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メッセージ  だれかがよんでる……


 ふう子はそんなきがして家をでた。ころもがえをしたばかりのセーターに、オカッパのかみがゆれた。
 図書館まえのいちょう並木は、リンとむねをはって整列しているように美しかった。
 ふう子は、この並木道を通るときにいつもするように目をほそめて、いちょうをみあげながら歩いた。青空と色づいたいちょうの葉が、美しいコントラストをみせていた。
 ふう子は、ドキンとした。
 ふう子をよんでいたのは、このいちょう並木だったのかもしれないと、おもったのだ。
 離婚して家をでたかあさんとも、海外出張で家をあけることのおおいとうさんとも、ふう子は、よく この並木道を歩いた。


 ふう子は、風の子とかく。
「こんなへんな名前をつけられたから、人間の親はどこかにとんでいったんだ!」
 さびしさのあまり、おばあちゃんになげつけたことばは、やさしいおばあちゃんをかなしませたばかりではなく、百倍にも千倍にもなって ふう子の胸をさした。
 じぶんでも、どうしょうもない感情をもてあましていたとき、ふう子は、じぶんをよぶ声をきいたのだ。

 


 ふう子、元気ですか?
 かあさんも 元気でがんばっています。
 ふう子の学校でも、運動会があるころですね。
 街でかわいいスニーカーをみつけました。風のように足のはやいふう子
 これをはいて 今年もがんばってください。

                     かあさんより


 ふう子の胸に、きのう とどいたばかりの かあさんからの便りがうかんだ。
 まっしろいスニーカーは、ふう子の足にぴったりだった。
 

ふう子は、
「ヨーイドン」
とかけ声をかけると、いちょう並木を走った。
 新しいくつは、ふう子の足の一部になってかろやかに舞った。
 そのとき、ふう子は、大都会で はたらくかあさんも るすがちなとうさんも、それぞれが けんめいに走っているのだとおもった。 
 

 ふう子は、いちょう並木のはずれでいきをととのえると、手をのばして一枚二枚と 旅立っていこうとする蝶のような葉をひろった。
 家でしんばいして ふう子のかえりをまっている おばあちゃんへのおみやげ。そして、大都会で働いている かあさんへのプレゼントにするつもりだった。


かあさん
ふう子、元気でがんばっています。
こんなへんてこりんな名前のおかげで、人間の友だちのほかにも 花や木の友だちがいっぱいいます。
それをおしえてくれた 葉っぱです。


というメッセージをそえてー。

                              おわり


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