたんだよ。千のなみだがながれるだろうがね」
「かまいません。ハリをぬいていただけるのなら どんなことでもがまんします。今でも、苦しいのですから……」
 むすめは、おばあさんにすがりつくようにしていいました。
 おばあさんは、くびをふりながら むすめをみつめると、
「だがね、考えてもごらん。ハリをぬいたところで おまえは、バクにはなれないのだよ。ハリのないハリネズミさ。そんなものになったところで、バクの男の子は きもちがわるいだけだろうさ」
「おばあさん、そこまでいわなくてもいいじゃないか」
 ネズミくんは、おばあさんにくってかかりました。
 青白い顔をいっそう しろくした むすめがあわれでした。
 しばらくのあいだ考えていたおばあさんがポンと手をうちました。
「いいことがある。バクの男の子に、おまえさんの夢を食べておもらい」
「夢を?」
「そうさ。そうすれば、おまえの夢は バクのちからになる。おまえさんはたぶん、何もかも わすれられて、ハリネズミのなかまにもどることができるよ」
「もどりたくないわ、私……。でも」
 むすめは、思いだしていました。このところ、むすめと話しをすることに 夢中で、バクは、夢をたべる仕事をわすれていました。会うたびに元気がなくなるのは、自分がハリネズミのせいだとばかりおもいこんでいました。
「バクは、夢を食べないと生きられないんだよ。そう、たしか ひと月めの十五夜だね。それまではもつけど。それがすぎると、もう 手おくれだね」
 魔法つかいのおばあさんは、ひたいにしわをよせて むずかしい顔をしていいました。
 むすめは、指おり数えていましたが、パッと、顔色をかえて外にとびだしていきました。
「何だよ、あれは。あいさつもしないで……」
 ぶつぶついっているネズミくんに おばあさんは、窓の外をゆびさしました。
「ごらん、お月さまを」
 あとすこしで、まんまるお月さまになりそうな十四夜でした。
「じゃ、あの子は、じぶんの夢をバクにたべさせにいったんだね。おばあさんは、なんでもよくしってるんだねえ」
 ネズミくんはかんしんして 魔法つかいのおばあさんをみつめました。
「バクがひと月 夢をたべないと死ぬなんて、うそさ」
 魔法つかいのおばあさんは、大きくためいきをつくと いいました。
「でもあの子に夢をすてさせるには、あれしかなかったんだよ」
と、じぶんにいいきかせるようにいいました。
 魔法つかいのおばあさんとネズミくんは、魔法をつかえなかったこともわすれて、つかれはてて ねむってしまいました。

                          おわり


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