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JANOME 2話

Part2.  

大きな門前に着いた4名。「かんみつぅ〜!」マリが慣れた様子で呼んだ。大きな音をたて門が開く。「マリ様!お帰りなさ、あっ…ウネメ様もご一緒で」そう慌てた様子で恥ずかしげに目を伏せながら迎えに出てきたのは小梅という新人の女の子だ。「燗蜜は?」目の前を通り過ぎながらマリは持っていたバッグを小梅に預ける。小梅は両手で抱えながら「燗蜜様は散歩に行くとおっしゃってからまだ戻っておりません。」そう言うとズレた眼鏡を掛け直した。「ったく、またどっかで飲んだくれてるわね。」マリが不機嫌な中、小梅はさっきから気になっているケセラを目をパチパチしながら見つめた。「今日からうちで預かることになったケセラよ。入り口の部屋が空いてたわね?とりあえずそこに通して。」ウネメは身体中に装備していた武器を外しながら、できるだけ簡潔に答えた。「えっ、あ…はい!すぐに!では、こちらへ。」ケセラとともに小梅はバタバタと慌ただしく部屋に向かった。「ふぅ〜。で、どうすんの?」縁側に腰掛けたマリがウネメを見た。「マリ、あいつが出た。」ウネメがそう言うとマリは驚いた顔をして答えた。「まじ?」「話通りの個体だった。あの異様な雰囲気からしても間違いない。」そう話すウネメはどこか思いつめた表情だった。マリは気持ちを汲み取ったのか、「そっか。」と、一言だけ返した。突然のことで上手く言葉が出ずにいた。そんな二人の様子を、お茶を出そうとしていたカゲはお盆を手にしたまま見守っていた。「お疲れ様でした。今回の一件は私からユミヒキ様に報告いたします。それと、ケセラさんの部屋の準備もいたしますのでお二人はどうぞゆっくりお休みください。」カゲはお茶を出しながら微笑んだ。「カゲさん、お風呂沸かしてくれる?」マリは背伸びをしながら疲れた様子で戻っていく。

一方、部屋を案内されたケセラは入り口すぐの部屋に案内されていた。廊下のすぐ真横の部屋だった。「ここです。」にっこり微笑む小梅は説明を始めた。「お手洗いやお風呂場は出て左に進んだところにあります。何か足りないものなどありましたらいつでもお申し付けください。ここは少し狭くて窮屈かもしれないですが、なんだか落ち着く場所だと以前住まわれてた方がおっしゃっていました。」そう言うと微笑んだ。確かに部屋は狭く、長方形で入り口のすぐ隣がベッドになっている一風変わった部屋だった。部屋というより、あるスペースを使って無理矢理部屋にした感じだ。「十分よ。ありがとう。」少し微笑みケセラは答えた。「もし御用がありましたら地下1階の料理場におりますので。では、私はこれで。」そう言うと小梅は礼儀正しく部屋を出た。窓の外に目をやったケセラは、ぼんやりと部屋の窓から景色を眺めた。「不思議な結界ね。」ふと下を見ると綺麗な花が咲き誇っている。蛇の目の棲家は地下3階から地上5階までの屋敷となっており、うねるように地下へと続く建物は地下2階までは外からも移動できて見える造りとなっており、地下3階だけは建物内からしか行けないようになっていた。下へ散歩へ行こうとケセラは部屋を出た。朱赤の花たちは初めて見るとても珍しい花で見事に咲き誇っていた。目の前からふらふらと小柄な女が歩いてくるのが見えたケセラは、ここの女たちの一人だろうと思い一瞬立ち止まったが、女はふらふらと歩きながら手に何やら瓶らしきものを持ちケセラの真横を通り過ぎた。とても酒臭い。酔っ払っているのだろうと、そのまま通り過ぎようとした瞬間、「見たことない顔だね。」ふらふらの女はケセラに話しかけた。ケセラが振り返ると同時に、顔がすぐ触れそうな距離にその女は迫っていた。「っひ、ひ…っく」泥酔状態のようにも見える女は、ケセラから視線を逸らさず「何者だ。」そう問いかけた目の奥はとても怖い。咄嗟に危機感を感じとったケセラは後退りながら「今日からここに…」そう言いかけた瞬間、首を押さえつけられ地面に倒されていた。一瞬のことで何が起こったのか分からないほどの速さだ。仄暗い瞳のまま女は「みすみす屋敷に上げるわけにはいかないよ。こう見えてもあたし、っく…ひっく、パトロール中だ。ひ…っく」」そう言うと、手に込められた力が強くなりケセラは意識が遠のいていく。「燗蜜やめな。」振り返ると、ウネメが立っていた。「あ?」燗蜜と呼ばれたその女は、一瞬手を緩めた矢先、何者かが宙を舞い強烈な足蹴りを受けて吹っ飛んだ。「こんのクソアマ!!また性懲りも無く飲んだくれやがって!」周囲が煙立った。強烈な一撃を放り込んだのはものすごくガタイのいい女だった。筋肉質だが髪型はツインテールといった具合のアンバランスだ。ズカズカと燗蜜の元へいき胸ぐらを掴む。「あんたは何回言えば日本語が理解できんだ?あ?!もう考えるオツムまで酒で溶けてんじゃないだろーな?」ガミガミとガタイのいい女は説教を始める。「はぁ、始まった。」ウネメはいつものやり取りらしい様子にうんざりしている。ケセラはようやく息ができるようになり、コホコホと咳き込んでいた。「あれは燗蜜で、あっちのガタイがいいのは麦よ。」ウネメはケセラを気にする様子もなく紹介を始めた。「あ?」麦と呼ばれる女は燗蜜の胸ぐらを掴んだままケセラの方を見た。「って、あんた誰?!?!」驚いた様子の麦に「だから不審者なんだってば。ひっく、」燗蜜は答える。「ちょっと、ウネメ!何よその子?!」麦は訳が分からずと言った様子でウネメとケセラを交互に見ている。「今日からうちの一員よ。ね?ケセラちゃん。」ウネメはしゃがみ込み肘をついた。燗蜜の胸ぐらを掴んだままの麦は驚いた表情だ。「へぇ〜。珍しいこともあるもんね。あ、そーだ、こいつのせいで掃除屋が一人足りないのよ。その子回してくんない?」「いーわよ。器用そうだし、なんでもできるわよね?ケセラちゃん。」にっこりと不気味に微笑むウネメ。「働かざる者食うべからず。」そう言うと立ち上がった。「ん?なんか変な匂いしない?」麦がそう言うと、どこからかジリジリと音がしている。何かが焼けるような匂いだ。燗蜜のポケットにぶら下がっていた火薬が引火していた。「わーーー!!お前、燃えてる!!」麦は慌てた様子で燗蜜から離れると途端に爆発した。燗蜜は何食わぬ顔でニヤついている。「この女ぁー!!」麦と乱闘が始まった。「うるさーーーーい!!!」3階の窓から風呂上がりのマリがバスタオルを巻いたまま怒鳴っていた。何やらいつもの光景のようだ。そんな中、「皆様、緊急です!!」小梅が慌てた様子で呼びにきた。「こんな時間に珍しいわね。おい、聞いてんのか?酔っ払い!あんたが行きな!」麦は燗蜜を睨んだ。「………。」無言のまま燗蜜は酒を飲んでいる。そんな中小梅が焦った様子で説明に入った。「それが…ユミヒキ様からの要請で。例の東での会議がしばらく続きそうらしく、鳳に代わってのお仕事です。鬼門の鍵交換です。」「げ!あの陰気臭い場所の?!」たまらず上からマリが声を上げた。「わたし丸一日仕事だったから無理よ。じゃ、あとは頼んだ。」そう手を上げマリはそそくさと窓を閉めた。「私も同じく。護衛で疲れてんの。じゃ、休むからあとはよろしく。」ウネメも立ち去る。小梅は飲んだくれている燗蜜を不安そうに覗き込んだ。「燗蜜様、よろしくお願いします。」「あいよ。」酒瓶の蓋を閉め、ふらふらと立ち上がった燗蜜は不敵にニヤリと微笑んでいた。


自室に戻ったウネメは、シャワーを浴びて出ると曇った鏡を拭き取りながら自分を見つめた。巻いていたバスタオルが落ち、着替えようとしてはっとした。「こんなとこまで。」腰から右腹まである鱗のようなものが赤黒く広がっていた。静まり返る室内のなか、ウネメは右腹を手で覆った。 2話完


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