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『野ブタ。をプロデュース』感想

※2005年11月10日の日記再掲

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大きな書店へ家族で出かけた今年の9月、
中2の長女に「読みたい本がある」とねだられ買ったのが『野ブタ。をプロデュース』(白岩 玄:著 河出書房新社)。

現在ドラマとして放映されている原作本だ。

ドラマ『野ブタ。をプロデュース』にはジャニーズの人気アイドル亀梨和也くん、山下智久くんの二人が共演、主題歌もヒット中。
なかなかおもしろい話のドラマなので原作にも興味が湧き、長女に借りて私も原作を読んでみた。

ドラマは原作とかなり異なっていて、
本を読んだからといってドラマの今後の展開は全く掴めなかった。

しかし、本としてなかなかこの作品は楽しかった。
さすが2004年度の文藝賞を受賞しただけのことはある。

作家は1983年京都市生まれの21歳。
その若い新鮮な感性でスピーディーにテンポ良く物語を運んでいく。

男の子というのは心の中でこんなことを考えているのか・・・!と目から鱗。
様々なことに毒づき、生々しいツッコミを入れまくる男の子の視点の面白さが楽しい。
文章の表現も今の感覚が生きていて、非常に読みやすい作品だ。


主人公「桐谷修二」は高校2年生。
成績優秀、スポーツも万能、明るい性格でクラスの人気者、
家庭でも朗らかな「いい子」だ。

しかし、それは彼が「着ぐるみショー」と称して演じている姿。
本来の彼は他人と一定の距離を持って接していたいと願っており、他者の誰にも心を開いていない。

「友だち」も「恋人」も本当はいらないのだけど、アイテムとして所有しておいた方が「高校生活」という3年間に渡る退屈なRPGをこなしていく上で有利なのでゲットしている。

それが高じて、転校生のいじめられっ子のクラスメイトを人気者に変えていくというプロデュースゲームにはまる。
紆余曲折を経て、クラス全員に無視されていた転校生は
人気者となっていく。

もちろんそうなったのは修二が提案した様々なアイディアのおかげなのだが、彼は「契約」と割り切って振舞う。

いじめられっこだった「野ブタ。」との間に友情に似た関係も生まれ、修二もそれを意識するシーンもあるのに、彼は自身の殻に閉じこもり「友達」を拒否する。

それは恋人に対しても同じで、
ステータスとして付き合っている学年一人気の女の子へも差したる愛情を持ち合わせていない。

彼女の方は修二を愛しており、あらゆる面で献身的に尽くすが、それさえ彼にとっては負担でしかない。

他人と関係を持つことを極端に恐れ、嫌っている。

つまり、人との関係の持ち方を知らないのだ。

彼は愛を知らない。


小説中に彼の家庭の様子はあまり描写されていない。
それは修二が家族に対して全く興味を持っていないことと、
家族も彼を放置していることを示しているのだろう。

特に問題のある家庭であるようなくだりもない。
だが、根深いところで問題があるのではないだろうか。

「いい子」でないと自分を受け入れてもらえない。
「いい子」の仮面をかぶっていさえすれば、誰も文句を言わない。
そう悟って「いい子」を演じることを身につけていった過程には、愛されない寂しさを痛感した様々なことがあったに違いない。

そうして、それを見抜けない両親にも問題があると言えるだろう。

ありのままの自分を愛してもらえることができたら、修二の仮面は割れる。
しかし、彼自身が素の自分を見せることを極度に恐れているのでなかなか難しいだろう。

もう一、二年もし、彼が成長し恋愛をすれば変わることができるかもしれない。

恋愛は、自分の内部に精神的にも肉体的にも他者を受け入れることから始まる。
修二にはこのハードルが人一倍高く、飛び越えることは困難なのかもしれないが。


一方、さらに数年を経て社会人になった時のことを考えると・・・

成績優秀な修二は面接もうまくこなし、いわゆるいい企業に就職できるかもしれない。

会社という組織内では誰もが役割を与えられている。
「役割」を演じるのは得意な修二は優秀な社員であり、エリートだろう。

結婚も「いいお嬢さん」とできるかもしれない。

誰もが羨むような人生。

だけど、彼はこの人生が楽しいだろうか?
日々がとてもしんどいはずだ。

人間、いつまでも無理を我慢できるものではない。
どこかで、また破綻を迎える。

彼が本当の愛を知り、人を受け入れ、信じ、愛することができるまで、
得られない愛を求めて苦しみながら、彼は「愛される自分」を演じ続けるのだろう。

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私のブログ「夢で逢えたら…」に同じ記事があります。

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