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クリスマスには花束を


   もうすぐクリスマス。
 魔法使いのおばあさんと助手のネズミくんは、今年のクリスマスはヨーロッパですごすことにきめました。モミの木とサンタクロースがにあうのは、なんといってもパリです。
 パリといえば、フランス語です。
 魔法使いのおばあさんは、フランス語の勉強をしながらホーキの手入れをしています。ヨーロッパまでとんでいくのに、途中で魔法のホーキがおれたら大変です。
「おばあさん、もう一本、スペアをもっていかなくていいんですか?」
  ネズミくんが心配そうに魔法使いのおばあさんに聞きました。
「そうだねぇ、ヨーロッパは遠いし、もし、むこうに飛びやすいホーキがなかったら大変だね。帰ってこれなかったら、もっと大変だし……」
 いつもは、心配性のネズミくんのいうことなどに耳をかさない魔法使いのおばあさんも、はじめての海外旅行ということで、いろいろ気になります。
「おばあさん、パスポートがいるって、おしゃべりのオウムがいってましたけど、私たちはいいんですか?」
「飛行機や船でいくんじゃないから、そんなものはいらないよ。ただ、国境っていうのがあるから、それにひっかからないように、線があったら気をつけるんだよ。国際問題になるんだからね」と、魔法使いのおばあさんは、まじめな顔でいいました。

  魔法使いのおばあさんと助手のネズミくんは、はじめての海外旅行にドキドキです。
「そうだ、あしたから国境の線にひっかからないように飛ぶ練習をしないといけないね」
「おばあさん、外国旅行をするってなんだか、肩がこりますね」
 ネズミくんは、ためいきをつきつついいました。
「しょうがないだろ。これからは魔法使いも世界中のことをしって、広くけんぶんをひろめなければいけないんだから」
 ネズミくんは、けんぶんというのは新聞とにてるのだろうか、にてないのだろうかと思いながらも、世界のことを考えている魔法使いのおばあさんのじゃまをしてはいけないとだまっていました。
 次の日。魔法使いのおばあさんは、二匹のキツネさんになわをもってもらって「国境ごえ」の練習をすることにしました。

「おぉはいんなさい」
 

 スルッ。

 ネズミくんは成功しました。
 ネズミくんは身体もホーキも小さいものですから、キツネさんのまわす なわをじょうずにくぐりぬけることができました。

「おぉはいんなさい」
 

 ズデッ。

 魔法使いのおばあさんはホーキの先をなわにひっかけて、ひっくりかえってしまいました。
 ネズミくんは、失敗したおばあさんをきのどくそうにみると、
「おばあさん、国境線は空のうえにあるんですから、トンビになわをまわしてもらったらどうでしょう」と、いいました。
「それを早くおいい」
 おばあさんは、腰をさすりさすり立ち上がりました。

 二度目のチャレンジです。
 

 二羽のトンビがけやきの木よりも高く、舞い上がりました。くちばしには、しっかりとなわをくわえています。

「おぉはいんなさい」

 トンビがいったとたん、口にくわえていたナワが落ちてしまいました。
 ちょうど下からとんできたおばあさんの身体になわがからみついてしまいました。

「あっ、あ、あぁー」

 ドスッ。

 ついに魔法使いのおばあさんは、ぎっくり腰になってしまいました。


 ぎっくり腰になったおばあさんは、テレビばかりみています。
 そのうち なにやら こわい顔ばかりするようになりました。
 心配になったネズミくんは、明日はもうクリスマスイブイブですよ。そんな顔をしていたらサンタクロースはきてくれませんよと、いいました。
 外は、今年はじめての雪がふりはじめました。
 テレビのニュースは、大きな国どうしの争いをつたえていました。
 とびかうばくだんにあたって、罪のない子どもたちまでぎせいになっていました。

「クリスマスだっていうのに、なにをしているんだろう」
 魔法使いのおばあさんは、ますます ふさぎこむようになりました。
「おばあさん、寝てばかりでは、ますます腰がいたくなりますよ。そろそろ動いたほうがいいんじゃないですか」
 ネズミくんは、寝てばかりのおばあさんに口をとがらせていいました。
「そうだね。そろそろ起きるとしょうか、ネズミくん、パリにはいつでも行ける、クリスマスは、ここに行こう」
 魔法使いのおばあさんは、テレビを指さしました。テレビの中では、あいかわらず戦いのまっさいちゅうです。
 ネズミくんの口がぽかんとあきました。


 クリスマスイブになりました。
 魔法使いのおばあさんと助手のネズミくんは、はじめての海外旅行に出発です。街はクリスマスソングがながれて街中がうかれています。おばあさんの腰はのびて、すっくと立っています。
「いいかい、ヨーロッパまでひとっとびだよ。しっかりとつかまっているんだよ」
 ネズミくんは、おばあさんの背中にしがみつきました。まだまだ未熟なネズミくんは、今回ばかりはおばあさんにまかせることにしたのです。
 いっきにとびあがったおばあさんは、そのままスピードをましていきます。
 地上を見ると、まくらもとに大きな靴下をぶらさげてベッドにはいる子供たちがみえました。サンタさんとまちがったのか、魔法使いのおばあさんとネズミくんにきがついた子どもが手をふっています。
 

 ぶじに国境をとびこえた魔法使いのおばあさんとネズミくんは、戦いのさなかの地におりたちました。
 

 さっきまでの平和な景色が一変し、灰色の世界がありました。
 大砲をつんだ戦車がごうおんをひびかせて走っています。
「おばあさん、こんなところで何をするんですか?ぼく、まだしにたくはないですよぉ」
 ネズミくんは、ふるえる声で魔法使いのおばあさんにいいました。
「あたりまえじゃないかい。みんなにクリスマスプレゼントをとどけにきたんだよ」
 夜になるのを待った魔法使いのおばあさんは、いたずらっ子のような顔をしていいました。
「いいかい、この花のたねを大砲の中にいれていくんだ」
 戦いもクリスマスイブの夜はおやすみなのでしょうか。はいきょのような街もしずかにねむっています。
 おばあさんの話をきいたネズミくんは、目をかがやかせています。
「おばあさん、おもしろくなりましたねぇ」
 ネズミくんは、魔法使いのおばあさんといっしょに朝までとびまわりました。


 クリスマスの朝がきました。
 どこにいたのか兵隊たちがぞくぞくとあらわれました。
「なにもクリスマスの日くらい たたかわなくてもなあ」
 眠そうに眼をこすりながら、ひげもじゃおじさんは、大砲のじゅんびをはじめました。
 みんなの顔も、おなじことをいっています。でも、命令にはさからえません。
 今日の目的は、目の前にある学校でした。
 学校には子どもも、避難しているお年よりもいるはずでした。

『発射!!』
 

 上官の命令がくだりました。
 命令はきかなくてはなりません。ひげもじゃおじさんは、おもいきってスイッチをいれました。

 どおーーーん!

 今日の音は、人一倍大きな音でした。その時、ひげもじゃおじさんは目をこすりました。

 大砲が落ちたところに大きなあながあくどころか、七色の花がとびだしたのです。

「なんじゃこれゃあー!」


 ひげもじゃおじさんのところだけではありません。
 戦争で争っているところ、すべてに花が咲いたのです。

「そおれ、どおーん」

「そおれ」

  ネズミくんのかけ声でつぎつぎに花が咲いていきます。

「メリークリスマス ネズミくん!」

「メリークリスマス おばあさん!」
 

 魔法使いのおばあさんとネズミくんは、うれしそうに空をみあげました。
 クリスマスの朝に緑と赤のクリスマスカラーがあふれています。
 大砲が落ちたところには、たくさんの花の種が花といっしょにまかれました。
  春にはいちめんに、美しい花がさくでしょう。
 美しい花のなかで戦いはできるのでしようか。
 かくれていた子どもやお年寄りがとびだしてきました。
 みんな わらっています。

「メリークリスマス!」
 

 おばあさんとネズミくんは、大きな声でさけびました。
 

「メリークリスマス!!」
 

 みんなの声が、おばあさんとネズミくんのところにも とどきました。

「おばあさん、サンタさんのきもちがわかりましたね」
 ネズミくんは、ほこらしげな顔で魔法使いのおばあさんの背中をつつきました。
「サンタの気持ちはわかったけど、帰り道がわからなくなったよ」
 魔法使いのおばあさんは、こまった顔でいいました。

「なにそれえ」
 

 ネズミくんのひめいがあたりにひびきました。
 やれやれ、魔法使いのおばあさんとネズミくんは、とうぶんヨーロッパにいることになりそうです。

                         おわり


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