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葉、落つる前に色づく

ベランダのプランターにいつの間にか芽が出て小さな木が生えている。

 毎年、夏には緑の葉が茂り、秋に紅葉する。
 痛いような紅に染まる葉が美しい。
 そうしてしばらくすると葉は全て落ち、裸木となる。
 一見、枯れたように見えるが、春にはまた必ず芽吹いてくれる。

 植えたわけでもない。
 名前もわからない。
 だけど、私はこの木と共にここ数年を過ごしている。


 「恋愛をしたいの」と夢見るように語る人妻に、
 独身の彼女が「傷つくのは自分。」と諭す。

 いくら諭されても、
 のどの渇きを訴えるように、人妻は

 「うん・・・、そうなんだけどーー
  でも、恋愛したいのよねぇ・・・。」と繰り返す。


 どちらの気持ちもわかる私は
 側で聞いていて、何も言えない。


 「どうしたらいい?」と問われれば、
 「やめておけ。」という他ない。

 でも・・・
 人妻の彼女が恋愛をするって、
 本人が言うほど簡単なものだろうか?


 彼女はどんな形の恋を望んでいるのだろう。


 「片想いからやってみたいんですよねぇ・・・。」


 ・・・なるほど。

 トキメキが欲しいのか。


 「いえ、本当に恋がしたいんです。」


 本気の恋を?
 でも、今の生活を捨てる気はないのでしょう?
 それだと、最初は楽しいだろうけど、深みにはまるにつれ、修羅場は必至。
 そうならない割り切った関係の交際も世にはあるのだろうけど・・・
 そう都合のいい恋愛が転がっているとは思えないーーー


 そう、
 恋愛は「したい!」と思ってできるものではない。
 ある日突然、石にけつまずくようにして恋に落ちる。
 或いは、運命によって、出会うべくして出会う。
 そういうもの。

 不倫などする気は毛頭ないと思っていても、
 なぜだか不思議な縁で結ばれてしまったり。


 この年になって、そんなことなどあり得ない・・・
 自嘲気味の笑いを浮かべて考えてみる。

 人生80年の時代、
 まだ半分が残っているわけで・・・・

 その半分の人生に、一つも恋はないと思ったら
 それはそれで、なんだかとてもさびしく思える。

 桃色の花の咲かない道を歩けと?
 見つけたら、即、手折れと?

 手折って、その花をそっと一輪挿しに飾って愛でるのはいけないこと?


 「それだと婚姻関係は成立しないんですよ。」


 もっともなことを独身の彼女が言う。
 その意見は正しい。

 逆の立場で、主人にそんなことを思われていたら困ると思うし。

 人の心は複雑なものだ。


 陽のあたる明るい道の真ん中を陽気に歌いながら歩いて行きたい。
 花は、できればたくさん咲いていてほしい。
 色とりどりに。
 鳥のさえずりが聞こえたら、なおいい。
 できれば・・できれば・・・・ 


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2004年12月の日記再掲

あれから15年。文中の“人妻”、当時ちょっと心配だったけど、今とっても幸せそうに暮らしてます。

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